二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

復路にて(ポエムNO.57)

2011年09月17日 | 俳句・短歌・詩集


折り返し点がどこであったのかわからぬが
ぼくはすでに復路にいる。
四十になったあたりから
方向転換を図ろうとしてはいたのだけれど。
生地という湿気が肌をうるおす。
ここでやがてぼくは土にかえるのだけれど。

復路もまた 隘路から隘路への連続だった。
歯がかけ 墨染めの衣を着た皺ふかい男が
トノサマガエルのようにのそのそやってきて
夕焼けに染まる西空を茫然と見あげている。
「お祖父さん!」
呼びかけてみるが返事がない。

その男がひきつれて歩くおびただしいカラスの群れ。
雑木林をわたっていく風の音が勢いをまし
将門塚のあたりから突如軍馬の蹄のとどろきが起こって
木戸がパタパタととざされ
あたりに不穏の気がひたひた満ちて。
つゆにぬれた秋の七草の根方がほの明るく光る。

ここは北関東で つい数百年まえまでは
各地で武士団と称する小集団が離合集散をくり返していたのだね。
できるなら・・・そこまで。
吾妻鏡の彼方 数百年の時空の旅は
まだはじまったばかりだ。
頭(かしら)を低くし 草の根をわけてすすんでいる。

往路の人物と復路の人物はまるで別人のようで
あたりの景観はもの淋しくなつかしく。
ずいぶん昔に見たものをぼくは逆方向から
もう一度見ている。
ああ 薔薇いろの雲がつきるあたりに
かつてぼくが先祖と住んでいた家がある。

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