夜な夜なシネマ

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『ウィンターズ・ボーン』

2011年11月03日 | 映画(あ行)
『ウィンターズ・ボーン』(原題:Winters Bone)
監督:デブラ・グラニック
出演:ジェニファー・ローレンス,ジョン・ホークス,シェリル・リー,
   デイル・ディッキー,ギャレット・ディラハント他

これも先週末に公開された作品。
ハシゴした『ステキな金縛り』とは打って変わり、暗く重たい雰囲気。
こちらを先に観たのが幸いで、もしも一日の締めくくりがこれだったら相当凹んだでしょう。
だけど、佳作であることはまちがいありません。

アメリカ中西部、ミズーリ州のオザーク高原。
貧しい寒村に暮らす17歳の少女リーは、
心を病んで口の利けない母親と、幼い弟妹の面倒を一人でみている。

ある日、保安官がやって来る。
服役していたリーの父親が保釈中に行方をくらましたらしい。
父親は自宅を保釈金の担保にしたため、
数日後に控えた裁判までに姿を現さなければ、自宅は差し押さえられてしまう。

住むところがなくなることだけは避けたい。
どうにかして家族を守りたい。
リーは父親を捜しはじめるが、村人たちは一様に口を閉ざし……。

説明が少ないため、いったい何が起きたのかがなかなかわかりません。
私たちもリーと行動を共にするうち、おぼろげながら事情が明らかになってゆきます。

この先、ものすごいネタバレです。
貧困と覚醒剤がはびこるこの村では、多くの人々が覚醒剤の製造や売買に関わっています。
村全体に箝口令が敷かれ、口を割った人間は、村の掟で処刑されるのです。
リーの父親も牢獄生活に耐えきれず、保安官に話してしまったために殺されました。

リーが物心ついたころには父親はすでに牢獄の中。
父親にまつわる幸せな想い出なんてひとつもないし、
父親が生きていても死んでいても知ったこっちゃない。
けれど、死んだら死んだで、死亡証明書がなければ自宅は差し押さえられる。
死んだ証拠を見つけなければ。
口を閉ざす人々にそう強く言うリーですが、
あちこちで聞く父親の悪口に密かに胸を痛める姿は切ないです。

貧しいながらも、人びとが楽器を片手に過ごす夕べ。
食べ物に不自由する隣人には、ぶっきらぼうに肉や芋を届けます。
近所の人が鹿を仕留めたのを見て、分けてくれることを期待する弟に、
そういうことは言っちゃ駄目だと諭すリー。物欲しそうな態度は取らせません。
食べ物を届けてもらったときには、最低限のお礼しか言わないけれど、
リーの感謝の気持ちは隣人に伝わっていると思えます。

リー役のジェニファー・ローレンスの演技にとにかく脱帽。
言葉少なく、強い意志の込められた表情が素晴らしいです。

画面に漂う冷たさは、『フローズン・リバー』(2008)と似ています。
しかし、冷たさの中にもかいま見える優しさと温もり。
最悪な状況の中でも生きて行く。
凹んだけれど、力強さいっぱいの作品でした。

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