磯田道史「天災から日本史を読みなおす 先人に学ぶ防災」（中公新書2014年刊）レビュー

期待したほどおもしろくは読めなかった。
いや、おもしろいといっては語弊があるだろう。災害には被災者がいる。犠牲となった多くの人たちのことを想像して、胸が痛まない読者はいない。
歴史上有名な天災や、古文書にかろうじて記録をとどめたシリアスな災害場面が、つぎつぎ紹介される。

しかし、本書の成り立ちは新聞の連載記事をそのまままとめたようで、くり返しが多く、全体としては散漫な印象となってしまった。書き下ろしの本が備えている凝縮力にとぼしい。
もはや恒例となったが、BOOKデータベースの内容紹介を引用させていただく。

《豊臣政権を揺るがした二度の大地震、一七〇七年の宝永地震が招いた富士山噴火、
佐賀藩を「軍事大国」に変えた台風、森繁久彌が遭遇した大津波――。
史料に残された「災い」の記録をひもとくと、「もう一つの日本史」が見えてくる。
富士山の火山灰はどれほど降るのか、土砂崩れを知らせる「臭い」、そして津波から助かるための鉄則とは。
東日本大震災後に津波常襲地に移住した著者が伝える、災害から命を守る先人の知恵。》

磯田道史（いそだみちふみ）さんは古文書を読むのがお好きだし、得意。
どこかに書いてあったが、小学校のころから古文書が読めたというから驚きである(@_@)
うずもれた記録となって日本各地に残っている災害のありように関心を深めてから、興味をもつと、著者は古文書を求めて、わざわざ地方の図書館や旧家へ出かけていく。

それがこういう連載となって結実したわけだ。政治史や生活史だけが歴史ではない。天災・・・つまり自然災害の歴史も、その大半は埋もれていた。
人間は結局のところ、何もかも“忘れて”しまう生き物。
曾祖父から祖父へ、父へ、息子へ。生死にかかわる深刻な体験すら、世代が交代するにしたがって、どんどん失われしまう。
2011年3月11日、東日本大震災によって、その記憶が目を覚ます。

本書もそういったきっかけがあって誕生した一冊。
磯田さんは、あとがきの最後をこうしめくくっている。
《東日本大震災後、歴史地震についての本が数多く出版された。
多くは理系の研究者によって書かれ、地震や津波の実態を明らかにするもので、大変参考になる。
一方、本書は、地震や津波ではなく、人間を主人公として書かれた防災史の書物である。防災の知恵を先人に学ぶとともに、災害とつきあい、災害によって変化していく人間の歴史を読みとっていただけたなら、幸いである。》と。

本書では地震、津波ばかりでなく、台風、火山噴火（富士山）や土砂崩れ、高潮などの天災についても、過去にさかのぼって歴史に刻まれた記録を探索する。
読者からの電話、手紙等によって現地に駆けつけ、調査する。その熱心さ（＋ｏ＋）
災害列島日本の過去の記憶が、こうして掘り起こされることになった。
記録された文書をもとめ、足繁く現地を訪れて、だれかが調査し、書かなければならなかった本である。
わたしも理系の地震・津波に関する本は数冊、興味深く読んだが、歴史家の研究書ははじめて。

とくに近世の古記録は読み応えがあるものが相当数埋もれていることを、この本によって教えられた。わたし自身が、いつ罹災者になるか、未来のことはわからない。もっと深刻に受け止めねばならないのかもしれない。
今年2019年秋にやってきた台風による風水害も、甚大な人的・物的被害をもたらした。
まさに、災害多発列島。

1億2千万の日本人のすべてが、災害死のことを考えなければいけないのだろう。
そこからどう身を守っていくのか？
国家や地方自治体の行政にばかり期待し、注文をつけていないで、「自分の身は自分で守る」という原則に立ち返らないといけないのだ。
そういう意味で、本書「天災から日本史を読みなおす」は教訓の書である。500年、あるいは1000年以上もの時を遡って、この土地にどんな自然災害が、いつ、どのようにあったのか！？

地球は人間のために存在するのではない。
そして「歴史はくり返す」のである。
そのことを肝に銘じ、わたし自身、生活の場をあらためて見なおそうとしているところである。



評価：☆☆☆☆