二草庵摘録

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「ふしぎの国のアリス」ルイス・キャロル(北村太郎訳)集英社文庫 レビュー

2015年07月04日 | ファンタジー・メルヘン
アリス! この子どもの話、きみにあげよう。
やさしい手で、これを置いておくれ、
子ども時代の夢が、思い出の
神秘のリボンに編まれているところに。
遠い土地でつまれ、しおれてしまった
巡礼の花冠(はなかむり)のようにね。

(序詞より 北村太郎訳)

この名高いファンタジーには、じつにたくさんの訳書があり、どれで読むかは読者のお好み次第。
わたしの記憶では高校1年か2年のとき、英語学者・岩崎民平訳(角川文庫)を手に入れたのが最初だったとおもう。しかし、第一章「ウサギの穴」を読んだだけで挫折。20代になってから、別な訳本(だれの訳だったか記憶にない)で少し読みかけ、また挫折・・・という前歴があった。

ひとくちにファンタジーといっても、ゴシックロマン風味、冒険活劇風味、人間味豊かな童話風味、教訓譚風味、SF小説風味等いろいろな味付けがある。この「ふしぎの国のアリス」は、そういった中にあって、1865年に刊行されたナンセンス物の古典という位置にあり、いまだ世界中で読みつがれている。
それからずいぶんのちになって「ルイス・キャロル写真集」を店頭で立ち読みし、興味をかきたてられた経験がある。いまではネットの画像検索で、それらの大半を見ることができる。
http://image.search.yahoo.co.jp/search?ei=UTF-8&fr=crmas&p=%E3%83%AB%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AD%E3%83%AB+%E5%86%99%E7%9C%9F%E9%9B%86

彼は少女のヌード写真やスケッチを残していて、児童性愛者と見られたこともあったらしいが、現在では否定されている。
本職は数学者であり、文学者としての天分を豊かにそなえた風変わりな人物であった。
現在、ゲームやアニメの世界で一世を風靡するロリコン趣味のはしりということになるかもしれないけれど、彼の名誉のためにいっておかねばならないのは、それらが危険な「児童ポルノ」とは一線を画していること。

わたしは新潮文庫「不思議の国のアリス」ももっている。これは矢川澄子訳、金子國義画である。
だけどなあ・・・アリスといえば、あのジョン・テニエルの挿絵だろう。
通読することができたのは今回がはじめてだが、ジョン・テニエルの挿絵は、過去に何回も見て、記憶に焼き付いている。キャロルは場面に必要な描写をしばしば省略しているので、この挿絵が読者にあたえるインパクトは無視しえないものがある。日本流にいえば「二人三脚」、本文とテニエルの挿絵は切り離すことができないというのがわたしの考えである。

ストーリーはいきあたりばったり。まさにナンセンスそのものといえる。意味やストーリー展開の必然性なんてものは存在しないが、最後になって、これがアリスの夢の中の出来事だと書いてあるのを読んで納得。
本書巻末に付されたエッセイで阿刀田高さんが「ストーリー性の弱さ」を指摘しているが、わたしもその説に賛成する。ただ、登場人物(人物とはいえないが)のキャラクターは驚くばかり個性的で、魅力に満ちあふれ、読者をぐいぐい引っぱっていく力がある。

トランプの女王やその配下たちをはじめ、白いウサギ、チェシャ・ネコ、帽子屋、ヤマネ、ネズミ、ニセウミガメ、グリフォンなど素っ気なく描かれていながら、光彩陸離たる印象深い配役たちで、本作から抜け出して一人歩きしそうなほど!! だれもがそう感ずるのではないだろうか。

この集英社文庫は詩人でもあった訳者北村さんの解説がいきとどいていて、わたしのような読者の理解を助けてくれる。巻頭には4ページにわたって、写真や図版の資料があるのもいいな♪ わたしにとっては本書が「ふしぎの国のアリス」決定版である。
キャロルがつくり出した俗にいう「かばん語」などは、のちにJ・ジョイスなどに影響をあたえているのだろうか?

姉妹編「鏡の国のアリス」はこれからのお愉しみ。これはどの訳本で読もうかな。ちょっとワクワク♪



※評価:☆☆☆☆(5点満点)

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