
文章自体が古めかしいとは思わないけれど、いかにも学者・研究者らしいお固い文章なので、現代文学しか読んだことがない人には、かなり読みにくいだろう。途中で投げ出すか、あまりの注釈の多さにげっそりし、読む気になれないかもしれない。
「訳者序」に、本書は最初は1932年、つづいて1953年に刊行されているものが元になっていると書かれている。
「なるほど」と納得した次第である(笑)。1979年は改版され、新字・新かなとなり文字が大きくなった現行版の刊行を指している。
しかし、「史乗」「憧怳」「展述」など、こういった耳なれない語彙に接するとおやおやと腰がひけるだろう。泉井さん(1905~1983年)は、調べてみたら京大の学者で、歴史家ではなく言語学者。
比較言語学の分野ではたいへん有名な研究者であることがわかった。
注釈が非常に多く、その半数が比較言語学的なもの。ローマ人の言語たるラテン語のほか、古代の言語にもお詳しいようである。
語源探索にじつに熱心なので、言語学に興味がおありの読者なら、たしかに本書は何倍もおもしろく読める。
ゲルマン民族について叙述された最古の文献(西暦50年代に書かれた)が、タキトゥスのこの著作なのである。日本人が「魏志倭人伝」をめぐってわいわいと騒ぐようなもの。本文はいたって簡素、注釈の方がはるかに長い。
少々わずらわしいとはいえ、この注釈に泉井さんの研究の成果、学者としての実力がつめこまれている。

■「図説 ケルトの歴史 文化・美術・神話をよむ」鶴岡真弓/松村一男(河出書房新社 1999年刊)図説シリーズ・ふくろうの本
こちらはレビューは書いていないのだが、タキトゥスを読みはじめた直接のきいかけは、この「ケルトの歴史」をさきに読んだことによる。
図説と銘打ってあるので、絵画、写真、地図等の図版が豊富。読む本ではなく、見る本である。だが記事を読むとわかるが、期待した以上の充実の内容で、わたしはいたく感心した。
ヨーロッパの先住民としてのケルトの文化は、これまでほんの上っ面しか知らなかった。
だけど、じっさいはアイルランド、イングランドのみならず、大陸にも非常に広範囲に展開していた、太古の大民族なのである。東ヨーロッパにまで広がっていたことは、この「図説 ケルトの歴史」ではじめて教わった。
こうなると、知的好奇心全開である(´・ω・)?
「図説 ケルトの歴史」は主として考古学が発見した遺跡や古墳、美術品、現地の写真で構成されている。
「ふくろうの本」シリーズはどれも、ビジュアルな資料が目が覚めるような、美しい成果をあげている。本書には、ギリシア・ローマの文化とキリスト教のほか、もう一つの“源流”があることが、20世紀も後半になって明らかにされてきたことが書かれている。すなわち、第三の源流!
それが文字を持たなかったケルト人の文明である。ケルト人は大陸ではゲルマン人に押されて、西の端へと追いつめられてゆく。
鶴岡真弓さんの著作は本書がはじめてだけれど、いい文章をお書きになる卓越した研究者であることがつたわってくる。“我が道”をゆく泉井さんとは読者に対する理解度がはっきり違う。
掲載された写真の2/3は鶴岡さんが撮影しているところも大したもの(^^♪
ヨーロッパの第三の源流、ケルトの歴史を知るにはもってこいの本で、ビギナーへの配慮にもすぐれている。


塩野七生さんの「ローマ人の物語」を読んだときから、タキトゥス「ゲルマーニア」は、カエサルの「ガリア戦記」とならんで、読書リストの上位に挙がっていたのだ。「ローマ人の物語」は、新潮文庫でいうと、第9巻、10巻が、カエサルのガリア戦役の叙述にあててある。
民族大移動以前の古いヨーロッパ世界がどんなものか、タキトゥスは、考古学資料からはわからない貴重な証言をわれわれに残してくれた。ドイツ人、フランス人は、種々のむずかしい未解決の問題をふくみながらも、こういった時代のケルト人、ゲルマン人の子孫ということになる。
ものの考え方、文化、生活習慣と宗教は、キリスト教の受容による変化があったとはいえ、現代にいたるまで、西欧・北欧に深い影響をとどめている。
ローマの歴史家はほかにも大勢いると思うが、まずはタキトゥスに指を屈する人が大半だろう。
内容に踏み込むとレビューが長くなるから省略するが、読みにくいのを多少我慢し、最後まで本書につきあうことができてよかった。
それに見合うだけのすぐれた根本史料というべきである。決してむずかしいだけのつまらない本ではない。
評価:☆☆☆☆☆
参考:ケルト諸語圏
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%88%E8%AB%B8%E8%AA%9E%E5%9C%8F
「訳者序」に、本書は最初は1932年、つづいて1953年に刊行されているものが元になっていると書かれている。
「なるほど」と納得した次第である(笑)。1979年は改版され、新字・新かなとなり文字が大きくなった現行版の刊行を指している。
しかし、「史乗」「憧怳」「展述」など、こういった耳なれない語彙に接するとおやおやと腰がひけるだろう。泉井さん(1905~1983年)は、調べてみたら京大の学者で、歴史家ではなく言語学者。
比較言語学の分野ではたいへん有名な研究者であることがわかった。
注釈が非常に多く、その半数が比較言語学的なもの。ローマ人の言語たるラテン語のほか、古代の言語にもお詳しいようである。
語源探索にじつに熱心なので、言語学に興味がおありの読者なら、たしかに本書は何倍もおもしろく読める。
ゲルマン民族について叙述された最古の文献(西暦50年代に書かれた)が、タキトゥスのこの著作なのである。日本人が「魏志倭人伝」をめぐってわいわいと騒ぐようなもの。本文はいたって簡素、注釈の方がはるかに長い。
少々わずらわしいとはいえ、この注釈に泉井さんの研究の成果、学者としての実力がつめこまれている。

■「図説 ケルトの歴史 文化・美術・神話をよむ」鶴岡真弓/松村一男(河出書房新社 1999年刊)図説シリーズ・ふくろうの本
こちらはレビューは書いていないのだが、タキトゥスを読みはじめた直接のきいかけは、この「ケルトの歴史」をさきに読んだことによる。
図説と銘打ってあるので、絵画、写真、地図等の図版が豊富。読む本ではなく、見る本である。だが記事を読むとわかるが、期待した以上の充実の内容で、わたしはいたく感心した。
ヨーロッパの先住民としてのケルトの文化は、これまでほんの上っ面しか知らなかった。
だけど、じっさいはアイルランド、イングランドのみならず、大陸にも非常に広範囲に展開していた、太古の大民族なのである。東ヨーロッパにまで広がっていたことは、この「図説 ケルトの歴史」ではじめて教わった。
こうなると、知的好奇心全開である(´・ω・)?
「図説 ケルトの歴史」は主として考古学が発見した遺跡や古墳、美術品、現地の写真で構成されている。
「ふくろうの本」シリーズはどれも、ビジュアルな資料が目が覚めるような、美しい成果をあげている。本書には、ギリシア・ローマの文化とキリスト教のほか、もう一つの“源流”があることが、20世紀も後半になって明らかにされてきたことが書かれている。すなわち、第三の源流!
それが文字を持たなかったケルト人の文明である。ケルト人は大陸ではゲルマン人に押されて、西の端へと追いつめられてゆく。
鶴岡真弓さんの著作は本書がはじめてだけれど、いい文章をお書きになる卓越した研究者であることがつたわってくる。“我が道”をゆく泉井さんとは読者に対する理解度がはっきり違う。
掲載された写真の2/3は鶴岡さんが撮影しているところも大したもの(^^♪
ヨーロッパの第三の源流、ケルトの歴史を知るにはもってこいの本で、ビギナーへの配慮にもすぐれている。


塩野七生さんの「ローマ人の物語」を読んだときから、タキトゥス「ゲルマーニア」は、カエサルの「ガリア戦記」とならんで、読書リストの上位に挙がっていたのだ。「ローマ人の物語」は、新潮文庫でいうと、第9巻、10巻が、カエサルのガリア戦役の叙述にあててある。
民族大移動以前の古いヨーロッパ世界がどんなものか、タキトゥスは、考古学資料からはわからない貴重な証言をわれわれに残してくれた。ドイツ人、フランス人は、種々のむずかしい未解決の問題をふくみながらも、こういった時代のケルト人、ゲルマン人の子孫ということになる。
ものの考え方、文化、生活習慣と宗教は、キリスト教の受容による変化があったとはいえ、現代にいたるまで、西欧・北欧に深い影響をとどめている。
ローマの歴史家はほかにも大勢いると思うが、まずはタキトゥスに指を屈する人が大半だろう。
内容に踏み込むとレビューが長くなるから省略するが、読みにくいのを多少我慢し、最後まで本書につきあうことができてよかった。
それに見合うだけのすぐれた根本史料というべきである。決してむずかしいだけのつまらない本ではない。
評価:☆☆☆☆☆
参考:ケルト諸語圏
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%AB%E3%83%88%E8%AB%B8%E8%AA%9E%E5%9C%8F