二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

村田屋のうどん(ポエムNO.100)

2012年12月23日 | 俳句・短歌・詩集

暗い夜の底でゴイサギが啼いている。
あれはなんのために啼いているんだろう。
クルマのヘッドランプが 峠道をのぼってゆく。
・・・二台三台 四台。
クルマの音は聞こえない。
そういう距離なのだ 五百メートルはあるだろう。

ぼくはホテルの二階の窓から
そんな光景を見るともなく見ていた。
いまから二十年か もっと昔のこと。
そんなほとんどなんの意味もない記憶が甦ってくる。
ああ なんだか疲れているんだろうか。

人と話すのがいやになって
今日はだれともしゃべっていない。
携帯の着メロが二回鳴った。
遠く 夜の底で啼くゴイサギの声のように。
そっちには用事があっても
ぼくにはそっちに用事なんてありはしない。

厭世的になってるのかい また。
すぐ向こうの竹藪で風が竹の葉を騒がせている。
このあいだまでは夢を食うバクに似ていたが
いまはなにに似ているんだろう。
夢はいくら食べても腹のたしにはならない。
錆びた包丁がまな板の上ですすり泣いて。

ぼくは台所の流しにごろんところがる。
大きな音があたりに響くが 一瞬だけだ。
夜の涯までいって 数分後その音の木霊が返ってくる。
ああ こんな夜すらそんな拡がりがあるんだ。
うどんが食べたい。
そう あのとき食べそこなった あの村田屋の手打ちうどんが。

だけどいっしょに食べたかったあの人はもう死んでいないから
うまさ半減だろうね。
そのことを考えると今夜
まな板の上の錆びた包丁のように淋しい。
さてさて またいっしょにうどんを食べてくれる人をさがしに旅立とう。
村田屋のうどんが無性に食べたくなったので ね。



※写真と詩のあいだには直接の関連はありません。

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