夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

「食の社会見学」シリーズ、『フード・インク』と『ありあまるごちそう』。

2011年11月11日 | 映画(番外編:映画と食べ物・飲み物)
『フード・インク』(2008)と『ありあまるごちそう』(2005)を観ました。

製作年はずいぶん前ですが、いずれも日本公開は今年の初め。
前者はアメリカ、後者はオーストリアのドキュメンタリー作品で、
「食の社会見学」シリーズとして立て続けに公開されました。
DVD化されたのは夏頃で、公開と同じ順序でひと月ずらして。

ダンナが化学調味料(特にアミノ酸)アレルギーなものですから、
食料品を買うときは必ず箱や袋をひっくり返して、原材料を確認します。
スーパーで売られている食料品で、化調不使用のものを探すのは、
一苦労というのか、至難の業と言ってもいいくらい、
ものすごく多くのものに化調が使われています。

だしの素はそれ自体が化調なので挙げるまでもありませんが、
ハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、漬物は、ほぼまちがいなく化調使用。
カレーやシチューのルーも、化調不使用のものはごく少ないです。
ソースやマヨネーズも、「おっ、これ安い!」と思えば化調入り。
おかきや醤油味の煎餅、スナック菓子も使われている商品がほとんどで、
洋菓子なら大丈夫と思っていたら、シュークリームに入っていることも。
このカスタードクリーム、ほのかにカツオのダシを感じると思ったら、
「調味料(アミノ酸等)」とあって笑ったことも。

そんなこんなで、その手の本は何冊か読んできましたし、
わりと気をつけて食料品を選んでいるつもりでした。
それでも、この「食の社会見学」シリーズを見るとびっくりします。

『フード・インク』のキャッチコピーは、「ごはんがあぶない」。
これは実に衝撃的です。

人びとは鶏の胸肉を好む。
だから、鶏に抗生剤を投与して、胸の大きい鶏を育てる。
暗い鶏舎に詰め込まれ、自然に反して育てられた鶏は、
数歩あるけば脚がぐにゃり。
しかし体型は逆三角形の、胸の大きな立派な鶏。

牛はもともと草を食べる。
だけど、飼料をコーンにすれば見事に太る。
太った牛のほうがよく売れる。どんどんコーンを食べさせよう。
けれど、本来食べないものを与えたせいで生まれたのが、
新しい病原菌、O157。

牛の飼料を草に戻せば、わずか5日間でO157は8割死滅するのだそうです。
しかし、草に戻すという選択は採られることなく、
代わりに「画期的な肉の滅菌法」が開発されました。
ハンバーガーのパテをアンモニアで洗浄する機械。スゴイです。

製作国のちがいなのか、『ありあまるごちそう』のほうがいくぶん静か。
でも、およそ生き物としては扱われないヒヨコたちが
ピヨピヨうごめいている姿は呆気にとられます。
こちらのキャッチコピーは、「世界が飢えていくメカニズムがわかる」。

2本とも、開いた口がふさがらないほどの衝撃でした。

1ドルでハンバーガーは買えるけど、野菜は買えない。
体に良いものを食べたくないと思う人なんていないわけで、
ネックになるのはただ金額。
安価になれば、みんなが良いものを買える。そうしようよ。
有機ヨーグルトをウォルマートに置き始めた人の談話です。

『ファーストフード・ネイション』(2006)と併せて観るのがオススメ。

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『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』

2011年11月08日 | 映画(あ行)
『大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇』
監督:本田隆一
出演:竹野内豊,水川あさみ,樹木希林,片桐はいり,荒川良々,
   橋本愛,でんでん,山里亮太,柄本明他

今年のGWの頃に見たTV番組で、水川あさみが宣伝をしていたのを見ました。
おもしろそうだとは思いつつも、劇場までは足が向かず。
先週レンタル開始になったので早速。

監督の名前に聞き覚えはありませんでしたが、
あらま、この人の作品は結構観ていることが判明。
特に『GSワンダーランド』(2008)は大のお気に入り。
深夜ドラマ『傍聴マニア』もこの監督の演出だったようで。

ちなみに、先日『パラダイス・キス』(2011)を観ましたが、
向井理くんなら、私は『傍聴マニア』の自信なさげな学生役がいちばん好きでした。
気取っていて、チャラそうな役は、どうも演じている向井くん自身、
照れくささがあるのではと感じてしまいます。

閑話休題、『大木家』のお話。

長い同棲生活の末に結婚した大木信義と咲は、新婚だというのに倦怠モード。
おまけに、引っ越しの荷物を全部開けるも炊飯器が見当たらず、
ごはんが食べたい信義は文句たらたら、咲はキレ気味。

ダレダレで近所のスーパーへ買い物に出かけた咲は、
通りすがりの怪しげな女性占い師から炊飯器のことを言われて驚く。
どうも占い師が炊飯器の行方を知っている様子。

翌日、ふたり揃って再び占い師のもとを訪れると、
占い師の隣にはこれまた怪しげな、但馬と名乗る女性が立ち、
ふたりに地獄ツアーなるものを勧める。

当日の集合場所はスーパーの屋上。
地獄エビ食べ放題、1泊22,000円也のコースを選び、
なぜか屋上に設置されたバスタブを覗き込むと地獄に落ちて……。

非常にゆるいです。けど、DVDで観るにはうってつけ。

占い師と但馬コンビには樹木希林と片桐はいり。
このキャストからしてめちゃくちゃ可笑しい。

ツアー開始後、決して振り向いてはいけないと警告を受けていたのに、
好奇心に負けて振り向いてしまったふたりは、「赤い人」に襲われます。
人は地獄に長く滞在すると体表面が赤か青に変わるそうで、
赤くなるとどんどんモノを忘れ、言葉も話せずうめくだけ。
その「赤い人」を演じるでんでんが、『冷たい熱帯魚』(2010)とは異なる怖さ。
赤い人になってもいいかなとつぶやいた信義が印象的でした。

「青い人」で地獄旅館の主人、いいじま役の荒川良々が最高。
信義と咲が宿のアップグレードをケチったせいで、
ふたりの宿泊階は22階、エレベーターは無し。
温泉階の説明をするいいじまは、「46階と127階にございますが、
たいていのお客様は127階は断念されます。46階がお勧めです」。
「振り向いたから危険な目に遭ったのだろうか」という、
ふたりの質問に対するいいじまの答えにも大笑い。
46階の温泉でも危険にさらされますが、これがまた「悪くない」。

青い少女ヨシコに案内されるナイトマーケットも楽しげです。
炊飯器は地獄への置き土産。
お決まりだけど、ハッピーエンドで後味良し。
地獄エビの食べ放題はパスで。

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『ウィンターズ・ボーン』

2011年11月03日 | 映画(あ行)
『ウィンターズ・ボーン』(原題:Winters Bone)
監督:デブラ・グラニック
出演:ジェニファー・ローレンス,ジョン・ホークス,シェリル・リー,
   デイル・ディッキー,ギャレット・ディラハント他

これも先週末に公開された作品。
ハシゴした『ステキな金縛り』とは打って変わり、暗く重たい雰囲気。
こちらを先に観たのが幸いで、もしも一日の締めくくりがこれだったら相当凹んだでしょう。
だけど、佳作であることはまちがいありません。

アメリカ中西部、ミズーリ州のオザーク高原。
貧しい寒村に暮らす17歳の少女リーは、
心を病んで口の利けない母親と、幼い弟妹の面倒を一人でみている。

ある日、保安官がやって来る。
服役していたリーの父親が保釈中に行方をくらましたらしい。
父親は自宅を保釈金の担保にしたため、
数日後に控えた裁判までに姿を現さなければ、自宅は差し押さえられてしまう。

住むところがなくなることだけは避けたい。
どうにかして家族を守りたい。
リーは父親を捜しはじめるが、村人たちは一様に口を閉ざし……。

説明が少ないため、いったい何が起きたのかがなかなかわかりません。
私たちもリーと行動を共にするうち、おぼろげながら事情が明らかになってゆきます。

この先、ものすごいネタバレです。
貧困と覚醒剤がはびこるこの村では、多くの人々が覚醒剤の製造や売買に関わっています。
村全体に箝口令が敷かれ、口を割った人間は、村の掟で処刑されるのです。
リーの父親も牢獄生活に耐えきれず、保安官に話してしまったために殺されました。

リーが物心ついたころには父親はすでに牢獄の中。
父親にまつわる幸せな想い出なんてひとつもないし、
父親が生きていても死んでいても知ったこっちゃない。
けれど、死んだら死んだで、死亡証明書がなければ自宅は差し押さえられる。
死んだ証拠を見つけなければ。
口を閉ざす人々にそう強く言うリーですが、
あちこちで聞く父親の悪口に密かに胸を痛める姿は切ないです。

貧しいながらも、人びとが楽器を片手に過ごす夕べ。
食べ物に不自由する隣人には、ぶっきらぼうに肉や芋を届けます。
近所の人が鹿を仕留めたのを見て、分けてくれることを期待する弟に、
そういうことは言っちゃ駄目だと諭すリー。物欲しそうな態度は取らせません。
食べ物を届けてもらったときには、最低限のお礼しか言わないけれど、
リーの感謝の気持ちは隣人に伝わっていると思えます。

リー役のジェニファー・ローレンスの演技にとにかく脱帽。
言葉少なく、強い意志の込められた表情が素晴らしいです。

画面に漂う冷たさは、『フローズン・リバー』(2008)と似ています。
しかし、冷たさの中にもかいま見える優しさと温もり。
最悪な状況の中でも生きて行く。
凹んだけれど、力強さいっぱいの作品でした。

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