夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『痛み』

2012年03月06日 | 映画(あ行)
『痛み』(英題:Pain)
監督:クァク・キョンテク
出演:クォン・サンウ,チョン・リョウォン,マ・ドンソク他

4本ハシゴの1本目はこれでした。心斎橋シネマートにて。
家からいちばん離れたミナミで1本目を観てからキタへ移り、
最終的に乗車する阪急電車にいちばん近い劇場で4本目を観たというわけです。

この日、私が観た初回はそれほど混んではいなかったのですが、
終映後に扉を出てビックリ、2回目にはドえらい行列ができていました。
主演のクォン・サンウについてはまったく知らず、
出演作を調べてみたら、『火山高』(2001)は観たなぁという程度。
本作のタイトルからハードボイルドを想像していたら、意外にも難病&悲恋の韓流物語。
しかもクォン・サンウは人気俳優らしく、オバチャンの行列にも納得。

幼いころ、交通事故で家族を失ったうえに、
事故の後遺症で痛みを感じなくなった男、ナムスン。
どれだけ腫れようが切れようが痛みは感じず、
その「無痛症」であることを生かし、肉体を傷つけられることで稼いでいる。

具体的には借金の取り立て屋である兄貴分のボンノに同行し、
返す金などないと開き直る顧客の前でボンノがナムスンを派手に殴れば、
恐れをなした顧客が慌てて支払うという寸法だ。
両親が遺した家もあり、こうして殴られてさえいれば報酬がもらえる。
生活に何も困ることはないが、ただ無気力な毎日を送っている。

そんなある日、ドンヒョンという若い女から借金を取り立てることに。
父親が方々から金を借りたまま死亡したため、
いくつもの取り立て屋から追われているドンヒョンは、
露店でアクセサリーを売りながらなんとか暮らしていたが、
容赦ない取り立てに遭って大家から放り出される。

ドンヒョンが売り飛ばされそうになっているのを見かけたナムスンは、
やむを得ず家へ連れ帰り、借金完済まで住まわせることに。
そして、ドンヒョンが血友病の患者であることを知り……。

血がどれだけ流れようが痛みをこれっぽっちも感じないナムスンと、
ほんのわずかな傷による出血が命取りになるドンヒョン。
こんなふたりが一緒に過ごすうち、お互いの心の痛みを感じるようになります。

ハードボイルド系を期待していたせいで、
堂々韓流の香りが漂う中盤は肩すかしを喰らった気分になっていましたが、
いや~、泣けます。泣きました。

ぶっきらぼうなナムスンは、台詞の数もものすごく少ない。
それだけに訥々と話す言葉が胸を突きます。
痛みを感じないと言っても、殴られっぱなしの人生を送ってきたわけで、
パンチドランカーの症状が見受けられるナムスンをクォン・サンウが上手く抑えて熱演。
『B型の彼氏』(2005)では脇役だったチョン・リョウォン演じるドンヒョンもめちゃ可愛い。

彼女が泣くと胸が張り裂けそうだ。
神様、どうか僕の命を彼女に。
これが泣かずにおられましょか。

そうそう、脱いだクォン・サンウには西島秀俊も大泉洋も負けます。(^o^;

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『メランコリア』

2012年03月03日 | 映画(ま行)
『メランコリア』(原題:Melancholia)
監督:ラース・フォン・トリアー
出演:キルスティン・ダンスト,シャルロット・ゲンズブール,アレキサンダー・スカルスガルド,
   シャーロット・ランプリング,ウド・キア,キーファー・サザーランド他

4本ハシゴの2本目、大阪ステーションシティシネマにて。
ちなみに、前述のアメリカ作品『人生はビギナーズ』
デンマーク/スウェーデン/フランス/ドイツ作品の本作、
どちらも字幕は松浦美奈さん

さて、デンマークの鬼才、ラース・フォン・トリアー監督の最新作。
ぺらんとした紙に手書きされたかのようなタイトル文字が映し出されたときは、
本作も「ドグマ95」の誓いに則って撮られていると思いましたが、
CG使いまくり、撮影方法、照明、効果音、すべてにおいて、
みごとに「ドグマ95」の誓いを破っています。
この派手さはいったいどうしたんだと、しばし目が点になりました。

本作では惑星の名前となっている「メランコリア」は、
メランコリー、すなわち鬱病を示しています。
監督本人が長らく鬱病に苦しみ、本作の着想も療養中に得たそうです。

姉妹を主人公とする2部構成。
第1部はキルスティン・ダンスト演じる妹、
第2部はシャルロット・ゲンズブール演じる姉を中心に。

第1部、ジャスティン。
優しくてシャイなイケメン、マイケルとの結婚を決めた彼女は、
姉夫婦が経営するクラブハウスで盛大な披露宴をおこなうことに。
新郎新婦の会場への到着が2時間遅れて姉夫婦はイライラ。
しかし、ジャスティン本人は意に介さず、
急がせる姉夫婦を尻目に、まずは愛馬に挨拶をと厩舎へ向かう始末。

宴が始まるも、こうしたお披露目を好まない母が嫌みを言い通し、
出席者の間に気まずい空気が流れる。
父や姉夫婦が取りなすが、次第にジャスティンも落ち着かなくなる。
会場から抜け出すと、カートでゴルフコースへ。
奇天烈な振る舞いのあと、寝込んでいたかと思うと今度は入浴。
新郎のマイケルさえもジャスティンを理解できずに去ってしまう。

第2部、クレア。
彼女は、鬱病が進行したジャスティンを自分のもとへと呼び寄せる。
夫のジョンはいい顔をしないが、クレアは妹を決して見放さない。
いま、クレアが恐れているのは妹の奇行ではなく、
数週間後に地球のすぐそばを通過すると言われている惑星メランコリア。
科学オタクのジョンは衝突などしないと言い張るが、クレアは不安でたまらない。

ある日、夜中にジャスティンが外に出るのを見かけて跡をつけると、
服を脱いでメランコリアの光を浴びるジャスティンの姿が。
以来、衝突の危機に不安を募らせるクレアと対照的に、
達観したかのようなジャスティンは生気を取り戻してゆく。

冒頭、ワグナーの曲に乗せた世界の終末をあらわす映像は、
人類創世記を見せてくれた『ツリー・オブ・ライフ』(2011)の映像とダブります。
やはり万人受けはしないでしょうけれど、私には本作のほうがちとわかりやすい。
「世界が終わるかもしれないという憂鬱」が地球全体を覆うとき、
鬱病であるジャスティンがもっとも冷静であるところが興味深いです。

「世界が終わる。その衝撃の瞬間をあなたは目撃する―。」という引き文句にふさわしい、圧巻のラスト。
しかし、「へ?これで終わり?」と呆然とする人も多いでしょっ。
「これ以上のハッピーエンドはない」と監督が述べたとのこと。
さすが、鬼才。

キルスティン・ダンストのオールヌードも話題になっています。
どんな作品が女優に脱ぐ気を起こさせるのか。彼女はこれで来ましたかとニヤリ。
『24 TWENTY FOUR』にハマっていた方、
ジョン役で登場する、こんなジャック・バウアーはどうですか。

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『人生はビギナーズ』

2012年03月01日 | 映画(さ行)
『人生はビギナーズ』(原題:Beginners)
監督:マイク・ミルズ
出演:ユアン・マクレガー,クリストファー・プラマー,メラニー・ロラン,
   ゴラン・ヴィシュニック,メアリー・ペイジ・ケラー他

『セイジ 陸の魚』の前、4本ハシゴの3本目。ガーデンシネマ梅田にて。

マイク・ミルズ監督が、自身の父親との関係を基に書きあげた作品。
今週初めに発表された第84回アカデミー賞では、
父親役を演じたクリストファー・プラマーが助演男優賞を受賞しました。

CDジャケットなどのデザインを手がけるアートディレクター、オリヴァーは、
ロサンゼルス在住の38歳の独身男。
1955年に結婚した両親は44年連れ添い、1999年に母ジョージアが他界。
その半年後、父ハルは75歳にしてゲイであることをカミングアウト。
癌に冒されて亡くなるまでの4年間、自分に正直な人生を満喫する。

2003年、父の最期を看取ったあと、いつまでも喪失感が消えないオリヴァー。
同僚たちは彼をパーティーに誘うが、どこへ行っても父のことを思い出す。
オリヴァーのさびしい笑顔を指摘したのが、
ニューヨークで高級ホテル住まいをしているフランス人女優アナ。
意気投合したふたりは以後も会うようになるのだが……。

ユアン・マクレガー主演の父親と息子の話といえば、
『ビッグ・フィッシュ』(2003)がめちゃくちゃ良かったですが、
あれから約10年、30代後半の息子を演じる彼もやはり○。

美術史を愛し、美術館を創設して館長を務めたハルは、自宅には不在であることが多く、
ハルを見送るジョージアの表情に、子どもながらになんとなく不穏を感じ取っていたオリヴァー。
厳格だったはずのハルのいきなりのカミングアウトにオリヴァーはとまどいますが、
病の縁で人生を謳歌する父親との距離を徐々に縮めてゆきます。

しんみりとするテーマのなかにも遊び心がいっぱい。
ポップな色使いの絵や写真を挟み、序盤は観ているあいだ、ずっとニコニコ。
オリヴァーのつぶやくあれこれやユーモアのセンスが、
両親から受け継がれたものだとわかるシーンにもニッコリ。
時系列をいじりながらも混乱させることなく見せてくれます。

オリヴァーとアナは、お互いこの人しかいないと思っているのに、
人との距離の置き方が似すぎていて、なんだか素直になれません。
失うときが来るのが怖くて踏み出せない。
そんなふたりを応援するのがアーサーという名前の小型犬(ジャックラッセルテリア)。
犬にしゃべらせちゃう演出もとってもキュートでした。
アナ役のメラニー・ロランもアーサーに負けず劣らず(?)キュート。

ラストはちと急ぎ足でまとめにかかってしまった印象があります。
けれど、オリヴァーとアナ、ハルにジョージア、それにゲイの仲間たちを見ていると、
「人間は前ばっかり向いているわけにはいかないんだよ。
下を向いたり後を振り返ったりするのが人間だと思うんだ」。
重松清の『カシオペアの丘で』に出てくるこんな一文を思い出し、
振り返ったり下を向いたりしてときおり前に進めなくなる登場人物たちが
たまらなく愛おしくなる作品なのでした。

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