夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『モンキーマン』

2024年09月08日 | 映画(ま行)
『モンキーマン』(原題:Monkey Man)
監督:デヴ・パテル
出演:デヴ・パテル,シャールト・コプリー,ソビタ・ドゥリパラ,ピトバッシュ,シカンダル・ケール,
   マカランド・デシュパンデ,アシュウィニ・カルシカール,ヴィピン・シャルマ他
 
2回目の『ラストマイル』を観た後、同じくイオンシネマ茨木にて。
 
アメリカ/カナダ/シンガポール/インド作品。
『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)で映画デビューを果たしてから15年、
順調にキャリアを築いてきたデヴ・パテルが本作で映画監督デビュー。
製作を務めるのがジョーダン・ピールとくれば、面白さは約束されたようなもの。
案の定、批評家から高評価のようです。
ちなみに本作の原案もデヴ・パテル自身で、脚本も彼。主演ももちろん彼。
 
もともとは脚本を書いたらニール・ブロムカンプに監督を依頼するつもりだったらしくて、
そのせいなのかどうなのか、ブロムカンプ監督作品の常連であるシャールト・コプリーが出演しています。
インドっぽいけど、ロケ地はインドネシアのバタム島。
 
地下格闘技の世界で猿の覆面を被り、“モンキーマン”としてヒール役を務めるキッド。
幼い頃、彼は小さな村で母親と貧しいながらも幸せに暮らしていたが、
宗教指導者として祭り上げられているババがその土地を欲し、
警察幹部のラナに命じて村を焼き討ちにしたうえ、皆殺しを図った過去がある。
そのとき、母親から言われて身を潜めたおかげで助かったキッド。
しかしラナによって母親が殺されるところを隙間から目の当たりにしたのだ。
 
必ずや復讐すると自分に誓ったキッドは、当時目にしたわずかな手がかりからターゲットを突き止め、
彼らに近づく方法を考えると、まずはラナが出入りするクラブの支配人クイーニーのもとへ。
厨房で皿洗い等の職に就くと、クラブで顔が利くらしいアルフォンソと親しくなる。
 
アルフォンソの信頼を得たキッドは、クラブでウエイターに昇進する。
拳銃を入手してラナを襲撃する機会を待ち、いざそのときを迎えたものの失敗。
重傷を負って運河に落ちたところをとある寺院の者たちに救出されて……。
 
ブロムカンプ監督がメガホンを取ったとしてもきっと面白い作品になったろうと思います。
自分が依頼されているのに、企画を聴いて「君が自分で撮れ」と勧めたという。なんかカッコイイ。
そしてそれをこんな作品に撮り上げたデヴ・パテルもただ者ではありません。
 
暴力的でありながら美しさすら感じます。
宗教的政治的な部分は私には理解できないところが多いけれど、いつまでも残るカースト制度と、
独裁政権に断固反対するという気持ちが伝わってくる。
 
デヴ・パテルにこれからも注目したいと思います。

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2回目の『ラストマイル』

2024年09月07日 | 映画(ら行)
1回目は公開初日に観ました。
リピートする気はなかったのですが、この日観ようと思っていた『モンキーマン』がイオンシネマ茨木で20:30からの上映で、
それまでボーッとしているには時間がありすぎる。
台風のせいで週末はどこの劇場も閉館するかもしれないから、その前にせっせと劇場通いしておこうと思いました。
 
2回目の『ラストマイル』は満島ひかり演じるエレナの人となりがわかっているから、
彼女のテンション高すぎる言動に嫌気が差したりはしません。
だけど、新任のセンター長から「センター長ではなくエレナと呼んで」と言われたり、
自分のことをいきなり下の名前で呼び捨てにされたりするのはドン引きですよねぇ。
岡田将生演じる孔の「なんじゃこいつ」みたいな顔に笑ってしまいます。
 
「ロジスティクス」と言えない酒向芳演じる刑事、それをフォローするのは大倉孝二演じる後輩刑事。
「客が注文したのはのり弁なのに、唐揚げ弁当にすり替わっている」というエレナの例えを
「豪華になってるじゃないか」と大倉孝二がツッコミ入れるところは少しだけ面白い。
「桃太郎だと思ったら桃から出てきたのは金太郎」という例えには、
「桃から出てこない時点で桃太郎ではない」というディーン・フジオカ演じる五十嵐にもクスッ。
この五十嵐が本当に嫌な奴だと思うけれど、ディーン・フジオカだから「どうにもできなかった」と言うシーンには悲哀を感じます。
イケメンじゃないオッサン俳優が演じていたら、もっと憎らしく思ったでしょうね(笑)。
 
2回目だと俳優そのものを見る余裕も出てきて、違った楽しみ方ができます。
それに、漫然と見ていた物流業界のさまも、1回目よりいろいろと感じるところが多い。
羊急便の関東局局長役の阿部サダヲが、電話の相手が社長だと知らずに叫ぶところが好きです。
その阿部サダヲが満島ひかりに「やめましょう!」と言われるシーンも好き。
 
大手企業の商品配送が自社の60%ものシェアを占めるせいで楯突けない。
けれど、1個運んで150円ではドライバーのなり手に困る。
エレナの計画により、運送会社が一致団結するのは小気味のいい場面です。
 
ひとつの荷物にどれだけの人が関わり、私たちの手元に届けられているのか。
人としての扱いを受けていないかのような現状があるならば、なんとかせねばなりません。
でも、いかに便利かばかり考えてしまうのですよねぇ。
 
火野正平宇野祥平のような宅配ドライバーがたくさん存在しているということを心に留めておきたいです。

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『スリープ』

2024年09月06日 | 映画(さ行)
『スリープ』(英題:Sleep)
監督:ユ・ジェソン
出演:チョン・ユミ,イ・ソンギュン,キム・クムスン,キム・グクヒ,イ・ギョンジン,ユン・ギョンホ他
 
シネマート心斎橋で観逃して残念に思っていたところ、塚口サンサン劇場が持ってきてくれました。
 
監督は本作が長編デビューとなるユ・ジェソン。
辛くてたまらないのはイ・ソンギュンが昨年暮れに自ら命を断ってしまったこと。
麻薬の不法投薬を疑われて取り調べを受けていたそうで、
もしも本作を地で行く睡眠障害ゆえの麻薬使用だったのだとしたら、これほど悲しいことはない。
共演したチョン・ユミもどんな気持ちだろうと思わずにはいられません。
 
スジン(チョン・ユミ)とヒョンス(イ・ソンギュン)は新婚夫婦。
ヒョンスは今はまだ売れているとは言えない役者だが、いつか大役を掴む日を夢見てスジンが支え、
出産をひかえてお腹が大きくなった今も仕事を続けている。
 
ある晩、寝息を立てていたヒョンスが自分の顔を掻きはじめる。
翌朝、血だらけになっているヒョンスの頬を見てスジンはびっくり。
その顔のせいでせっかくもらった仕事がキャンセルになってしまう。
 
ふたり一緒なら何でも克服できると信じるスジンはヒョンスを励ますが、
この日を境に睡眠中のヒョンスの行動があきらかにおかしくなる。
夜中に冷蔵庫を開けて生肉をむさぼり食っていたり、窓から飛び降りようとしたり。
病院に行くと睡眠障害だと言われ、薬を処方されるがなかなか効き目が出ず……。
 
夢遊病患者が起こした事件の記事を読みあさるスジン。
本人の意識なく家族を殺したニュースなんて知ったら怖くてたまらないですよね。
かわいがっていたポメラニアンをヒョンスに殺されても、
ヒョンスは病気だから悪くないと責めようとしないけれど、
出産を終えて自分の娘がこの世に生まれると、娘のことが心配になります。
犬を殺したように、娘も殺そうとするかもしれないわけですから。
 
スジンの母親は巫女を呼んできて、お祓いが必要だと言う。
そんなアホなと思っていたら、ホントにヒョンスが憑依されているという話に。
しかもヒョンスに取り憑いているのは、階下に住んでいたジジイだし。
 
そのうちスジンのほうがおかしくなって、ヒョンスを殺しかける。
精神病院に送られるのも当然なところ、実はスジンの言うことが正しくて。
 
イ・ソンギュンが亡くなっていることがわかっているせいか、相当怖い。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』よりずっとドキドキハラハラしました。
憑依って実際にあるのでしょうか。
今はイ・ソンギュンが安らかに眠っていることを祈るだけ。

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『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』【4Kリマスター版】

2024年09月05日 | 映画(な行)
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(原題:Night of the Living Dead)
監督:ジョージ・A・ロメロ
出演:ジュディス・オディア,デュアン・ジョーンズ,カール・ハードマン,キース・ウェイン,ジュディス・リドリー,
   マリリン・イーストマン,ビル・ハインツマン,カイラ・ショーン,チャールズ・クレイグ他
 
台風10号の動きがあまりに遅くて、劇場も対応をどうするか困っていた様子。
鉄道の計画運休が発表されればそれに合わせて休館するのでしょうが、
迷走する“サンサン”のせいで何もかもが不確定だから閉めるに閉められない。
結局、大阪に来そうな数日間はオンライン予約を停止した劇場がほとんどでした。
 
これはオンライン予約停止前日に塚口サンサン劇場にて鑑賞。
1968年のアメリカ作品で、ハリウッドのホラー映画の新時代を築いたと評価されています。
って、私が説明するまでもないことですね。
ただ、私はホラー映画をことごとく避けてきたので、本作を観るのも初めてです。
ようやくホラー慣れしてきた今、観る機会があるなら行っておかなければと思い。
 
原作は1939年生まれの作家ジョン・A・ルッソ。84歳でご健在です。
ジョージ・A・ロメロ監督と共同で本作の脚本を担当し、一躍有名人に。
ルッソ、ロメロ共に本作にカメオ出演しているのは鑑賞後に知ったこと。
幾度となくリメイクや続編が製作されたカルト作品で、いま公開されているのは2016年の4K版です。
これが初めて公開されたのは同年のニューヨーク近代美術館。
こんなゾンビ映画がアメリカ国立フィルム登録簿に載っているってなんだか嬉しいですね。
 
兄ジョニーと妹のバーバラは車で3時間の道のりを走り、ペンシルヴェニア州にある父親の墓へ参る。
寝坊したジョニーのせいで到着が夜の8時になってしまったが、まだ外は明るい。
父親に丁寧に手を合わせるバーバラをからかい、とっとと帰ろうと言うジョニー。
人っ子一人いなかった墓地に男の人影が見えると、ジョニーはまたしてもバーバラをからかって怖がらせる。
ジョニーの失礼な態度を詫びようと男に近づくと、いきなりその男がバーバラに襲いかかる。
バーバラを助けようとしたジョニーは男と揉み合いになり転倒。死んでしまったようだ。
 
バーバラは車に飛び乗り、追いかけてくる男から必死に逃げようとするが、
途中で車が止まってしまい、乗り捨てると走りまくる。
ようやく見つけた一軒家に逃げ込み、何が起きているのかわからないまま震え上がる。
 
同じくどこかから逃げてきた男性ベンは、謎の集団の侵入を防ごうと家の窓や扉に板を打ち付ける。
ジョニーを喪ったショックから放心状態にあるバーバラはベンに叱咤されるもなかなか動けない。
 
そうこうしていると、地下室から男がふたり上がってくる。彼らもここに逃げ込んだらしい。
年輩のほうの男性ハリーは妻ヘレンと負傷して動けないカレンを地下室に匿っており、
もうひとりの男性トムは恋人のジュディとここへ来てハリーたちと知り合ったと言う。
 
地下室にいるほうが安全だというハリーと、階上にいなければ外の様子がわからないと主張するベン。
両者は対立しながらも、ラジオやテレビ放送の情報をもとに脱出を図ることに決めるが……。
 
何十年経とうがつくられ続けるゾンビ映画の発祥が本作にあると思うと感慨深い。
ゾンビ退治に活躍するベンに黒人俳優を起用したことも、当時は驚きだったはず。
ゾンビは走らない、脳天をぶち抜けば殺せる、などなど、後続の作品がそれを守っているんですね。
動きが鈍いのは「一度死んでいるから」という台詞には納得して笑っちゃいました。
その基本をひっくり返した『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)も面白かったですよねぇ。
 
ベンとバーバラは助かるとばかり思っていましたから、
途中でバーバラがゾンビ化したジョニーに捕まることにビックリ。
最後まで生き残っていたベンもゾンビと間違われて銃殺されるのは衝撃的。
ハッピーエンドじゃないんかい。
 
こうした古い作品を劇場で観る機会があればまた行きたいです。

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『箱男』

2024年09月04日 | 映画(は行)
『箱男』
監督:石井岳龍
出演:永瀬正敏,浅野忠信,白本彩奈,佐藤浩市,渋川清彦,中村優子,川瀬陽太他
 
なんばパークスシネマで『エア・ロック 海底地球避難所』『ソウルの春』を観終わった時点で20時半。
帰ろっかな~、でももう1本観る元気はないでもないな~と思い、本作も観ることに。
 
原作は1973(昭和48)年に発表された安部公房の同名小説。
未読ですけれども、始まった瞬間に芥川賞作家の作品だなぁと思いますよね。
監督は石井岳龍(聰亙)。この人も芥川賞作品を好んで映画化する監督。
 
もとは冷蔵庫が入っていたとおぼしき段ボール箱をかぶって生きる男(永瀬正敏)。
何者かが彼を撮影する一方で、彼を追いかけ回して攻撃してくる者もいる(渋川清彦)。
ある日、怪我をした彼の段ボール箱に手紙を投げ込んだ女(白本彩奈)から、
近くに病院があると教えられて診察を受けに行ってみると、そこには偽医者(浅野忠信)がいた。
 
男はすぐに偽医者が自分を助けるふりをして襲ってきた者だと気づく。
偽医者は病で動けない本物の軍医(佐藤浩市)の世話をする身で、
箱男になりたがっている軍医に代わり、偽医者が男のことを調べていたらしい。
 
やがて軍医が死亡すると、偽医者は自分こそが箱男になろうとする。
ひとつの町にふたりの箱男は要らぬと、生死をかけた攻防が始まるのだが……。
 
何度も繰り返される「箱男を意識するものは箱男になる」。
実際、本作の中では取り憑かれたように皆が箱男になりたがる。
目の部分だけ開けられた穴から外を覗き、女性たちの脚を描く。
妄想をノートに書いて書いて書き続けているわけですが、妄想なのか現実なのかもわからなくなってきます。
 
面白い世界だとは思うけれど、私は箱男にはなりたくない。
安部公房も石井監督もアタマおかしい。失礼な言い方ですみません。でも凡人には理解不能。
また、これを理解できるようになりたいとも思いません。凡人でええし(笑)。

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