prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「この愛のために撃て」

2011年08月14日 | 映画
看護助手サルテ(ロシュディ・ゼム)が、撃たれた上バイクにはねられて病院に運び込まれた謎の男サミュエル(ジル・ルルーシュ)の世話をするうち、何者かに妊娠中の妻を誘拐されサミュエルを連れ出すよう命じられる、という冒頭からどう展開するか大筋は見当つくし、実際その通りになる。典型的「追いつ追われつ」式娯楽映画で、その典型に忠実なのがまずうれしい。
語り口がきびきびして随所に使われる省略法も冴えて、上映時間が85分という短さなのも、うれしい。

犯罪者と善人の二人が一緒に行動するのはバディ・ムービーそのまんまだがさほど両者が影響を与え合うわけではなく、その場限りの協力体制なのがフランス式ハードボイルドで、犯罪者ジル・ルルーシュの佇まいもまことにハード。邦題とはだいぶ感触が違う。
善人であるサルテやその妻も追い込まれると思いがけない行動に出るのも説得力がある。

警察への不信感と敵視ぶりはほとんど70年代の東映映画を思わせるくらい。もともと日本の警察の方がかなりフランスの制度を手本にしているのだから、不思議はないが。
終盤、サミュエルが仲間たちに働きかけてとんでもない騒ぎを起すあたりは「野望の王国」を思わせたりする。ぶっとんでいて、楽しい。

サミュエルとサルテが刑事と逮捕された犯人を装う場面、サルテがぼくが刑事役をやると言うと「(おまえは)顔が善人すぎる」と却下されるのに笑ってしまう。刑事というのは、犯罪者なみに悪相というのはあちらも一緒らしい。

出てくる連中が金髪碧眼の典型的(?)白人がまったくおらず、アラブやアフリカが仲間の地中海沿岸の住人という感じの濃ゆいマスクが並ぶ。

地下鉄の生かし方がうまいのは「白い少女」「サムライ」の昔からフランス映画のお家芸的なものがあるが、ここでは「フレンチ・コネクション」ばりのすごい追っかけを見せ、しかもハリウッド映画の真似がかっていない。
主人公のキャラクター造形は「サムライ」のアラン・ドロンから、サルテという名前は「シシリアン」のドロンからというフレッド・カヴァイエ監督のインタビューを読み、なるほどと思う。
(☆☆☆★★★)
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