順番を間違えていきなり3Fのアッツ島の玉砕などの戦争画から見てしまった。
巨大なキャンバスに多くの人物が入り乱れて多彩なポーズをとりながら全体として大きな力動感を醸しだしている造形性は、明らかにヨーロッパの宗教画の影響がみられる。
その中であちこちに突き出ている銃剣が目立つ。日本刀のようで日本刀ではない、西洋の画に描かれた刀のよう。
異様なくらい画面全体が暗く、パリ時代の乳白色の肖像画とは対照的。
闇と光というより、暗がりと白味といったより表層的なコントラストに思える。
画題としては玉砕、真珠湾、など有名どころが多いのだが、なぜかアメリカ側の救命艇の遠くの波間にサメが見えるという「救命艇」はこれも造形的には西洋の絵画の影響歴然で、米兵がやたら雄々しいポーズをとり造形的にもやたら力強いので、これで日本の国威発揚になったのだろうかと不思議になる。
それらの間にぽつぽつと違うタイプの画もあって、南米の女性たちの画はすべて視線はばらばらだったり、猫たちが大勢入り乱れた画もそれぞれが違うポーズをとりながらトータルとしての造形性を見せている一方、猫の顔だけが細い筆で描かれていたりと、細部が奇妙に浮かび上がるあたり、奇妙にアンバランス。
映画「FOUJITA」が公開待ちの小栗康平監督のインタビューをはさんだ特集を先日NHKでやっていたが、結局西洋志向でいながら当然西洋的にはなりきれなかった存在として見ているみたい。
藤田が監督した短編映画というのも上映されていた。昔の日本の田舎の子供たちが床屋に行ったり獅子舞を見たりといった今の目で見るとごく素朴な日本の良さが自然に写っている(かなり演技をつけているのが歴然としているが)が、こんな貧乏なところを見せるのは国辱ものだと公開差し止めになったのだという。
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