二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

イリュージョニスト  ジェフリー・ディーヴァー

2010年01月06日 | 小説(海外)
「石の猿」もよかったが、はるかその上をいく、
ノンストップ・ジェットコースター・ミステリ・ノベル。
もしかしたら、「羊たちの沈黙」あるいは「ジャッカルの日」を読んで以来の興奮を覚えているかもしれない。
いや、まちがいなく、そうなのだ。
もう寝なければと思いつつ、3時になっても、本が手からはなせない。
うまいし、パワフルだし、どんでん返しの連続技がつぎつぎと決まっていく!

一昨日から読みはじめた。
「う~ん、これはすげえ。まいったな」
100ページあたりで、そう確信した。

・・・と、ここまでは、mixi日記に書いた。
しかし、読みおえてみると、不満が頭をもたげてきた。
ディーヴァーさん、調子にのって、書きすぎているぞ!
第2部、「メソッド」はいい。とくに、34章35章あたりは、読者としてのわたしは、とことんそのスリルとサスペンスに酔うことができた。サービス精神満点の大どんでん返しの連続技に息をのんでいた。
拘置所からの脱獄シーンあたりは、クライマックスというにふさわしい見事な出来映えで、「意識の流れ」という文学技法も、なかなかの効果をあげている。アクションシーンもうまいし、円熟のストーリーテリングは、成功したスペクタクルなハリウッド映画を思い出させる。
魔術師(イリュージョニスト)エリック・ウィアーと、リンカーンライムとの一騎打ちばかりでなく、美貌の刑事アメリア・サックスとの一騎打ちも、はらはらドキドキだし、脇役では本編新登場の魔術師(イリュージョニスト)見習いカーラが花をそえているのがいい。
辛口のミステリといえども、恋愛要素をいくらかは鏤め、ファンの期待に応えるものだが、このシリーズはエロチックな場面がほとんどない。
にもかかわらず、神業めいたストーリーテリングの冴えが、ぐいぐい読者をひきずっていく。現役最強のシリーズ・ミステリとの評判にたがわない仕上がりになっている。

しかし、・・・である。どんでん返しも、度が過ぎると、読者も慣れてきて「へえ、またかい?」となっていくのは避けられない。犯人は今度こそ逮捕され、事件は「一件落着」したはずなのに、第3部「種明かし」の章にはいって、物語はまだ続くのだ。

犯罪動機はあまりにありふれていて、陳腐とのそしりは免れないだろう。
エンターテインメントとしての底の浅さというか、馬脚をあらわしたというか。そこまでいうと、いいすぎだが、読みおえたいま、そういった不満が噴き出した。映画のシナリオならこれでいいかもしれないが、ミステリの読者は、もう少し気むずかしいのである。さらにつけ加えるなら、サックスの停職処分をめぐるエピソードの展開など、蛇足もいいところだろう。ここは思い切った辛口の結末を用意すべきであった。
ここまできて、わたしの独断と偏見による評価は、5つ星から4つ星に後退してしまったのである。
ふう、う。残念!


評価:★★★★

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