藺草の栽培地をもとめて、中国湖南省の僻地へ入っていった日本人商社マンが経験する、謎と恐怖に満ちた物語。
ご自身の体験を下敷きにしているのだろうか?
中国の風景や、中国人たちは、うまく描き分けてあるという印象をうけた。「桃源郷」神話を利用しながら、カフカ的な迷宮世界を作り出すことに成功しかかっている。それが評価され、1990年上半期の芥川賞を受賞。そのあとも活躍されて、読売文学賞、谷崎賞、川端 . . . 本文を読む
批評というよりも、いつも「時評」的な言説ばかりが目立つ斎藤美奈子さん。他人の著作をネタにして、おちょっくたり、イナしたり、ゲップをあびせたり、毒を吐いたりがお得意なのはいいが、こういったゲリラ的、時評的な書物にはおのずから「賞味期限が短い」という限界がある。一貫していて、ご本人がマジで主張しているのは、フェミニズム的な立場からの男性および男性社会批判だろうな。彼女自身の思想を正々堂々と展開すればい . . . 本文を読む
読みはじめてから、10日間ほどかかって、本書を読みおえた。これほど時間がかかったのは、並行してほかの本をあれこれ拾い読みしていたからである。
おもしろいのだけれど、とにかく長い。文庫本で754ページ。500ページを過ぎたあたりで息切れしてしまった。
主人公の警部フロストのキャラは、相変わらず。とにかく八方破れで、下品で、事務処理能力はゼロ、ヘビースモーカー・・・そして、仕事中毒の中年おやじ。 . . . 本文を読む
宝島社「このミス!」や週刊文春の恒例となっている、年末の人気投票で、毎年のように名をつらねているジェフリー・ディーヴァー。
リンカーン・ライム&アメリア・サックスシリーズは、彼の看板出し物で、これが6作目。「所詮はエンタメ。娯楽作品でしょ」という人もいるけれど、ここまでくれば、境界はかなりあいまい。そのくらい、想定している読者のレベルは高いのではないだろうか。
毎回のこととはいえ、このシリー . . . 本文を読む
「石の猿」もよかったが、はるかその上をいく、
ノンストップ・ジェットコースター・ミステリ・ノベル。
もしかしたら、「羊たちの沈黙」あるいは「ジャッカルの日」を読んで以来の興奮を覚えているかもしれない。
いや、まちがいなく、そうなのだ。
もう寝なければと思いつつ、3時になっても、本が手からはなせない。
うまいし、パワフルだし、どんでん返しの連続技がつぎつぎと決まっていく!
一昨日から読 . . . 本文を読む
ウエブサイトに、さまざまなレビューがあふれているので、わたしがつけ加えることはほとんどない。映画化もされた「ボーン・コレクター」にはじまる、ご存じ、安楽椅子探偵リンカーン・ライム・シリーズの第4作。安楽椅子といっても、主役のリンカーン・ライムは、脊椎損傷により、四肢麻痺というハンディキャップを負っている。
このライムの手足となって活躍するのが、若いころ、モデルの経験もあるという、ニューヨーク市 . . . 本文を読む
若いころにたしか米川正夫さんの訳「永遠の良人」として読んだ気がする。
現行の新潮文庫で311ページ。
大作の多いこの文豪の作品としては、中編に属するといえる。ほかに「貧しき人びと」「分身」「賭博者」などがこの分量になる。もっとも、わが日本では、この程度でも長編あつかいされるだろう。いま大雑把に計算したら、400字づめ換算で470枚もある。
ドストエフスキーが描く「ダメ男」の系譜につながるト . . . 本文を読む
やれやれ、「悪霊」を読みおえた。
いかにもドストエフスキーらしい、圧倒的なシーンがつぎからつぎへと展開するので、無知で怠惰な読者としては、ついていくのがたいへんである。関心をもって手にしても、ライトノベルとか携帯小説とか、はやりものの改行だらけの小説になじんでいる読者は、おそらく途中で投げ出してしまうだろう。
彼は数多くの長編小説を書いたが、そのうち4作は、いずれも「世界の十大小説」に名を列し . . . 本文を読む
こういうエッセイにどんな書評を寄せても空しさがつきまとう。
開き直った女性の、ヤジと嘲弄でうめつくされた本である。
あれれ、何ページか前に書いてあることと矛盾してるじゃん!?
・・・などと野暮なことをいってはいけない。それがこの人の「藝」であり、ご本人もそれは承知している。
「ベストセラーがすぐ古びるように、時評的な文章もまたたくまに鮮度が落ちる。雑誌連載をまとめて単行本にするだけだって . . . 本文を読む
たとえば、本書下巻、198ページ。
『「海賊ども!」彼はもっと甲高い、もっとばかげた調子でわめき立てたが、そこでぷつりと声がとぎれてしまった。彼は自分が何をしようとしているのかをまだ知らず、その場に突っ立っていたが、しかし、自分がいますぐ、何かをするであろうことをはっきりと知り、全存在で直感していた。』
「彼」とは、知事のレンプケである。
ドストエフスキーお得意のカーニバルがはじまっている . . . 本文を読む