二草庵摘録

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「マルクス思想の核心 ――21世紀の社会理論のために」鈴木直(NHKBOOKS 2016年刊)レビュー

2018年12月27日 | 哲学・思想・宗教
  (最後のフィニッシュが決まらなかったので、評価が下がった)


う~ん、本書の第七章(最終章)にはいささかびっくり(*゚。゚)
たぶん“まとめ”に入ったのだろうが、まるで木に竹を接いだような無理がある。わたしの眼にはそう映じた。
マルクスに代わって、カントとハーバーマス理論の要約・紹介となっているのだ。改めて鈴木直さんの来歴、肩書を見返すと“社会思想史”が専門だとある。

しかし、この最終章が結論だとすると、マルクスはどこへ消えたのか?
表紙裏に、つぎのような紹介文が掲載されているので引用させていただく。

《二十世紀に「死んだ」と言われたマルクス思想が注目されている。資本がすべてに優越する状況が、十九世紀と似てきているからだ。しかし富の分配や「格差」の是正は、本質的な問題ではない。それよりも、富とは何か、それはどのように生み出されるのか、どのような形で蓄積されるのかを探究したのがマルクスだった。賃金労働は生物としての人間の本質を損なう性質を持つとして資本主義の問題点を鋭く見抜いたマルクスの視点を踏まえ、国際資本が国家から個人までも翻弄する現状を打破するための条件を提示する。仕事に追われるすべての給与生活者、必読!》

この内容からすると、「マルクス思想の核心」というタイトルはやや強引との感を免れないだろう。21世紀の社会理論を構築するため、マルクスの思想を援用しました・・・ということかな(ノ_・)。
だとすれば、ほかにもっと内容にふさわしいタイトルがあったはず。
第五章あたりまでは、偏見に毒されていない、優秀な教科書的記述が中心となって、ビギナーの関心を惹くだろう。意地悪くいえば、あたりさわりのない、牙を抜かれた思考が積み重ねられているといっていい。
わたしは、そういった記述で貫かれた良心的な本だと誤解した。
しかし・・・最後の一章で、唐突というしかない鈴木さんの自己主張が表に出てしまった。

第六章あたりから、迷走がはじまる。ロックの「市民政府論」やホッブズの「リヴァイアサン」を紹介しているあたりまでは、理論構築の冴えもある。
だから第七章にいたって「あれれ、何がいいたかったの?」と戸惑う読者が多いのではなかろうか。
マルクスの商品論、貨幣論に立ち向かう鋭い、説得力ある分析を期待していたのに。

《たしかに貨幣は宗教を世俗化する。にもかかわらず貨幣には宗教と似たところがある。交換価値とその純粋形態である貨幣には、いつでもある種の神学と形而上学がつきまとっている。神を作り出したのと同じメカニズムは貨幣の誕生にも深く関わっているはずだ。貨幣は宗教の追放者であっただけではない。貨幣はまた宗教の継承者でもある。貨幣は紫の衣を脱ぎ捨て、黄金の輝きを持つ現代の神となった。これがマルクスの見方だった。もしそうであれば、資本主義批判は現代の神学批判でもあるだろう。》(本書136ページ)

このあたりまでは、独創性はないものの、耳をそばだてずにはいられない論理的展開となっている。しかし、貨幣論では、われわれはすでに、岩井克人さんという非常に有能な論客をもっている。わたしは岩井さんには、じつに多くのことを教えていただいたことを覚えている。
このあいだ読んだ柄谷行人さんとの対談も、スリリングな論点が洗いだされていて、おもしろかった。(「資本主義を語る」ちくま学芸文庫)

商品と貨幣。
このからくりをいかにときほぐすか・・・マルクス論者なら、そこに問題の核心が存するのを知っている。マルクスが観察していたのは19世紀イギリスの産業社会だが、われわれはグローバル化が貫徹されつつある21世紀のEUやアメリカ、日本、中国を見ているのだ。
格差社会論は、ピケティの「21世紀の資本」で詳細に分析されていた。しかし、「21世紀の資本」を読んだ読者は、「資本論」の卓越性を、あらためて思い出したのだ。

ピケティはマルクスはまったく読んでいないとインタビューでは答えているが、本当かどうか、怪しいものである。
まあ、“マルクスについて語られた文献”を読むのではなく、 “マルクスそのものを読む”時期が、わたしにもきているように思わないでもない。結局のところ、マルクスに言及する哲学者、社会学者、思想史家は、自身の理論構築のため、マルクスを利用しているだけの人が多い´0`*)

基礎的な知識、知見を蓄えたら、まだ非力なため挫折するかもしれないが、マルクス論ではなく、マルクスそのものに取り掛からねばならない。
いろいろな翻訳が刊行されいるので、どれをどう読み解いたらいいのか、セレクトするのが悩ましい。しかし、準備は徐々にすすめている。
本書のようなビギナー向けの“解説書” “参考書”を必要としなくていいレベルまで、何とか歩いていきたいものである。

たくさん準備してあるうち、さて、つぎはどの本を読もうか?


評価:☆☆☆

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