茅葺き屋根をもつ舞殿がある奈良市興ヶ原(おくがはら)町の天満神社。
布目川沿いに鎮座する。
昭和10年4月吉日、昭和30年5月参日、昭和50年4月20日、平成7年にも正遷宮されてきた舞殿で翁舞を奉納する神事が行われる。
茅葺きの舞殿は能舞台である。
20年おきに造営をしてきた建物は3年後の平成27年には正遷宮を行う予定だと話す氏子総代たち。
天理市福住に住む萱葺き職人にカヤサシを頼むことになるだろうという。
舞殿には神輿が置かれている。
先ほどに行われた神遷しを終えて神さんは神輿に坐ましていると云う。
神さんは衣笠(ヒトガキ;人垣とも呼ぶ・伊勢はキヌガキと呼ぶ)と呼ばれる白い布で覆い隠して遷したそうだ。
天満神社の祭礼は10月16日、17日であったが現在は第二か第三土曜、日曜に替った。
氏子総代は3年任期。
3人の総代が入れ替わりながら勤める村神主(禰宜とも)。
つまり一斉にかわるのではなく一年ずつ繰り上がるのである。
2年目にあたる総代が行事進行役になると話す。
祭典の段取りから諸々の手配などがあり、なにかと忙しく気を配ることが多いと云う。
翁舞はオトナ衆によって演じられる。
オトナ衆は終身制の年齢順。
最年少者でも70歳過ぎで引退する人もおられて現在は9人。
一老を勤めているのは神社宮司の筒井一雄氏。
しかもこの年は当家にあたり、一人で三役を勤める。
筒井氏からは何年か前に是非来てほしいと云われて数年。
今年になってようやく訪れることになった。
久しぶりに元気なお顔を拝見させていただいた。
筒井氏は東山間で度々お会いした。
山添村の春日、中峯山、菅生に吉田などである。
兼務社は多く高齢になられた現在も各地を飛び回っている。
数年前にはお身体に支障がでたと聞く。
代役を勤める神職もまた馴染みのある方ばかりだ。
総代、オトナ衆に自治会長ら参列者はスーツ姿。
かつては和装だったようだ。
舞殿の前には子供御輿もある。
担ぐことはなく村を曳行する翌日の秋祭りに繰りだされる。
かつての興ヶ原は60戸。
徐々に減って今は40戸になったという御輿の巡行である。
神遷しを終えた宵宮神事が始まった。
一同は社務所にあがる。
座敷には当家の御幣などを立て掛けている。
席に着いて祓えの儀。
村神主が斎行される。
座中には村神主と同じような衣装も身につけている男性も座っている。
翁舞の演者である。
かつてはオトナ衆が勤めていた翁役。
継承することが難しくなって6年前の平成19年に保存会を立ち上げた。
その年より若い人が勤めることになったという翁舞は山添村春日の春楽社の指導を受けて今日に至る。
祓えの儀を終えれば斎場は舞殿に移る。
神さんを遷しましされた神輿に向かって宮司が拝礼する。
一同揃って頭を下げる。
祝詞の奏上、神饌の献上、玉串の奉奠と祭祀を執り行う。
舞殿向こうには提灯を掲げている。
屋外の屋根下に注連縄を飾った屋形がある。
それは祓い戸社。
明日の祭りの際にはここに向かって祓えの儀が行われるようだ。
神事を終えれば翁舞。
三方に盛られたオヒネリが数個。
かつては一人ずつ差し出すオヒネリだった。
オヒネリが挿しだされる度に翁が舞ったという。
現在は効率化を考えて三つのオヒネリで一舞を演じる。
面箱から慎重に取り出す翁の面。
踊り子の顔に装着する。
賑々しく行われる。そうして始まった式三番の翁舞。
シテの「とうどうたらり たらり ら たらり ららり ららり どう」。
地謡が詠う「ちりや たらり たらり ら たらり ららり ららり どう」。
陽がときおり挿し込む舞殿の翁が静かに登場する。
シテの「所千代まで おわしませ」。
地 「われらも 千秋さむら う」。
シテ 「鶴と亀との よわひ にて」。
地 「幸ひ 心 に まかせたり」。
シテ 「とうどう たらり たらりら (たらり ららりららりどう)」。
地 「ちりや たらり たらり ら たらり ららり ららりどう」。
シテ 「あげまきや とんどうや」。
地 「ひろばかりや とんどうや」。
シテ 「さかりて ねたれども」。
地 「まろびあいにけりや とんどうや」。
シテ 「千早振る 神のひこじの 昔より 久しかれとぞ 祝い」。
地 「そよや りちやん とんどうや」。
シテ 「およそ 千峯の鶴は 万歳楽 とうとうたり」。
地 「また 万代の 池の 亀は 甲に 三玉を いただきたり」。
シテ 「滝の 水れいれいと 落ちて 夜の月 あざやかに 浮かんだり」。
地 「渚の砂 さく さく として あしたの 日の色 おろす」。
シテ 「天下泰平 国土 安穏の 今日の 御祈祷 なり 有原や なじよの 翁ぞ」。
地 「あれは なじよの 翁ぞや そや いづくの 翁どうどう」。
シテ 「そよや 千秋 万歳の よろこにの 舞なれば ひとまい 舞おう 万歳楽」。
地 「万歳楽」。
シテ 「万歳楽」。
地 「万歳楽」。
シテ 「長久円満 息災延命の 今日の 御祈祷なり」。
地 「これも 当社に たてたまう 願なれば 今日吉日をもって すませ 申す」。
シテ 「五穀成就 息災延命 一切諸願 かいろう満足 何れの 願か 成就せざらん これよろこびの 万歳楽」。
地 「万歳楽」。
シテ 「万歳楽」。
地 「万歳楽」で舞いを一曲終えれば長老の一老がひと声を掛ける。
「もう一番」の掛け声で再び演じる翁舞。
「これも 当社に たてたまう 願なれば 今日吉日をもって すませ 申す・・・「五穀成就 息災延命 一切諸願 かいろう満足 何れの 願か 成就せざらん これよろこびの 万歳楽・・・万歳楽・・・万歳楽の一節を舞う。
詠い仕舞いの万歳楽は「もう一番」、「もう一番」を繰り返してこの年は3回も舞った。
オヒネリはその舞いを望む志納料。
一包みの志納額は決まっている。
宵宮祭の翁舞を終えた人たちは再び社務所に登って直会。
下支えの手伝いさんによって宴が行われる。
(H24.10.20 EOS40D撮影)