prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「くたばれ! ハリウッド」

2004年10月17日 | 映画
原作(?)のロバート・エバンス自伝そのものと比べると大幅にはしょってある(「コットンクラブ」でのマフィアの介入とか)が、この人のしぶとさ、あくの強さは伝わってくる。復活したばかりかアニメのキャラクターになっているのだから。それとハリウッド上層部の鬱陶しさと無定見ぶり。
周囲がみんな反対しているのにあくまで押し切ってしかも成功するなんて、映画以上にドラマチック。それでいてアリ・マッグローをものにしたのに捨てられるあたりもなんだかセコくて可笑しい。


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「父、帰る」

2004年10月16日 | 映画
オープニング、柵に寄りかかってタバコを吸っている母親の姿に、タルコフスキーの「鏡」みたいと思うと、帰って来た父親が裸にシーツをかぶって寝ている姿を足の裏から撮るは、食卓でワインとパンを配るは(最後の晩餐)で、この父親、キリストのメタファーかと思う。もっともこういう話の常で、父親は勝手なことばかりする(そのへんもキリストらしかったりして)。またたいていのシーンが水のそばか雨の中で展開しているのもタルコフスキーと結び付けたくなるが、あまりこだわらない方がいいだろう。

均衡のとれた構図、ゆるやかな横移動撮影、銀残しらしい寒色にグレーが混ざった深みのある色彩(フィルムはコダック)など映像的には魅力あり。

ただ、掘り出した箱の中に何があったのかわからないままというのは、納得できない。父親が体格がよくて遠くで働いていて割と金を持っていて魚を食べ過ぎたから今は食べないなどといったヒントから、だいたい何をしていたかはわかるが、それだけではドラマの売りだけがあって買いがない。
(☆☆☆★)


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「バイオハザード2 アポカリプス」

2004年10月15日 | 映画
アクション・シーンがやたら細かくカットを割って効果音をアップする演出で、かえって動きを見えにくくなっている。どこにどう行けばどこに着くのか、という地理関係もわからない。
ゾンビは頭を撃たなくてはやっつけられないとわかっているはずなのに、やたら胴体にムダ弾を撃ち込んでいる。ゾンビが頭を銃弾で吹き飛ばされるお馴染みの場面が少ない。レーティングが高くなってマーケットが狭くなるのを恐れてか。

ストーリーのひねりは結構面白くなりそうなのだが、上映時間の間ノセるより、続編に興味をつなぐのに使っているみたい。

こういった細かいところを押さえない演出はアトラクション・ムービーでは毎度のことで、いちいち書くのも面倒なのだが、ノリを良くしていそうで実際は悪くしている。ゾンビがいきなり出てくる繰り返しなど、あまりにワンパターン。
ミラ・ジョヴォビッチの奮闘ぶりを見ている分には飽きないが。
(☆☆☆)


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「トロイのヘレン」

2004年10月15日 | 映画
「トロイ」と比べるとロマンス中心の作りで、主演の絶世の美女ヘレン役を宣伝も兼ねてそれこそ世界中まわって探したというが、今の目で見るとロッサナ・ポデスタは美人には違いないけれど絶世という感じではないね。パリスのジャック・セルナスの方はいささか魅力なし。
トロイがギリシャ軍が残していった木馬をわざわざ城内に引き込むのはどうしてもバカに見えるし、これはトロイ側から描いているからなお困る。あと戦争の原因になったヘレンがのうのうと生き残ってギリシャに帰るところもひっかかる。
本物の群集を使っている群集シーンは動きにバラつきがある分ボリュームがあるのは、まだ今のCGでは追いつかない。
音楽のマックス・スタイナーが、タイトルで名前が監督のロバート・ワイズの直前に出る扱いなのは異例。
(☆☆☆)


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目くそ鼻くそ

2004年10月14日 | Weblog
本宮ひろ志の「国が燃える」の連載が休止になったとのこと。
この漫画家の作品はちらと見てすぐ反発を覚えて読むのをやめるのが常だが、映画化された「大いなる完」は、見た女性が怒り心頭に達した調子で怒っていたので物好きにも見てみたら、なるほど怒るわけだと思った。いきなり主人公が女学生を襲う場面から始まるわ、その女学生(南野陽子だぜ)があれこれあった後なぜか主人公とデキてしまうわ、最後に意味なく死ぬわ、やたら見ず知らずの人間が調子よく男を見込んで助けてくれるわで、しかも明らかに田中角栄をモデルにして美化して描いているところがあるのだね。マンガをろくに読んでないのにドラマその他で判断するのも何だけど、読んだ範囲では基本的な違いがあるとは思えない。
センスからいけば明らかに右翼的なのに南京大虐殺を描いて連載休止とはね。弟子の宮下あきらが「私立極道高校」で実在の高校と校章を出してしまい連載中止になったことがあるが、神経がザツなところは一緒か。


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「ノートルダムのせむし男」

2004年10月14日 | 映画
ジャン・ドラノワ監督、アンソニー・クイン、ジーナ・ロロプリジータ主演版。
カジモドとかエスメラルダといった有名なキャラクターが実はドラマの中では受け身で、筋を進めて行くのは宗教的権威者の嫉妬や陰謀なので、案外ロマンチックではない。
セットや衣装は豪華だが、残念ながらかなりプリントが退色している。文芸映画らしく、ものものしくてやや退屈。
(☆☆☆)


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「ワン・モア・タイム」

2004年10月13日 | 映画
70年代に本牧のアメリカ軍基地周辺に現れたロックバンド「GOLDEN CUPS」のドキュメンタリー。A面がバンドのメンバーや関係者の証言で、B面が31年ぶりの再結成ライブの記録という構成。馴染みがなかったせいか、B面の方が興味が持てる。撮影・録音の技術は高度。

監督のサン・マー・メンは経歴・国籍不明の謎の人物(ホント)。インタビューにも一切出ないものだから、マスコミが記事を書く時やりにくくっていけないとのこと。
(☆☆☆)


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「夜を賭けて」

2004年10月12日 | 映画
昭和33年の大阪の在日を再現したオープンセットが見もの。在日たちがまたやたらと喧嘩して歌い踊って豚の脳ミソや胎児を平気で食べて鉄屑を盗みまくってとヴァイタリティ満々で、ビンボったらしい感じがしない。少しセットも映像も立派すぎる感じもするが、それが狙いなのかもしれない。

音楽に「マイ・ダーリン・クレメンタイン」を使って(この頃には「荒野の決闘」はとっくに公開済みだろう)国境を越えたリリシズムを出している。
ススキの原など今の日本にこんな場所あるのかなと思ったら、韓国で撮っているらしい。エンドタイトルにずらっと韓国系の名前が並ぶ。

大阪が舞台で、在日たちが鉄を盗んで売り捌くっていうのを見て、小松左京の「日本アパッチ族」の意味がやっとわかる。
(☆☆☆★)


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「スクールウォーズ HERO」

2004年10月12日 | 映画
監督(関本郁夫)が東映出身のせいか、出だしの高校生たちのワルぶりがまるっきり東映映画の不良みたいなクサさなのだが、照英の棒球すれすれの直球芝居と噛み合うと不思議と鼻につかない。芝居云々より実際にスポーツをやっていた体格や雰囲気が生きた。
ベテラン監督らしく脇のゲスト的出演者(主に吉本興業)の生かし方も手慣れたもの。

役者が実際に走ってパスしてがんがんタックルしているのは、本来当然のことだが見ごたえがある。
テレビドラマの方は全然見たことないので比較はできない。
(☆☆☆★★)


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ダイエー

2004年10月12日 | Weblog
ダイエーが優勝を逃した後もダイエー系スーパーで断固として感謝セールを実施。先着100名さまに記念品贈呈というので物好きにも行ってみたら、レジのねーちゃんが何のことだかわからないでこちらが説明するハメになる。後ろで人が詰まってくるし、冷や汗が出た。で、もらったのは、ダイエーのマーク入りの冷蔵庫に貼付けておく磁石セット。しょーもな。
経営再建問題で揺れてるのとは関係ないのだろうけど、ユルいことしてるなあ。

「片腕カンフー対空とぶギロチン」

2004年10月11日 | 映画
WOWOWの解説書だと「キル・ビル」の元ネタの一つとあったが、ホントかねえ。白い鬚と長い眉のメイクの爺さんが出てくる以外それらしいところはない。あれは香港映画のルーティンだし。
タランティーノは結構いーかげんな発言するから眉に唾しておかないと。
(後註・kossyさんの御教示によると、gogo夕張が操るヨーヨーの元ネタが空飛ぶギロチンということらしい)

ギロチンっていうけれど(英語題でもguillotineと出る)外と中にぎざぎざの刃がついた帽子みたいで、首をはねるというよりもぎとる感じ。
ジミー・ウォングは一応ヒーロー役なのだが、大勢の弟子を使って敵を火攻めにしたりブービートラップを仕掛けたりと、やってることがかなり卑怯。
悪役が独りで、ヒーローが道場を開いている(それで目立ちたくないと意味不明の発言をしている)というのは、逆みたい。

格闘技オリンピックみたいな大会が開催されるのは、考える事はいつでもどこでも似たようなものと思わせる。だけどヨガが格闘技か? 腕がにゅうっと倍ほどにも伸びるのには笑った。
カンフーシーンは多い割に動きがトロい。
“気”を充実させれば空の竹籠の縁に乗ってもひしゃげもしなければひっくり返りもしないというのは、雁屋哲原作の「男大空」にもあった。共通の元ネタがあるのだろうか。
(☆☆☆)


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「ざわざわ下北沢」

2004年10月11日 | 映画
筋らしい筋もなければ、登場人物のキャラクターもこれといって目立たず、もっぱら空気感を捕らえるのに腐心しているような作り。時々気持ちよくなるが、概してかったるい。
バキュームカーが汲み取りに来ていた頃の下北沢(それほど昔ではない)を知っているが、若者の街になったようで実は案外変わっていない。
(☆☆★★★)


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ビューティ・パーラー(2)

2004年10月10日 | ビューティ・パーラー(シナリオ)
○ 店
こちらも手早く表のガラス戸に鍵をかけ、カーテンを閉める。
笈出「(更衣室に向かって声をかける)大丈夫、出てきていいですよ」
男がゆっくりと姿を現す。
やがて警戒を解き、帽子とサングラスを取る。
男装した卯川つばさが姿を現した。
卯川「畠山さんは」
笈出「外出中です」
卯川「いつ帰ります」
笈出「今日は戻りません」
卯川「そうですか…(そわそわしている)」
笈出「さっきから探している人が何人もいますよ」
卯川「(ぎくっとして)お願い、知らせないで」
笈出「もちろん」
卯川「誤解してもらわないでほしいのだけど」
笈出「はい」
卯川「(口ごもる)なんといったらいいか…」
笈出「落ちついて。ちょっと待ってください」
と、押しとどめて、店の中の照明を全開にし、CDをかける。
精神をリラックスさせる音が再生される。
客がいないことを除けば、開店中とあまり変わらない雰囲気になる。
そして、卯川を椅子にまっすぐかけさせて汗を拭き、それが済んだらさらにそっと頭から肩にかけて一心にマッサージする。
やがて気持ち良さそうに落ちついてくる卯川。
卯川「(大きく息を吐く)あーっ」
笈出「失礼ですけど」
卯川「はい」
笈出「しばらくここにいたらどうですか。なんだったら臨時休業にしてもいいです」
卯川「え、そんな。
いいですよ」
笈出「いえ、いつもお世話になってますから」
卯川「そんな大したことじゃないんですよ。ただ…」
笈出「ただ?」
卯川「(口ごもる)」
笈出「(先手をとる)火のないところに煙が立ってるだけですか」
卯川「(勢いこんで)もちろんそうなんだけど、それだけじゃなくて」
笈出「はい」
卯川「…畠山さんから何か聞いてませんか」
笈出「何も聞いてません。
畠山はお客さまの話を口外したりしません。
私にもです」
決然とした調子を示すため、卯川の正面にまわる。
笈出「そして私もお客さまの話を口外したりはしません」
卯川「(意を決して)実は…事務所から独立するつもりなんです。あ、誤解しないで欲しいんですけど、待遇に不満があるわけじゃないんです。和田社長にはとてもお世話になったし。ただ、どうしても事務所を通じてだと来る仕事がこれまでの義理とかしがらみが優先して、なかなかやりたいことができないから」
笈出「わかります…ところで、やりたいことって、なんですか」
卯川「芝居ですね。
きちっとした演技がしたい。
笈出「…そうですか」
卯川「(にやっとして)芝居なんてできるのか、と思ってますね」
笈出「いえ、そんな」
卯川「いいんですよ。
今まで腕見せる機会なかったんだし」
笈出「応援しますよ」
卯川「だけど、話がまとまる前に漏れると、まとまる話もまとまらなくなるから」
笈出「なるほど」
卯川「ましてマスコミにあることないこと書き立てられたら」
笈出「(媚びる)ないことないこと、じゃないんですか」
卯川「(調子を合わせる)そう、そうです」
笈出「(かまをかける)野村とか名乗ってましたけど」
卯川「(ぎょっとする)来たんですか、ここに」
笈出「たった今、表に。まだいるかもしれない。裏から来たのは、運がよかったみたいですね」
卯川「どうしよう…」
笈出「だいじょうぶですよ。ここにいれば」
卯川「そうもいきません。失礼しないと」
笈出「だけど、本当に行ったかどうか確かめてからの方がいいですよ」
卯川「そうですね」
笈出「…もしかして、ストーカーですか」
卯川「いえ、それほどでも」
笈出「それほどでもって、あなたが遠慮してどうするんですか。一緒に食事したとか言ってましたけど」
卯川「確かに…(自分から言い出す)社長が世話になっている人の息子なんですよ。
その義理で一緒に食事しただけで。それも他の人と一緒に」
笈出「ははあ。…それで無理につきまとう必要はないってわけか」
卯川「つきまとうって、それほど危ないとは思いませんが」
笈出「どうですかね。“愛してる”って言ってましたよ」
卯川「(ひっくり返りそうになる)な、なんですって」
笈出「あなたには言ってないんですか」
卯川「あたしは聞いてない」
笈出「雑誌記者も二人来ましたけど、何を聞きつけたのか」
卯川「(ぶつぶつ言う)だから義理で仕事するのは嫌なんだ」
笈出「とにかく、しばらくここにいるといいですよ。私が必ず守ってみせます」
卯川「ありがと」
笈出、畠山が使っていた金色の取っ手がついたハサミを手にする。
卯川「今日はゆっくりできますね」
その時、また表のチャイムが鳴らされる。
びくっとする卯川。
笈出「念のため、奥に隠れてて」
と、ハサミを胸ポケットにしまう。
言われた通り、更衣室に隠れる卯川。
笈出が出て行ってカーテンを引くと、すでにきれいに装った妙齢の婦人が外に立っている。
笈出「(それを見て)あ、小牧さま」
小牧「(常連の余裕)早かったかしら」
笈出、やむをえず鍵を開けて戸を細目に開く。
笈出「申し訳ございません、今日は定休日でございます」
小牧「え、そうなの?でもあなたいるじゃない」
笈出「休日出勤です」
小牧「畠山先生は?」
笈出「出張しておりまして」
小牧「ふーん。
相変わらず忙しいんだ」
笈出「はい」
小牧「(声をひそめ)ね、無理言って悪いんだけど、今できない。
準備整ってるみたいじゃない」
笈出「え、でも先生はおりませんが」
小牧「ここに来る客には、畠山さんのファンだけじゃなくて、結構あんたのファンも多いのよ」
笈出「(挨拶に困るが)恐れいります」
小牧「ね、特別にお願いできないかしら」
と、蟲惑的な目で見る。
笈出「(ちょっとぐらっとなりかける)」
が、小牧の背後にふと行った視線が思わず釘付けになる。
野村がまたふらふらと戻ってきたからだ。
小牧「いつもひいきにしてるじゃない」
笈出「…(うわの空)」
野村、小牧の背後に立って笈出を見ている。
小牧「ねえったら」
笈出「…え?」
小牧「人の話聞いてるの?」
と、言いながら、笈出の視線を追って振り返る。
そして野村の顔を見る。
そ知らぬ調子でそっぽを向こうとする野村。
小牧「(その顔をしげしげと眺め)…あ、野村さん。野村久英」
野村、笈出、ともにびっくりする。
    ×     ×
更衣室で聞き耳を立てていた卯川、やはり驚く。
    ×     ×
野村「なんで、知ってるんですか」
小牧「だって」
と、携帯を出してディスプレイを見せる。
野村の顔が小さく出ている。
小牧「卯川つばさと熱愛中なんですって?」
野村「なんですか、これっ」
小牧「そういう噂が流れてるけど、本当?」
野村「嘘ですよ、冗談じゃない。ちょっと(と、ディスプレイをしげしげと眺め)これはカモッラで食事したときの格好だ。いつのまに」
小牧「さあ、卯川つばさ関連の情報を集めてたらひっかかってきただけだけど。
ファンの誰かが撮って流したんでしょうね。で、本当なの?」
野村「食事しただけですよ。失礼」
と、そそくさと去っていく。
小牧「もう一つ、熱愛説はデマだっていう噂もあるんだけど…」
と、好奇心にかられて追っていく。
野村「冗談じゃないっ。
デマばかりっ…」
騒ぎながら小さくなっていく二人。
笈出、これ幸いと戸を閉めて鍵をかけカーテンを引く。
笈出「出てきていいですよ」
しかし、卯川は引っ込んだまま出てこない。
傍らの従業員用のロッカーの取っ手に手をかけ、今にもその中に隠れそうな雰囲気だ。
笈出「大丈夫ですって」
その時、裏口のドアががちゃがちゃと音をたてる。
あわててロッカーに隠れる卯川。
笈出、急いでドアのそばに来る。
と、ドアの鍵が開き…畠山が入ってくる。
畠山「(笈出の顔を見て)なんで鍵なんてかけてあるんだ?」
笈出「(うろたえて)今日は戻ってこないと思いましたが」
畠山「ドタキャンでね。人を馬鹿にしている」
畠山、笈出の胸ポケットから突き出ている金色のハサミの取っ手に目をやる。
畠山「おい、それ勝手に使う奴があるか」
笈出「すみません」
と、出して畠山に返す。
畠山「特注なんだぞ。知らないわけじゃないだろう」
笈出「すみません」
畠山「まったく…」
と、店に出る。
畠山「なんでカーテンを閉め切ってるんだ」
と、つかつかと止める間もなく表の戸に近寄ってカーテンを開けてしまう。
すると、丁度外には小牧がいつのまにか来ており、ばったり顔を合わせてしまう。
小牧、屈託なくヤッホーと手を振る。
笈出も表にとんでくる。
笈出「カーテンを閉めてください」
畠山「なんでだい」
と、戸を開けて応対する。
小牧「お休み?」
畠山「そのつもりでしたが、手が空きましたので、どうぞ」
と、小牧を招き入れる。
笈出「(小声で)ちょ、ちょっと先生」
畠山「どうした」
笈出「まずいですよ」
畠山「どうして。準備してないのか」
笈出「準備は万端ですけど、人に見られるとまずいことが」
畠山「何を言ってるんだ。いいから準備しろ。途中で腰を折られたみたいで、仕事したくてうずうずしてるんだ。(小牧に)どうぞこちらに」
と、小牧を招き入れる。
笈出は困るが、習慣化した動作で畠山に先んじて小牧の世話を始めようとする。
小牧「あ、どうせなら先生にお願いできます?」
笈出「(むっとする)」
小牧「他にお客もいませんし。独占できるなんて、滅多にない機会ですもの」
笈出、肩をすくめて離れる。
小牧「(笈出に)その卯川つばさが表紙のをとってちょうだい」
と、雑誌の棚を示す。
笈出「どうぞ」
と、雑誌を取って小牧に渡す。
ぱらぱらとめくって卯川のグラビアに見入る小牧。
それから、目を上げて正面の鏡をじっと見やる。

○ 鏡の中
の小牧の顔…、それがすうっと卯川の顔に変容する。
小牧(卯川)「…(ふと、横を見て)あ、卯川つばさ」

「ビューティ・パーラー」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11