足を洗って健全な家庭に入ろうとしたヤクザが結局元の世界に戻ってしまうのが映画「竜二」のストーリーなのだが、その「竜二」が作られるまでの舞台裏を扱っている。
舞台裏といっても、「竜二」のドラマを背景を変えて改めて語りなおしたようで、一種の本歌とりでもある。
主人公は役者でヤクザではないのだが、いわゆる平穏で健全な市民生活についになじめないのは一緒。そして役者とか映画の世界自体、あまり「健全」な市民生活とは違う世界で、作り物の映画のヤクザの世界より映画の作り手にとってもよく知っていてリアルな分、痛いところがある。
香川照之扮するドキュメンタリー監督が劇映画となるとまるで芝居をつけられず現場が立ち往生してしまい、木下ほうか扮する製作部員がせっぱつまって現場を仕切ってしまうあたり、何かいたたまれなくなるような感じが出ている。
木下氏に監督経験があるのを知っていて見るとなおさら興趣あり。
足りない製作費を監督が用立ててきて、それは監督の仕事ではないと怒られるあたり、いわゆる映画愛を標榜する映画にはないリアリティがある。
いたたまれないといえば、石田ひかりが映画にのめりこみすぎておかしくなってきた夫の高橋克典が妻役の奥貫薫相手にセックスシーンを演じるのをなんともいえない感じで見ているあたりもそうで、これに耐えられなくなるようでは監督はできないということか。
高橋克典が主役らしい大振りな柄を持っているので、映画スターに憧れるのがサマになる。