<北朝鮮内部>6月に入り飢えが一気に深刻化、なぜ? 「栄養失調で出勤不能、山菜食べ死亡も」 金正恩時代で最悪
◆コロナ防疫の副作用で餓え広がる
(参考写真)中学生くらいのホームレスの少女が市場の中で練炭の暖を取っている。2012年11月両江道恵山市にて撮影(アジアプレス)
北朝鮮住民の困窮がさらにひどくなっている。金正恩政権が新型コロナウイルス対策で、中国との国境を封鎖するなどの厳しい統制を始めて1年5カ月。経済は不振を極め、現金収入を失った人の中には食事にも事欠いて栄養失調が広がっている模様だ。北部地域に住む複数の取材協力者が、実情を伝えてきた。(カン・ジウォン/石丸次郎) 【北朝鮮写真】 秘密カメラが捉えた餓えた少女・少年たちの姿…90年代大飢饉の記録 北朝鮮は今、「ポリコゲ」と呼ばれる春窮期の真っただ中にある。秋の収穫までの端境期で、一年でもっとも食糧が品薄になる季節だ。 市場の食糧価格が6月に入り高騰している。4月末に比べると白米は約20%、トウモロコシは約30%も上昇した。アジアプレスが国内で調査したところ、食糧配給は行政、労働党、警察、保衛局(秘密警察)などの公務職員には出ているが、工場などの一般企業ではほとんど途絶している。 金正恩政権の過剰なコロナ対策の副作用で市場は沈滞し、ほとんどの国民は現金収入を激減させている。これまで蓄えや借金で何とか耐えてきた人々も、「ポリコゲ」時期に入った今、限界に近づいているようだ。
◆栄養失調で出勤できない
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北朝鮮地図(製作アジアプレス)
咸鏡北道(ハムギョンプクド)の茂山(ムサン)郡。北朝鮮最大の鉄鉱山がある中国国境の都市だ。推定人口は約10万人。茂山鉱山で働く取材協力者が、庶民の困窮を訴える。 「茂山の住民は本当に苦しい。鉱山の5月の配給はトウモロコシが数日分あっただけ。市場の商売はまったくうまくいかず、多くの人が『コチェビ』(浮浪者)直前だ。鉱山の労働者には栄養失調で浮腫(むくみ)が出て、出勤すらできない人が続出している」 結核患者が増えているが、中国から薬品が入って来ず、昨夏以降、死亡する人が絶えないそうだ。最近は、山菜を食べて食中毒になって死亡する事故が頻発しているという。 「腹の足しにするために山菜を山で採ったり買ったりして、トウモロコシ粉に混ぜて食べるのだが、毒草が混ざっていて食中毒が多発している。西湖里(ソホリ)という所では、4人家族のうち3人が死んで、子ども1人だけ生き残った事故があった」 とこの協力者は述べた。 住民の疲弊は危険水位に達しているというのに、当局は、国家保有の食糧を放出するというような具体的な対策を取っていない。 「茂山鉱山では党員の労働者に対して、職場の生活困難者を助けよと指示が出たが、党員だってカツカツだ。自腹で出せる食糧なんてわずかなもので、焼け石に水だった」と協力者は続けた。 ■「一日一食」が増加 両江道(リャンガンド)の住民にも話しを聞いた。 「もう食用油が使えなくなった。100グラムが70中国元(約1200円)もして、とても買えない。商売不振で皆お金がなく、一日一食しか食べられない人が多い。私個人は、統制で商売もできず、『苦難の行軍』の時(90年代後半の未曽有の大飢饉)よりもしんどい」 このように苦しさを吐露した。 協力者の報告から、北朝鮮の現状がすでに人道危機水準にあるのは明らかだ。金正恩政権は、国際社会に速やかに緊急人道支援を要請し、国際機関の人員の入国と査察を速やかに認めるべきだ。 ※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。