ウエブサイトに、さまざまなレビューがあふれているので、わたしがつけ加えることはほとんどない。映画化もされた「ボーン・コレクター」にはじまる、ご存じ、安楽椅子探偵リンカーン・ライム・シリーズの第4作。安楽椅子といっても、主役のリンカーン・ライムは、脊椎損傷により、四肢麻痺というハンディキャップを負っている。
このライムの手足となって活躍するのが、若いころ、モデルの経験もあるという、ニューヨーク市警、鑑識課巡査、美貌のアメリア・サックス。
このコンビが、「犯罪の帝王」ともいうべき敵と、毎回死闘を演ずるといった、ハリウッド映画的な設定は、いささか好みが分かれるところだろう。
しかし、宝島社の「このミステリーがすごい!」の常連であることを考えると、現在進行形のシリーズ・ミステリでは、ウィングフィールドの「フロスト・シリーズ」などと人気を二分するファンを擁していると思われる。
あらすじは・・・。
『中国からの密入国を斡旋する蛇頭にして、11人殺害容疑で国際指名手配中のゴースト。そのゴーストが斡旋した不法移民とともに米国へ向かっているとの情報を得たニューヨーク市警はライムの協力によって、その密入国船を発見する。しかし、それを察知したゴーストは不法移民もろとも船を爆破し、沈没の騒ぎにまぎれて姿をくらます。かろうじて救命ボートで脱出した十二人の中国人たちもニューヨークのチャイナタウンにその身を隠す。しかし、自分の顔を知られているゴーストは助かった不法移民たちの殺害を企て、追跡を開始していた。ライムとサックスもわずかな手掛かりを頼りに移民とゴーストの行方を追う。はたして、ライムはゴーストよりはやく移民たちを見つけて保護することができるのか・・・。』
かのシャーロック・ホームズ以来、名探偵が活躍するシリーズ・ミステリは数多く存在する。わたしがこれまで愛読したのは、エド・マクベイン「87分署シリーズ」で、30冊くらいは読んでいるはず。
ほかに、スウェーデンのマイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー夫妻が発表したマルティン・ベック・シリーズ(1965~1975年)は、全10作をすべて読んだ。この2シリーズは、いわゆる名探偵=スーパーマンが快刀乱麻の大活躍をするホームズ系ではなく、ふつうは市民として暮らす等身大の警察官が主役である。そこに、小説的なリアリズムの裏打ちがあって、捜査側の人物の個々の生活が描かれ、その生活的な背景の上に、ミステリとしてのスリルやサスペンスが、いわば2階建ての建築物のようにのっている。
スチュアート・ウッズ「警察署長」も好きだし、トレヴェニアンの「夢果つる街(原題「The Main」)も印象が深かったが、こういった作品は、ほかにいくらでもありそうである。
今回はヨーロッパ的な起源をもつライムの科学捜査に対して、中国からの密航者という、東洋文化を正面切って取り上げたところが新鮮。いつものことだが、ディーヴァーのリサーチはほぼ完璧といっていい。中国人という存在をリアルに浮かび上がらせているし、ストーリーの展開は、まったく破綻がみられない。わたしは約3日で読みおえたが、俗にいう、ノンストップ・ジェットコースター小説である。
ここ4、5年翻訳ミステリからは遠ざかっていたから、はじめはいささかとっつきにくかった。しかし、読み出すと、またしてやられる。
「おや?」「おや?」作者のミスリードにおつきあいしながら、仕掛けの在処やサスペンスの手のうちを読もうとするのだが、むろん、しっぽはつかめず、最後にすてきなツイストを効かせて、見事な着地を決めるあたり、たいへんな秀作である。しかも、真犯人が捕まったあと、ディーヴァーは、もうひとひねりして、読者をひっぱっていく。
殺伐とした犯罪シーンばかりでなく、登場人物たちの人間的な苦しみ、よろこびを、多少型にはまっているとはいえ、きちんとトレースしていく。
ネタバレとなるので、具体的には書けないが、ニュアンスにとんだシーンを積み重ねたあとに次第に明らかとなる物語の真の結末。この二つ目のツイストが読後の印象をさわやかにしている。うっかりすると、小細工と見えかねないこういった部分を、小説の表現としてじつに巧みに切りぬけていくあたりに、ディーヴァーの手腕と作家的な執念が光っている。
評価:★★★★
このライムの手足となって活躍するのが、若いころ、モデルの経験もあるという、ニューヨーク市警、鑑識課巡査、美貌のアメリア・サックス。
このコンビが、「犯罪の帝王」ともいうべき敵と、毎回死闘を演ずるといった、ハリウッド映画的な設定は、いささか好みが分かれるところだろう。
しかし、宝島社の「このミステリーがすごい!」の常連であることを考えると、現在進行形のシリーズ・ミステリでは、ウィングフィールドの「フロスト・シリーズ」などと人気を二分するファンを擁していると思われる。
あらすじは・・・。
『中国からの密入国を斡旋する蛇頭にして、11人殺害容疑で国際指名手配中のゴースト。そのゴーストが斡旋した不法移民とともに米国へ向かっているとの情報を得たニューヨーク市警はライムの協力によって、その密入国船を発見する。しかし、それを察知したゴーストは不法移民もろとも船を爆破し、沈没の騒ぎにまぎれて姿をくらます。かろうじて救命ボートで脱出した十二人の中国人たちもニューヨークのチャイナタウンにその身を隠す。しかし、自分の顔を知られているゴーストは助かった不法移民たちの殺害を企て、追跡を開始していた。ライムとサックスもわずかな手掛かりを頼りに移民とゴーストの行方を追う。はたして、ライムはゴーストよりはやく移民たちを見つけて保護することができるのか・・・。』
かのシャーロック・ホームズ以来、名探偵が活躍するシリーズ・ミステリは数多く存在する。わたしがこれまで愛読したのは、エド・マクベイン「87分署シリーズ」で、30冊くらいは読んでいるはず。
ほかに、スウェーデンのマイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー夫妻が発表したマルティン・ベック・シリーズ(1965~1975年)は、全10作をすべて読んだ。この2シリーズは、いわゆる名探偵=スーパーマンが快刀乱麻の大活躍をするホームズ系ではなく、ふつうは市民として暮らす等身大の警察官が主役である。そこに、小説的なリアリズムの裏打ちがあって、捜査側の人物の個々の生活が描かれ、その生活的な背景の上に、ミステリとしてのスリルやサスペンスが、いわば2階建ての建築物のようにのっている。
スチュアート・ウッズ「警察署長」も好きだし、トレヴェニアンの「夢果つる街(原題「The Main」)も印象が深かったが、こういった作品は、ほかにいくらでもありそうである。
今回はヨーロッパ的な起源をもつライムの科学捜査に対して、中国からの密航者という、東洋文化を正面切って取り上げたところが新鮮。いつものことだが、ディーヴァーのリサーチはほぼ完璧といっていい。中国人という存在をリアルに浮かび上がらせているし、ストーリーの展開は、まったく破綻がみられない。わたしは約3日で読みおえたが、俗にいう、ノンストップ・ジェットコースター小説である。
ここ4、5年翻訳ミステリからは遠ざかっていたから、はじめはいささかとっつきにくかった。しかし、読み出すと、またしてやられる。
「おや?」「おや?」作者のミスリードにおつきあいしながら、仕掛けの在処やサスペンスの手のうちを読もうとするのだが、むろん、しっぽはつかめず、最後にすてきなツイストを効かせて、見事な着地を決めるあたり、たいへんな秀作である。しかも、真犯人が捕まったあと、ディーヴァーは、もうひとひねりして、読者をひっぱっていく。
殺伐とした犯罪シーンばかりでなく、登場人物たちの人間的な苦しみ、よろこびを、多少型にはまっているとはいえ、きちんとトレースしていく。
ネタバレとなるので、具体的には書けないが、ニュアンスにとんだシーンを積み重ねたあとに次第に明らかとなる物語の真の結末。この二つ目のツイストが読後の印象をさわやかにしている。うっかりすると、小細工と見えかねないこういった部分を、小説の表現としてじつに巧みに切りぬけていくあたりに、ディーヴァーの手腕と作家的な執念が光っている。
評価:★★★★