ヴェルディの「トラヴァトーレ」の「武器をとれ! 武器をとれ!」という劇中の歌詞と、現実のオペラ座の三階席からイタリア独立を訴えるイタリア国旗に対応した三色のビラを撒く行動とがだぶっているように、リアリズムと様式感が、ヴィスコンティにもあまり類のない形で結合している。
(NHK BS-2の放送ではこの歌詞が訳されていなかった)
ロングに引いた絶妙なカメラ・ポジションから、ロケーションでもベネチアの街並み全体を巨大な装置のように見立てて人物を動かすセンス。
膨らんだヒロインのスカートや、中尉の軍服のマントなどの揺れ具合が、割と長めのカットの中で独特の優雅さな動きを見せる。
あるいは広壮な屋敷の中で奥行きを強調したアングルから、奥へ奥へと人物が動いていくのが、自然と自分を追い込んでいく姿になっている。
装置と衣装と役者の動きを全体として掌握している舞台演出的センスと、映像のリアリズムと、絵画的な色彩とが、渾然一体となった分厚い演出。
ストーリーはメロドラマ的だが、終始中尉の俗物性や臆病さ、安っぽさから目をそらさず、にもかかわらず彼に溺れてしまうヒロインの愚かしさからも目をそらさない厳格酷烈なリアリズム。
ヒロインの愚かしさが、人間性の深い部分からの激情から来ているのをありありと感じさせる。
蒸し風呂のような馬車の中でもベールを取らずに汗を拭っていたヒロインがベールを取られるクライマックスの効果。
アリダ・ヴァリの終盤の表情は、後年のホラーの魔女役より余程コワい。
もう少し英雄的に扱われそうな独立運動家のウッソーニ侯爵が、戦闘の中でなんだかあいまいに消えてしまうのが不思議な感じ。相当に当時の検閲で切られたせいだろうか。
(☆☆☆☆)