三つのパートが一つの時間軸で絡み合うのではなく、時針と分針と秒針がそれぞれ独自に動きながら絡んだり追い抜いたりするような構造はクリストファー・ノーランの初期作品である「メメント」から「インセプション」に至る共通したものであることがわかる。
実話をもとにして実物主義で撮影されたといっても、時間構造が直線的なそれではなく円環的それも同心円状ということで、生か死かの二分法ではなくその間の宙ぶらりんな死んだと思ったらまだ生きている感覚を出した。
体感的な映画には違いないけれど、「プライベート・ライアン」式の生々しさより知的な印象が勝っている。
空中戦で眼下に見える海の広がりと質感はこれが実物主義とフィルム撮影で狙ったものかと思わせる。上映はデジタルだったが。
ドイツ軍の姿をほとんど描かないのと、もともと撤退戦なもので戦って勝つカタルシスを狙わず、無事に円滑に逃げ延びるのに焦点を合わせているのに、司馬遼太郎の作品でしばしば出てくる最も難しいのは戦いながら逃げ伸びる撤退戦(実例としては浅井長政に寝返られて逃げる織田信長軍の殿のしんがりをつとめた秀吉と家康)という話を思い出したりした。
ここで逃げて無事でいられたからこの後の反撃も可能になったのだなと思わせる。
(☆☆☆★★)
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