新春浅草歌舞伎に行ってきた。海老蔵の”極付・幡随院長兵衛”が観たかった。海老蔵にとって初役だという。
少年時代から、漫画や読みもので、粋でいなせな町奴のお頭、幡随院長兵衛を知っているが、歌舞伎でみたことはなかった。近年、映画にもテレビドラマにも取り上げられないし、しばらく長兵衛さんには無沙汰していた。ただ、浮世絵では、しばしば歌舞伎の一場面が画題として取り上げられので、この芝居の場面も、何度か目にしている。最近では、月岡芳年の”東錦浮世稿談 幡随院長兵衛”かな。この場面は、最終幕の”湯殿の場”で、長兵衛が騙され、無防備で湯に入ろうとしたところを、旗本奴の頭領、水野(片岡愛之助)らによって斬りつけられる。浮世絵では血みどろになって風呂桶の水を飲んでいる壮絶な場面だが、舞台ではそこまでは生臭くなく、簡略化されている。
第一幕から面白い。劇中劇で村山座の舞台が上演されている。そこに、酔った旗本奴が花道から入り込んで、舞台の邪魔をする。舞台番が止めようとして喧嘩となる。さらに騒ぎが大きくなると、客席から一人の着流しの男が舞台に上がってくる。待ってました!海老蔵。江戸で知られた侠客、花川戸(浅草です)の幡随院長兵衛。旗本奴を軽くいなして、その場を収める。芝居小屋の二階席にいた水野が、この一部始終を観ている。許しておけぬとだまし討ちを考えるのであった。
第二幕は長兵衛の家。水野の使いがやってきて、藤の花見の酒宴に招待したいという。騙し討ちはわかっていたが、長兵衛は喜んで参上すると答える。女房お時(孝太郎)、子分衆も引き止めるが、ここで断れば、男がすたると、駆け付けた弟(亀鶴)に死んだあとのことを頼む。そして、子分に、幾時かあとに、早桶で迎えにくるように耳打ちする。
そして、第三幕。酒宴の席でわざと酒をこぼされ、裃を乾かす間、風呂にでもと誘導される。そして、前述のように、風呂場で斬りつけられる。しかし、早桶が来たことを知った水野は、長兵衛の覚悟のほどに感じ入り、とどめをさすのを止めるのであった。
海老蔵の幡随院長兵衛、ぴったり。さまになっている。絶対、当たり役になる!何度でも上演してください。京都でも、大阪でも、どこでも、必ず行きます。
そして、もう一つの演目は、お正月公演らしい”寿曽我対面”。曽我物のひとつ。海老蔵は仇の工藤左衛門祐経役。血気にはやる曽我兄弟(松也と壱太郎)を、鷹狩総奉行の役目が終わるまでは討たれるわけにはいかないと、お年玉を二人に渡す。中身は富士の狩場の通行手形であった。潔く兄弟に討たれる覚悟を示したのであった。海老蔵が好演。きれいどころもずらり。大磯の虎(米吉)、化粧坂少将(梅丸)、舞鶴(新悟)など。幕切れの絵画の見得は、兄弟と舞鶴による富士山の形、工藤による鶴の形、鬼玉(亀鶴)による亀の形と、おめでたづくし。とても、きれいな舞台だった。
海老蔵が新春浅草歌舞伎に出演するのは、14年ぶりとのこと。まだ、新之助時代で、そのとき、21歳で大役、”勧進帳”の弁慶を演じた。実は、第二部ではこれが上演されている。海老蔵の弁慶、愛之助の富樫。14年ぶりの浅草で海老蔵の弁慶、めったにみられるものではない。そう思ったら、どうしても第二部もみたくなってしまった。席はなんとか取れそうなんで、行こうと思う。
とても、楽しい新春浅草歌舞伎でした。女性の方は着物姿で行くと、記念品がもらえますよ。
帰りに両国に寄り、大相撲初場所13日目の椅子席チケットを買ってきたのであった。
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14日、千秋楽は、すべての席がもう売り切れなのであったのであった。