小雨、5度、80%
香港に住んだ30年、パン用の小麦粉にはずいぶん悩みました。ローカルのパン屋さんが使うアメリカのパン用の粉は膨らみが足りなくべったりと焼き上がります。選べる選択肢はありません。日系のパン屋さんに小麦粉を分けていただいたこともありました。韓国、ベトネム、タイの小麦粉を使うこともありました。イギリス領でしたからイギリスの小麦粉も輸入物のフランスの小麦粉も使いました。おかげで国によってこんなに小麦粉が違うものかと知りました。帰国が決まって一番嬉しかったのは豊富な日本の小麦粉でパンが焼けることでした。留守をした30年の間に日本の小麦はパンが焼けるような品種ができ、国産強力粉ができていました。
帰国当初、北は北海道、南は九州の強力粉を片っ端から試したのは言うまでもありません。毎朝焼く小さなフランスパン、一時期はやっぱりフランスの粉がいいと思ったこともありましたが、この3年は北海道の強力粉と全粒粉で焼いています。
数日前、雑貨屋さんでイギリスの「全粒粉」を見つけました。食料品屋さんでなく雑貨屋さんです。「石挽きの全粒粉」袋の絵も素敵です。買いました。
高加水のフランスパンを焼いています。使う粉によって、吸水率や気温に大きく左右されます。「石挽き」となると粒が粗いので水を吸いません。つまりベタベタの生地になります。朝の気温と見比べながら仕込みます。
長時間発酵させます。仕込んだ翌日、焼きます。べたつくので成形が難しい。 基本の強力粉は北海道産、それに半分ほどイギリスの「石挽き全粒粉」を混ぜました。
焼き上がりの香りから違います。しっかりと小麦が香ります。粒が粗いので口にブツヌツと感じます。そして粉の甘味が広がります。「美味しい!」歯応え、香り、色のどれもが深みのあるフランスパンに焼きあがりました。
パンは使う粉によって大きく左右されます。北海道産の小麦粉とイギリス「ドーブスファーム」の「石挽き全粒粉」の組み合わせです。この北海道産をフランスの強力粉に変えるとまた味が違います。日本の優しい味と香りの小麦粉と違い、イギリスやフランスの小麦粉は強い個性があります。それが旨味にもつながります。
昨日仕込んだ生地にはいつものフランスの塩でなく、ハーブの入ったフランスの塩を使いました。フランスパンは酵母、水、塩、粉だけのシンプルなパンです。それぞれを選んでその日の気分で焼きます。さて今日のフランスパンはどんな味になるかしら。