今回からはしばらく指宿方面の温泉を集中的に取り上げます。
浜児ヶ水と書いて「はまちょがみず」と読むんだそうですが、薩摩訛りなのでしょうか、難読にも程があります。この難読地名を冠している、マニア心をくすぐる鄙びた共同浴場が指宿の旧山川町域にあると知り、実際に行ってみることにしました。非常に説明しにくい場所にあるのですが、温泉が所在する集落の辻々には看板があるので、これに導かれながら集落の奥へ奥へと細い道を進んでゆくと迷うことなく辿り着くことができました。プレートには「日本一安い」というキャッチーなコピーが記されていますが、こうしたコピーや辻々に貼られた看板などからは、外来者を積極的に受け入れようとする姿勢が伝わってきます。
集落を突き抜ける一本の細い路地の突き当り一歩手前に浴場湯屋を発見。古色蒼然とした瓦葺きの木造平屋で、一見すると民家のようにも思えますが、屋根の上にちょこんと突き出ている湯気抜きが、この建物が湯屋であることを自己主張しています。ちなみに生垣を挟んでこの建物の隣に建っているのは何と納骨堂。この辺りは海岸沿いの高台になっており、集落から伸びてきた路地はこの納骨堂の前で行き止まりとなるのですが、目の前は海であるはずなのに周囲は妙に鬱蒼としていて薄気味悪く、「アタシって霊感が強いんですぅ」と吹聴なさっているスピリチュアルな方だったら、もしかしたら何かの気配を感じてしまうかもしれません。尤もその手に関して全く鈍感な私は寸毫たりとも感じませんでしたが…
私が駐車場にレンタカーを停めて湯屋に入ろうとすると、納骨堂の方から一人のお爺さんがやってきて、伏し目がちにこちらを凝視しながら、私を追い越すように湯屋の中へと消えてゆきました。普段は心霊現象を信じない私も、不気味なお爺さんを目にしてこの時ばかりは「とうとう現れたか!」と肝を冷やしましたが、昼間から幽霊が現れるわけもなく、このお爺さんは番台の方なのでありました。もののけ扱いして大変失礼いたしました。番台でじっと座っていると退屈だから辺りをウロウロしておただけなのでしょうけど、観光シーズンでもないのに見慣れない他所者の男一人が来訪したことに警戒心を抱いたのでしょうか。
さて玄関入ってすぐに脱衣所が広がっており、古い温泉施設らしく棚や腰掛など必要最低限のものがあるだけの至ってシンプルな造りなのですが、清掃用具や雑然と置かれていたり、お知らせやポスター・カレンダーなどがあちこちに貼られていたりと、いかにも地域のための共同浴場らしい生活臭が強く漂っていました。
梁や壁から年季を感じる浴室。全て木造というわけではなく、水が掛かる側壁腰部や床、そして浴槽はタイル貼りです。浴槽は2分割されており、奥は3人サイズ、手前は4人サイズと、2つは若干大きさが異なっていました。それぞれの浴槽にバルブ付きのパイプの湯口から源泉が投入されており、奥の湯船は水の蛇口も設けられているためか若干ぬるめでしたが、常連さんが自分の好みに合わせて源泉や水のバルブを開閉するので、湯船の湯加減はその時々によって異なるのかもしれません。
お湯はほぼ無色透明、薄い塩味にニガリの味、そして重い石灰のような味が感じられました。また、なぜか糠味噌のような匂いを嗅ぎ取れたのですが、これってこの温泉ならではの特質なのか、あるいは入浴客の加齢臭か何かがお湯に移っちゃっただけなのかはよく判りません。館内表示のよれば加水しているそうですが(加温循環消毒なし)、そのためか、成分濃度のわりには知覚面が弱いように思われましたが、それでも食塩泉的なスベスベ浴感はしっかり感じられました。源泉投入量も豊富で、人が湯船に入ると勢いよくザバーっと溢れだしてゆきます。
洗い場にはお湯と水道のカランの組み合わせが5組とシャワーが1つ設けられていました。水栓から出てくるお湯は真湯です。
訪問時は一番風呂を期待して14:30きっかりに訪問したのですが、行ってみたら既にフライング気味にオープンしており、予めそれを知っている(というかフライングが常態化しているのかも)4~5人の常連の爺様によって浴室は賑わっていました。日本一安いかどうかは、その真偽はさておき、建物は古くても地元からの愛は変わらない、温泉ファン好みの浴場でありました。
伏目・児ヶ水10号
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 53.0℃ pH6.8 溶存物質3002mg/kg, 成分総計3094mg/kg
Na+:697.6mg(65.86mval%), Ca++:213.5mg(23.12mval%),
Cl-:1199mg(76.89mval%), SO4-:209.9mg(9.93mval%), HCO3-:347.6mg(12.95mval%),
H2SiO3:206.8mg, 遊離CO2:91.7mg,
鹿児島県指宿市山川浜児ヶ水178 地図
夏季(6月~8月)→15:00~20:00、それ以外(9月~5月)→14:30~19:30
第2・4木曜定休
100円
備品類なし
私の好み:★★★