豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

“西部の男” ロイ・ビーン

2008年02月11日 | 映画
 
 先日、何の期待もせずに、ただの暇つぶしに500円DVDの“荒野の決闘”を買ってみたら、これが結構面白かった。
 何でも“~の決闘”としてしまう邦題とは裏腹に、西部劇というよりはラブ・ロマンスだったことも意外であった。原題が“My Darling Clementine”というのだから、当然といえば当然なのだが。
 主人公のヘンリー・フォンダが、友人(ドク・ホリデイ)の愛人を好きになるあたりは、その前に見た“第三の男”と同じ趣向である。
 
 昔の西部劇全盛期が懐かしくなって、何から見たら良いか勉強しようと思い立って、芦原伸『西部劇を読む事典』(NHK生活人新書)を買ってきて読み始めると、この本がまた面白くて、ためになる。
 西部劇の登場人物たちが、ただ目的もなくドンパチをやっていたわけではなく、それにはそれなりの背景と理由があったことを知らされた。
 要するに、開拓時代のアメリカ政府の土地政策がいい加減なのである。まずは牧畜業者たちに自由に土地を使って放牧することを許す。そのうちに、トウモロコシや麦や綿花を栽培する開拓農民たちに土地を無償で供与したりする。さらには、鉄道敷設業者に沿線の土地を分譲する。
 しかも、これらの過程で、先住民インディアンと条約を結んだかと思えば、白人にとって一方的に有利なその条約すら平然と反故にする・・・。

 牧童たちは理由もなしに開拓農民を襲ったわけではないし、インディアンも訳もなしに白人を襲撃したのではない。『西部劇を読む事典』で予備知識を得てから、同書に紹介されているお奨めの西部劇を時代順に見ながら、アメリカ開拓史でも勉強しようと思った。
 アメリカのことだから、“西部劇とアメリカ土地法の生成”式の論文もきっと数多見つかることだろう。おいおい探してみよう。昔読み始めて挫折してしまったビーアド『アメリカ合衆国史』や、H・N・スミス『ヴァージンランド』なども読み直してみたくなった。

 そこで、芦原本で時代順のまっ先に取りあげている“拳銃無宿”でも買おうかと本屋に出かけた。“拳銃無宿”は植民地時代の初期のクエーカー教徒の生き方を描いたものらしい。
 しかし、500円DVDの棚からあれこれのタイトルを取り出して、箱の解説を眺めているうちに、「法律の虫」が騒ぎ出して、西部劇の法廷もの(といってもバーの一隅の「法廷」だが)である“西部の男”(The Westerner)というのを買ってしまった。
 
 無法者にして裁判官(“magistrate”ではなく“judge”と呼ばれていた)だったロイ・ビーンの話である。芦原本を読んでなかったら許しがたい悪党なのだが、予備知識を得たうえで見れば、彼にも「三分の理」はあるのかもしれない。要するに、牧畜業者(“cattle men”)の利害を代弁しているのである。
 それにしても、主人公のゲーリー・クーパーが、ロイ・ビーンによって縛り首にされた開拓農民の妻(妹だったかも?)を愛していながら、ロイ・ビーンとも交流するというのは、どう考えれば良いのか・・・。「国家」なき開拓地にあって、国家に代わって牧畜業者と開拓農民の間を調整しているとでも言うのだろうか。

 ラブ・ロマンスとしては“荒野の決闘”のほうがはるかに上出来であるが、(少なくともアメリカ開拓期における)国家と法の関係の一端を垣間見ることはできる。どこまで時代考証をしているのかは知らないけれど。

 * “西部の男”(The Westerner) ウィリアム・ワイラー監督、1940年作品。音楽は、テキサスというとやっぱり、ディミトリ・ティオムキン。
 写真は、ファーストトレーディング“Classic Movies Collection 294 西部の男”のケース。

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