チクチク テクテク 初めて日本に来たパグと30年ぶりに日本に帰ってきた私

大好きな刺繍と大好きなパグ
香港生活を30年で切り上げて、日本に戻りました。
モモさん初めての日本です。

ビニールハウスのにおい

2013年05月31日 | 日々のこと

晴れ、28度、88%

 

 薄墨をはいたような朝焼けの空を見た時や夕方歩きながらどこからともなく匂ってくる匂いに、急に昔見た風景が甦ってくることがあります。もう何年も忘れていた風景です。

 年明けから苔を家で養っています。湿度を保つために、硝子のクロッシェに入れて陽の当たるところに置いています。 モスグリーンと言われるだけに、いい緑です。水やりは週に一回ぐらい、たっぷりとあげます。気温が上がった昨日、クロッシェをとって霧を噴こうとした途端、あら?この匂い、むせ返るような緑と土の匂いです。

 私の母の実家は、高知県の土佐市です。小さい頃は、一年に3度は行っていました。汽車、船、汽車を乗り継いでの福岡からの旅の後、緑の田んぼが拡がる様子はやっと着いたという思いでした。黒い板塀の家の敷地は、お蔵の裏から向こうは田んぼです。近くの人に田んぼを貸して、お米やら野菜を作ってもらっていました。それでも、伯父に嫁いで来た伯母は、お蔵のすぐ裏にトウモロコシを、そしてその脇にビニールハウスをひとつ世話をしていました。今思うと、伯母は朝早くから家の用事を済ませ、家に居た試しがありませんでした。伯母に用事が出来ると、誰かが畑まで呼びに行きます。たいていそういう役目は小さい私でした。お蔵の裏からトウモロコシ畑までは、蛇がたくさん昼寝をしています。行きたくなんかありません。それで、ビニールハウスをめがけて飛び込みます。そうです、その飛び込んだときのビニールハウスの匂いを、小さな苔の入ったクロッシェに嗅いだのです。

 ビニールハウスのむーっとした、上からも下からも熱がこもったようなあの空気、土とトマトやキュウリの青臭い匂い。時にはめまいが来そうな感じもします。

 夏空に変わって行く香港の空を見ながら、母の実家のビニールハウスを思い出しました。そして、その中で一人働く、外から嫁に来た伯母を思い出しました。祖父祖母共にこの伯母が最期を看取りました。いつも笑顔の人でしたが、あのビニールハウスやトウモロコシの世話をしながら、伯母は何を考えていたのでしょう。嫌なこと辛いことが沢山あったはずです。2年前に、黒い板塀の家で静かに亡くなりました。ビニールハウスの中でも、白い手ぬぐいでほっかぶりをしていた伯母の姿が、ビニールハウスの匂いと共に目の前にフワッと浮かびます。

 

コメント
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