温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

奥塩原新湯温泉 湯荘白樺

2012年06月14日 | 栃木県

数か月前の冬の某日、手近なところで白濁の硫黄湯に浸かりたくなり、奥塩原新湯の旅館「湯荘白樺」で1泊しました。駐車場に車を止めるとすぐにスタッフの方が荷物を受け取りに来て下さり、初めからとても好感がもてましたが、一方で噂には聞いていたものの、若旦那は朴訥なお人柄のようで、この日は偶々嫌なことでもあったのか、終始仏頂面を崩すことはありませんでした。帳場も旅館の窓口というより若旦那の私的空間の一部のような、あまりジロジロしちゃいけないような雰囲気が横溢していました。またチェックイン時にいきなり夕食時の飲み物を決めなきゃいけないのがちょっと面喰いました。



ロビーから客室へ上がる階段の上ではガラスケースの中に収められたシロクマくんがお出迎え。更にクネクネ曲がったり階段を上がったりして、方向音痴な人なら間違いなく迷子になりそうな廊下を進んで客室へ。



6畳のお部屋。窓の外には新湯爆裂噴火口が広がり、直下に中の湯を見下ろすお部屋でした。トイレや流し台は共用ですが、室内には空の冷蔵庫、ストーブ、電熱カーペット、いまだにアナログのTV(デジアナ変換で使用)などが備え付けられており、古いものの清掃はよく行き届いていたので、特に不自由はしませんでした。



(上画像クリックで拡大)
館内には明治期の新湯の様子を記した地図が展示されていました。かつては温泉神社の門前の参道に旅館が軒を並べていたんですね。現在もある3つの外湯は明治期にも同じ場所に存在していました。



花より団子、温泉より御膳。腹が減っては戦も湯あみもできません。食事は夕食・朝食共にお部屋出しでした。飲み物の注文をチェックイン時に聞いていたのは、入り組んだ廊下の先にある部屋へ食事を出すためだったのでしょう。夕食の献立は、豚の味噌陶板焼き、お刺身、鮎の塩焼き、野菜の煮物、天ぷらなど。鮎は香ばしく子持ちでとても美味でしたが、煮物や天ぷらは出来上がってから相当時間が経っていたらしく思いっきり冷めていました。


 
食事のお供に地ビール「温泉ビール」を注文。塩原・門前温泉の「光雲荘」源泉を使った非濾過の生ビールで、いかにも地ビールらしい個性的なお味でしたが、この時はビールよりも部屋に備え付けの栓抜きに目を奪われてしまいました。文鎮のような重厚感のあるこの栓抜きには、戦後の富士重工が製作販売していたラビットスクーターのエンブレムがレリーフになっているのです。この手の物を収集している方が目にしたら興奮するのでは。



さて食後はお風呂へ。まずは内湯。廊下や洗面台など共用部分はガムテープによる補修が目立っており、建物の全体的な老朽化に対して抗おうとする苦労の痕が窺えました。



内湯は硫化と酸性腐食に耐えるべく総木造で、新湯の共同浴場と似通った雰囲気ですが、さすがに旅館だけあって若干広く、湯船も立派で、その大きさは約2.5mの正方形。ガス中毒を未然に防ぐべく浴槽上の通風口や洗い場上に設けられたの換気扇が、いかにも硫化水素型の温泉浴室らしい設備ですね。洗い場はシャワー付き混合栓が2基設けられている他、カランは無いものの、洗い台と称すべきようなブースも3つありました。


 
湯口には二又の鹿の角のような形状をしたの木の枝を突っ込んで栓にしています。源泉温度が熱いので、加水のほか、湯量によっても湯船の温度を調整するわけですね。お湯は「中の湯」と同じ中の湯源泉(共同噴気泉)。乳白色に強く美しく濁っています。噴気孔的な刺激のある硫化水素臭の他、どことなくクレゾールに似たような匂いも微かに漂っていたように感じました。さほど強烈ではないものの程々に強く明瞭な酸味(レモン汁的)と粉っぽさを帯びた味で、酸性泉ですが草津や蔵王のように思いっきり頬っぺたが収斂するわけではないので、それほど抵抗なく飲めました。入りしなはツルスベの浴感ですが、長湯しているうちに引っかかり感を帯びてきました。



浴室内にはあちこちに砂時計が置かれていました。時間を決めて入浴するのに使うのでしょう。


 
湯口付近には湧出箇所で採取した湯泥が桶に詰められ置かれています。これで泥パックするんですね。


 
次は露天へ。七福神の顔抜き看板が置かれていました。なお露天風呂はひとつしかないため混浴となっており、18時から21時まで女性専用時間です。


 
ひょうたん型の浴槽の真ん中には仕切りが立てられており、これによって混浴時間帯でも男女の入浴エリアがセパレートできるようになっていました。浴槽の縁は御影石の板が敷かれています。


 
こちらの湯口も鹿の角みたいな木の枝で栓がなされており、この栓によってお湯の投入量を加減し、以て湯加減を調整する。この時は投入量を絞っていた上に外気で冷やされていたため、湯加減はややぬるめ、じっくりと長湯することができました。露天は周囲を宿の建物で囲まれているため眺望はまったく得られませんが、夜中に入って空を見上げると、満天の空に煌めく数多の星がとっても綺麗でした。


 
浴槽の脇に置かれた七福神の石碑。



朝食は7:30か8:00のいずれかを選択。献立としてはオーソドックスなものですが、ここの温泉でつくられた温泉卵は絶品でした。夕食同様にお部屋出しなのですが、お膳が用意される30分前には布団が片付けられてしまいます。私は早起きして露天や内湯を楽しんでいたので問題なかったのですが、ゆっくりとした朝を迎えたい方にはちょっと厳しいかもしれません。

建物は古く、全体的に哀愁が漂っていますが、お湯は聞きしに勝る素晴らしいものでしたので、ホスピタリティは二の次、とにかく温泉をじっくり楽しみたい、という方に向いているお宿かと思います。某宿泊予約サイトの口コミを読んでみても、そのあたりの事情は利用客側も十分に斟酌しているらしく、理解あるお客さんによって支持され続けている味わい深いお宿でした。


共同噴気泉
単純酸性硫黄温泉(硫化水素型) 79.2℃ pH2.6 120.6L/min 成分総計0.414g/kg
Ca:6.3mg, Al:8.8mg, SO4:211.7mg, 遊離H2S:55.4mg

栃木県那須塩原市湯本塩原14
0287-32-2565
ホームページ

日帰り入浴10:00~20:00
500円
シャンプー類あり、ドライヤーは宿泊客用共用洗面台にある。

私の好み:★★
コメント (4)
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