フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

1月31日(金) 晴れ

2020-02-02 00:01:52 | Weblog

8時半、起床。

トースト、サラダ、牛乳、紅茶の朝食。

12時に蒲田駅で首都大学東京(4月から「都立大」)の安藤藍さんと待ち合わせ、「西洋料理SUZUKI」へ行く。

「寒い中、遠路はるばるお越しいただいて、ありがとうございます」と私が言うと、「八王子から蒲田というのはそんなに遠路ではありませんよ」とおっしゃる。東京の南の端の蒲田から見ると八王子は遠隔地に見えるのだが、電車の時間は乗り継ぎのタイミングがよければ1時間15分ほどだから、もちろん近くはないものの、「遠路はるばる」という表現は確かにあたらないかもしれない。

アラカルトで注文する。オードブルは鮪と鯛のタルタル。きれいなお好み焼きのような外見である。

スープはコーンポタージュ。

海老フライ。単品で注文する海老フライはランチのときの海老フライより大ぶりである。(今日もお店の方は「ランチで海老フライお出ししましょうか」と言って下さったのだが、私は大ぶりの海老フライが食べたいのである。

ビーフシチュー。

食後にコーヒーを注文すると、デザート(プリンアラモード)がサービスで付いてくる。

初めて方にはサプライズ感がある。安藤さんは気持ちが顔に出やすい方である(笑)。

今日は蒲田・大森のカフェ巡りをする。最初の一店は、今度の日曜日で開店一周年を迎える「ティースプーン」だ。

シマダさん、開店一周年おめでとうございます。ここに来る前に東急プラザの花屋で購入したブリザードプラワー(ピンクの薔薇)をプレゼントする。年末に帯状疱疹にかかった妹さんも、回復された(お顔の発疹もきれいに消えた)そうで、よかったですね。

昨年9月にここでワークショップ「長生きリスクに備えるお金の話」というワークショップを開かれたキャリアコンサルタントの棚橋あきらさんが顔を出されたので(常連さんのお一人のようである)、おしゃべりをする。

これがそのときのチラシ。「お金の話」とあるが、そのは背景には仕事のことや家庭の事情(たとえば離婚とか)があり、「お金」を入口にして素寺の方に話しが及ぶというケースが多いようである。たしかに最初から「離婚」相談というのではちょっと躊躇するも、ランチを食べながら「お金」の話題からということであれば、話がしやすいだろう。

安藤さんは家族社会学者(研究テーマは「里親)だから棚橋さんとは話が通じやすい。初対面とは思えない打ち解けようである。

当初、お花をお渡しして、温かい紅茶を飲んだら、すぐに失礼する予定であったが、滞在時間は1時間に及んだ。やっぱりここは「おしゃべりカフェ」である。

さて、大森に移動しましょう。

今日は金曜日なので、馴染みのカフェのほとんどが営業しており、選択肢には迷うところである。「まやんち」もいいし、「スリック」もいい。しかし、どちらも安藤さんをすでにお連れしたことがるので、今日は初めてのカフェに行くことにした。大森の「sanno2198」である。私自身が今日がまだ三度目で、誰かをお連れするのはもちろん初めてである。大森の駅を降りてからお店に電話を入れて、いまから2名で伺いますと伝える(カウンター席は5席しかないので、着いてから満席だとショックなので)。

カウンターには女性の先客が一人いるだけだった。マダムに安藤さんを「お若いけれど先生なんです」と紹介する。

本日のケーキから金柑のタルトを注文する。美味しそうだ。

珈琲はマダムがネルドリップで丁寧に淹れてくれるモカマタリ。ドリップというとペーパードリップがほとんどだと思うが、紙よりも目が粗いネル(=フランネル)を使うと、珈琲オイルが抽出されるので、まったりとした口当たりとほんのりと甘味の感じれれる珈琲になる(そうである)。

でも、使い捨てのペーパーとは違って、ネルをきちんと洗って、乾かして、清潔に保たないといけないので、気持ちにゆとりが必要である。

洋菓子にも旬あり!

先客の女性はミキさんといって、前回来た時、ちょっとだけお見かけした方である。このマンションの住人で毎日のように(一日に二度のことも)来店されているそうである。フリーランスの美容の仕事をされているそうだが、今日はスッピンなので(まさか!)、写真は後ろ姿で。「ミキティーと呼んでくさい」とおっしゃっていたが、たぶん安藤さんに向かって言っていたと思うので、私はミキさんにしときます(笑)。西荻窪のカフェ事情にやたらと詳しくて、西荻窪にはつい先日卒業生のミズキさんと行ったばかりだが、ミキさんからお話を聞いてから行けばよかったと思った。

少しして二人連れのお客さん(常連さんみたいだ)が入ってきて、カウンター席は満席になり、さらにもうお一人(やはり常連さんのようである)が入ってきたので、私たちは席を立つことにした(実際、次に行くカフェの予定があるのだ)。入口横の奥の小部屋が安藤さんは気になるようであった。

ちょっと入ってみる。ここには靴を脱いで入る。「わー、ここで仕事がしたいです」と彼女は言った。仕事ですって?!働き盛りの人はいうことが違いますね(笑)。

「sanno2198」にも1時間ほど滞在した。今日はお店の方や常連さんとおしゃべりの弾む日だ。時刻はすでに5時近くになっている。次のお店に行きましょう。

本日のカフェ巡りの最後のカフェは「昔日の客」と決めていた。「昔日の客」の奥様にも今日知り合いを連れて訪問することはあらかじめお伝えしてある。

「sanno2198」から「昔日の客」に向かう途中に「あんず文庫」がある。急いではいるのだが、前を素通りというわけにはいかない。ちょっと立ち寄る。

今日が二度目の訪問である。初回の訪問(今月20日)から今日までの間に「昔日の客」の関口さんから私のことは聞いたらしく、店主の加賀谷さんから「先日いらしたときに近代文学についての評論(注:秋山駿『私小説という人生』)を購入されたので、そういう分野の専門の方なのかなとは思っておりました」と挨拶される。「専門」ではないが、「私小説」というジャンルの作品は好きである。高校生のときの一番好きな作家は志賀直哉であったし、あの本で秋山が最初に取り上げている田山花袋『蒲団』は、あれこれ批判されている作品であるが、私はいい作品だと思っている(秋山もそう評価していて我が意を得たりと思った)。

古書店だが、夏葉社の本のコーナーがあり、安藤さんは「夏葉社の本はいいですね」と言っていた。短い会話の中で、加賀谷さんと安藤さんには共通点が1つあることがわかった。山羊座の生まれであることだ。

「あんず文庫」には10分足らずの滞在であった。加賀谷さんとはいずれじっくり文学談義をしたいと思っている。

時刻はそろそろ5時になろうとしていた。「あんず文庫」から「昔日の客」までは20分ほど(徒歩)かかる。急がなきゃ。時間のことは別にして、風が冷たいので、体を温めるためにも早足で歩かないとならないのである。

「昔日の客」に着いたのは5時20分頃。まさに「夕日の客」である。お店の中に奥様の姿が見える。「こんにちは。遅くなりました!」と言いながら引き戸を開ける。

私は紅茶(ダージリン)、安藤さんは珈琲を注文。彼女は今日三杯目の珈琲である。本当に珈琲がお好きなんですね。

私たちが来たことを奥様から知らされて、ご主人(関口直人さん)がお隣のご自宅からお店の方へやってこられた。安藤さんが手に持っているのはご主人のお父様の著書『昔日の客』(夏葉社の復刊本)である。11月に安藤さんとカフェをしたとき、私がした『昔日の客』の話に彼女が興味をもち、さっそくAmazonで本を取り寄せ、カフェ「昔日の客」にも行ってみたいと言われたのである。関口さんが本にまつまるお話をいろいろ聞かせてくれた。

彼女が手にしているのは『風報』という同人誌。昭和22年に尾崎一雄、尾崎士郎が中心となって創刊された。この66号(昭和34年)に関口良雄が初めて寄稿したのが「正宗白鳥先生訪問記」で、その軽妙にして味わい深い文章は玄人筋の評判を呼んだ。『昔日の客』では巻頭に置かれているから、本人にとっても自信作だったのだろう。

同号には「加藤治郎」という名前が見えるが、これは初めての学士棋士(早稲田大学卒)で、当時、日本将棋連盟の会長だった加藤治郎のことだろうか。彼の観戦記は名文として坂口安吾が激賞していたと聞く。

これは『風報』百号記念号(同時に最終号)。

錚々たる執筆陣の中に関口良雄の名前も見える。「私は店を閉めたあとの、電灯を消した暗い土間の椅子に座り、商売ものの古本がぎっしりとつまった棚をながめるのが好きである」という書き出しの「古本」というタイトルの作品を寄せている。

ところで今日、関口さんと話をしていて、思わぬことがあった。関口さんは私より5歳上で、早稲田大学の先輩でもあり小山台高校の先輩でもあるのだが、先日、武蔵小山のカフェで「シャンソンの夕べ」というライブをされたのだが(生憎私は先約があり伺えなかった)、そこで関口さんと一緒に出演した樫村裕子さんというシャンソン歌手も大学のシャンソン同好会の後輩であると同時に、小山台高校の後輩だというのである。「いくつ後輩ですか?」と私が尋ねると、「5つ下」だという。私と同じ代ではないか。「もしかして旧姓は〇〇さんというのではありませんか?」と重ねて尋ねると、「そう、そう、〇〇さん。ご存知なの?」「はい、同じクラスでした」「えっ~!」と言って関口さんはスマホを取り出して樫村さんに電話をかけた。えっ、いきなり電話ですか。

最初、留守番電話の応答だったが、関口さんが「いまね、「昔日の客」に大久保さんという方が来ていてね、あなたの高校のとき同じクラスだったということがわかってね、覚えてる?」という話を吹き込んでいる時に彼女が電話に出た。そして私にスマホを渡した。彼女と話をするのは何十年ぶりだろう。実は私と彼女の間にはちょっと気まずいことがあった。私は推薦入学で早稲田の第一文学部に入ったのであるが、彼女もそれを希望していて、担任の先生から「残念ながらあなたより少し成績が上の人がいてね・・・」と結果を聞かされたそうである。それで彼女は一般入試で教育学部に入ったのである。「大久保君がいなかったら推薦を受けられたのに・・・」と私は彼女から卒業後に言われた。私は電話口で「あのときのこと覚えてる?」と恐る恐る聞いてみた、「覚えてるわよ」と彼女は言った。ああ、やっぱり覚えてるんだ。関口さんと安藤さんがそばでニヤニヤしながらわれわれのやりとりを聞いていた。

時刻は6時を回った。そろそろ失礼しましょう。また「シャンソンの夕べ」が開かれるときは声をかけて下さい。

奥様の妹さんが八王子の方に住んでいて、奥様もたまに行かれるそうで、あそこのお店はいいわよねと帰りがけにローカルな話題で盛り上がっていた。安藤さんは夏葉社の社長さんである島田潤一郎さんが自身のことを書いた『古くて新しい仕事』(新潮社)を購入した。

「昔日の客」から大森駅まで歩いた。ところがちょっと前に蒲田と大森の間で人身事故があり、京浜東北線が止まっていた。すぐには運転再開とはなりそうもないので、京浜急行の大森海岸まで歩いた。大森海岸からは反対方向の電車に乗るので、ここでお別れです。今日はずいぶんたくさん歩きましたね。次回は北風ではなく、春風か薫風に吹かれながらカフェ巡りをいたしましょう。

7時半、帰宅。

夕食はオムライス。

食後に安藤さんからいただいたお菓子を食べる。

もう1つ食べる。

2時、就寝。