曇り、23度、92%
ジーッと、最後まで鳴くことが出来ない蝉が泣き始めました。寒かった去年は、4月になっても鳴きませんでした。今年は、例年より10日ほども早い蝉の鳴き初めです。これで、春は終わりですよと、香港の初夏の初まりです。
毎年3月になると、車の保険、カーライセンスの更新、来年20歳を迎える古い車の車検と、アーまた大きな出費と唸っていました。そんなこと言ってますが、大好きな車です。車高は低く、小さい私には、不便なことばかり、エアーバックなんて付いていません。最大の難点は、この香港でクーラーが効かないと言うことです。家人は、毎年買い替えなさいと言います。
どうしてでしょう?我が家の周りは、この90年代初めのマツダMX-5がよく走っています。運転しているのは私年代の白人のおじさんおばさん方です。それを見るに付け、いえいえ、まだ大事に乗りましょうと思うのでした。
昨日の朝も、予約した車検の時間に車を持って行きました。夕方の4時には電話するからという、いつものおじさん。夕方にはまた、我が家に戻って来るはずでした。
昼過ぎに電話が鳴ります。外人の多い地域なので、電話連絡をするのは、英語が達者なリンダさんです。バットニュースよ、と早々におっしゃいます。昨年に比べて、修理の箇所が増え、修理費にいくら、思わず、えっと思う金額です。リンダさん、新しいのに換えたら?と。そんなにすぐに気持ちが決まるはずはありません。リンダさんに、10分時間を頂戴、と言って電話を切りました。
流しに向かって洗いものをしながら、頭の中は、ボーッとしています。あの車にこれから乗れないという事実が、飲み込めないのです。とにかく、一度家まで連れ帰って、今晩ゆっくり考えようと思いました。
赤いマツダのMX-5、赤アリのアリちゃんと言う名前です。アリを迎えに行くのに、気持ちを落ち着けるため、わざと山よりの道を選んで歩きました。うっすらと曇ってはいますが、気温は24度超えています。芽吹きの匂いと新緑の緑が、体にしみ込んで行くようです。その時、今年初めての蝉の声を聞きました。まだまだ、へたくそな蝉の子供です。
毎年この時期は、アリをオープンカーにして、この蝉の声を一杯に聞いてきました。そう思ううちに、不思議にこれで別れてもいいと思ったのです。
そのまま、引き取ってもらいました。
隅から隅までよく知った車です。ポップアップのヘッドライトがつくと、つけまつげの女の子のような目になります。いつか別れはくるものですが、こんな急な別れがくるとは、昨日の朝だって、思ってもいませんでした。