二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「ウィーン  世界の都市の物語」

2008年04月06日 | エッセイ(国内)
ウィーンといえば、まず音楽の都。
そして世紀末芸術ということになるだろうか?
ローマによって防衛基地として誕生し、その後長らく、ハプスブルク家のオーストリア帝国の首都であった輝かしい歴史。
ここには、ロンドンやパリにはない、もうひとつのヨーロッパがある。
モーツァルト、ベートーベン、そして、いわゆるウィンナワルツの都。あるいは、マーラーのウィーン。
つぎにはクリムト、エゴン・シーレなど「世紀末の画家」たちが活躍したウィーン。
フロイトやヴィトゲンシュタインなど、後世にその名を残したユダヤ人を生んだ町であり、
ヒトラーがその青春の一時期を送った町でもある。
人によっては「第三の男」の名場面を思いおこすだろう。

いまではヨーロッパ旅行も手軽になったから、観光都市としてのウィーンを知っている日本人にはことかかないであろう。いってきてから、あるいはその直前に本書を読めたら、
どんなにおもしろかったろう。中東欧を一周して帰ってきた友人の土産話を聞いたことがある。
プラハ、ブダペストなどといった都市もそうだが、
TVなどで番組放映があると、可能なかぎりみてきたつもりだから、
ある程度の予備知識はある。

著者森本さんの本ははじめて通読したが、新聞、雑誌に発表された文章は、
これまでいくらか読んできて、うっすらとした記憶も持っている。
「良質な趣味人」「ひかえめなディレッタント」
失礼ながら、そういった印象がつよかった。

しかし、本書の印象派は、読むにしたがって、尻上がりによくなっていった。
森本哲郎という朝日新聞あがりのエリートが、なぜ「ウィーン」を書くにいたったか、
理解が深まっていくからである。旅行のガイドブックではないので、ウィーンをめぐるきままなエッセイとなっていくのはやむをえないが、
司馬さんの「街道をゆく」に似た、ビターな味わいを感じることができた。

とはいえ、本書の単行本の刊行は1992年である。すでに16年が経過してしまった。
その間、ヨーロッパも変わったし、日本も変わった。
ウィーン在住の日本人の数も、森本さんがしげしげと足をはこんだ時代とは比較にならないだろう。
森本哲郎さんは1925年生まれ。
敗戦時20歳である。「う~ん、古きよき教養人だな~」と呟いてもみたくなった。
日本は、そろそろこういった神話と幻想から抜け出したほうがいい。
つまり・・・、
<古いもの=価値がない、古くさい、魅力がない、つまらない>
<新しいもの=刺激的で魅力にとんでいる、性能・使い勝手がすぐれている>

古色蒼然たる、古きよき都、ウィーン。
それは、日々あたらしいウィーンでもある、と本書が気づかせてくれた。

森本哲郎「ウィーン」(世界の都市の物語)文春文庫>☆☆☆☆




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