あまりにルーズなタイトルなので、サブタイトルを読まないと、何について書かれた本かわからないだろう。孫崎享(まごさき・うける)さんの著作はこれまで読んだことがなく、わたしにとっては未知の著者だった。
「国際関係や国防について論じられたおもしろい本はないかな?」というわたしの質問に、友人はほかの数冊とともに、「孫崎さんを読んでみたら」と教えてくれた。
外務省出身の論客で、複数の国の大使をつとめた外交の専門家。防衛大学で教鞭をとっていたこともあると、その略歴にしるされてある。
論議の大前提となるのは、米国の衰退と、日本の外交指針。
東南アジア、東アジア各国・・・とくに中国のいちじるしい抬頭によって、アメリカの経済力、軍事力が相対的に衰退し、新しい枠組み作りがはじまっているというものである。
ただ非常に引用の多い著書で、文章は平明だけれど、必ずしも読みやすいとはいえないように思われた。
《戦後の世界には、常に米国が最強という「柱」があった。軍事的に経済的に、文化的にも他国を圧倒した米国が戦後世界を取り仕切った。旧ソ連との冷戦に勝利し、日本の経済的挑戦をも退けたことで、盤石と思われたその地位が、しかし今、揺らいでいる。米国の影響力が減退する中、世界は新たな秩序を模索し始めた。いっぽう日本は、ますます米国依存を深めているようにも見える…。外交と国防の大家が激動の国際政治をリアルな目で俯瞰。新時代の針路を読み解く。》
表紙裏に、こういう紹介文が掲載されている。
論点が多岐にわたっているうえ、参照している人たちの意見が、かなり仔細に紹介されているため、焦点がいくらかぼやけてしまったという印象をもった。
ただし、新聞やTVニュースなどで流される論調とは比較にならない、本質的な論点が抉り出され、本書の緊迫感は最後まで失われていない。
そのあたり、十分な読み応えがある。
わたしは若いころはやや左寄りの意見の持ち主だったが、この数年で、逆にやや右寄りの意見を持つようになってきている。
孫崎さんの“本音”は最後の数ページに「まとめ」として書かれている。
そこまでの論は、よくいえばたいへん目配りのいきとどいたものだし、悪くいえば、右顧左眄的。
しかし、全体としてはタカ派ではなく、ハト派の論客として一貫している。
米国はGDPなどでたしかに中国に追い越されてしまうが、実質的に「衰退」へ向かっているわけではなく、そのあたりは「日本の衰退」とは、明らかに一線を画している。
何といってもドルは世界通貨だし、英語は世界語。そのうえネット社会を支配しているのもアメリカで、これらが作り出す枠組みはまだまだゆるぎそうにない。
二国がにらみ合った冷戦時代が終焉して、21世紀はアメリカ一国支配としてスタートした。
経済的、軍事的にアメリカ追随でやってきたわが国が、外交政策、経済政策、軍事政策などを見直さねばならない曲がり角にあることは、だれも異論がないだろう。
孫崎さんの本書が、専門家やマスコミでどう評価されているのかわからないが、こういう問題を考えるうえでは、必読の書たる地位をもっていると評価していいだろう。まして日本のかじ取りは、ふたたび自民党と、自民党によってささえたれた内閣と行政に一任された形になっている。
なにしろ、与野党の「ねじれ」の解消によって、自民党政権は、これまでになく大きな権力・政策決定権を手に入れた。これまでの慣習や因習にとらわれない、清新な発想が必要となるだろうし、世界に対し、大きな影響力を行使できる立場を、まだ失ってはいないと思われる。
そういうことを、本書によって気づかされた。わたしにとっては、貴重な一冊。
評価:☆☆☆☆★(4.5)
「国際関係や国防について論じられたおもしろい本はないかな?」というわたしの質問に、友人はほかの数冊とともに、「孫崎さんを読んでみたら」と教えてくれた。
外務省出身の論客で、複数の国の大使をつとめた外交の専門家。防衛大学で教鞭をとっていたこともあると、その略歴にしるされてある。
論議の大前提となるのは、米国の衰退と、日本の外交指針。
東南アジア、東アジア各国・・・とくに中国のいちじるしい抬頭によって、アメリカの経済力、軍事力が相対的に衰退し、新しい枠組み作りがはじまっているというものである。
ただ非常に引用の多い著書で、文章は平明だけれど、必ずしも読みやすいとはいえないように思われた。
《戦後の世界には、常に米国が最強という「柱」があった。軍事的に経済的に、文化的にも他国を圧倒した米国が戦後世界を取り仕切った。旧ソ連との冷戦に勝利し、日本の経済的挑戦をも退けたことで、盤石と思われたその地位が、しかし今、揺らいでいる。米国の影響力が減退する中、世界は新たな秩序を模索し始めた。いっぽう日本は、ますます米国依存を深めているようにも見える…。外交と国防の大家が激動の国際政治をリアルな目で俯瞰。新時代の針路を読み解く。》
表紙裏に、こういう紹介文が掲載されている。
論点が多岐にわたっているうえ、参照している人たちの意見が、かなり仔細に紹介されているため、焦点がいくらかぼやけてしまったという印象をもった。
ただし、新聞やTVニュースなどで流される論調とは比較にならない、本質的な論点が抉り出され、本書の緊迫感は最後まで失われていない。
そのあたり、十分な読み応えがある。
わたしは若いころはやや左寄りの意見の持ち主だったが、この数年で、逆にやや右寄りの意見を持つようになってきている。
孫崎さんの“本音”は最後の数ページに「まとめ」として書かれている。
そこまでの論は、よくいえばたいへん目配りのいきとどいたものだし、悪くいえば、右顧左眄的。
しかし、全体としてはタカ派ではなく、ハト派の論客として一貫している。
米国はGDPなどでたしかに中国に追い越されてしまうが、実質的に「衰退」へ向かっているわけではなく、そのあたりは「日本の衰退」とは、明らかに一線を画している。
何といってもドルは世界通貨だし、英語は世界語。そのうえネット社会を支配しているのもアメリカで、これらが作り出す枠組みはまだまだゆるぎそうにない。
二国がにらみ合った冷戦時代が終焉して、21世紀はアメリカ一国支配としてスタートした。
経済的、軍事的にアメリカ追随でやってきたわが国が、外交政策、経済政策、軍事政策などを見直さねばならない曲がり角にあることは、だれも異論がないだろう。
孫崎さんの本書が、専門家やマスコミでどう評価されているのかわからないが、こういう問題を考えるうえでは、必読の書たる地位をもっていると評価していいだろう。まして日本のかじ取りは、ふたたび自民党と、自民党によってささえたれた内閣と行政に一任された形になっている。
なにしろ、与野党の「ねじれ」の解消によって、自民党政権は、これまでになく大きな権力・政策決定権を手に入れた。これまでの慣習や因習にとらわれない、清新な発想が必要となるだろうし、世界に対し、大きな影響力を行使できる立場を、まだ失ってはいないと思われる。
そういうことを、本書によって気づかされた。わたしにとっては、貴重な一冊。
評価:☆☆☆☆★(4.5)