温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

鉛温泉 藤三旅館 その2

2012年06月29日 | 岩手県
その1のつづきです

●白猿の湯
 
藤三旅館といえば、日本一深い自噴の岩風呂でとても有名なこの「白猿の湯」ですね。私があれこれ述べると蛇足になりそうなので、このお風呂に関しての記述は簡潔に済ませます。既に多くの方によって紹介されていますので、詳しく知りたい方は他の素晴らしいサイトをご覧ください。
まずは旅館部からアプローチした場合の入口廻りの様子を撮影。


 
一方、こちらは反対側にある湯治部側の入口。明るく近代的な和風の旅館部側入り口と異なり、こちらの方が古くて趣きがあるような気がします。



今から約600年前に、白猿が桂の木の根元に湧くお湯でケガを癒していたところをキコリが見つけたのが、鉛温泉の歴史のはじまりなんだそうですね。入口脇に立つ柱にはかわいらしい白猿のワッペンらしきものが貼ってありました。



入口からいきなり階段で地下へおりてゆくわけですが、上述のように入口は旅館部側と湯治部側にそれぞれひとつずつ計2ヶ所あって、中央の浴槽を軸にしてシンメトリな構造となっており、こうした造りが非常に特徴的で、一度来たら忘れることができません。


 
階段を下りた先に簡素な脱衣スペースがあり、その上には縦書きの大きな温泉分析表が掲示されています。浴室内にカランなどはないので、桶で湯船のお湯を汲んで掛け湯します。


 
天然の岩を刳りぬいて作った小判型の浴槽。165cmの私の場合は胸の高さまで浸かるほどの深さがあるんですね。子供はもちろん、小柄な女性でも溺れちゃいそうだ…。
足元湧出がこのお風呂のご自慢ポイントですが、それだけでは不足するのか、他の2源泉からもお湯を引いており、中央にはその供給口と思しきSUS製の穴があって、その近くの岩付近のお湯がやけに熱くなっていました。完全掛け流しのお湯は、浴槽の縁から常にしずしずと溢れ出ています。
そのお湯は無色澄明、薄い褐色の湯の華が浮遊しており、ごく薄いタマゴの味と匂いや弱い芒硝感を帯びています。癖の無いさっぱりとしたお湯で、すっきりすべすべ気持ち良い浴感です。また、画像にちょこっと写っていますが、主浴槽の脇には一人サイズで25℃くらいの丸い水風呂があり、お湯で火照った体をこの水風呂で一気に冷やすと滅茶苦茶爽快、病み付きになっちゃいました。
 
※このお風呂は混浴ですが、6:00~7:00、14:00~15:00、19:30~21:00はは女性専用です(金曜10:00~14:00は清掃のため利用不可)


●桂の湯

「白猿の湯」と通路を挟んで向かいにあるのが、内湯と露天風呂の両方が楽しめる「桂の湯」。


 
綺麗で整然とした脱衣所は、その1で取り上げた「白糸の湯」に似た内装ですが、こちらの方がやや建築年としては先輩に当たるようで、スペース自体も「白糸の湯」と比べると若干狭めです。


 
内湯は大きな岩盤を穿ったような豪快な造りで、やや熱めのお湯が張られており、ふんだんにオーバーフローしていました。洗い場はシャワー付き混合水栓が4基設置されています。
お湯は無色澄明、薄い褐色の湯の華が少々漂い、弱い芒硝感があるもののほとんど無味無臭で、スベスベ感を有する優しい浴感が得られました。


 
露天風呂は川をせせらぎを目の前にして湯あみができる絶好のロケーション。こちら浴槽も内湯と同様な感じの造りで、お湯の影響か槽内は薄ら黄色っぽく見え、また外気の影響か内湯より湯加減が若干下がっており、いつまでも長湯したくなるちょうどいい塩梅となっていました。


 
露天の浴槽から一段下りた目立ちにくい河岸に、まるで隠し風呂のような、もうひとつの小さな露天浴槽が設けられており、川の流れが目の前に迫る位置で野湯に入っているような野趣あふれる湯あみが楽しめました。ちょっとでも増水すれば忽ち濁流に飲み込まれてしまいそうな場所です。このお風呂の存在に気付かず帰ってしまうお客さんも多いようです。
こちらの浴槽は上の浴槽から流れてくるお湯を受けているために、結構ぬるめの湯加減ですが、このおかげでいつまでも入っていられるので、私はここがすっかり気に入ってしまい、ちょっとした野湯気分を堪能させてもらいました。


●河鹿の湯
 
最後は、湯治部のお風呂「河鹿の湯」へ行ってみることに。
旅館部と湯治部との境には「白銀荘」と書かれた扁額が掛かっており、自炊する湯治客のための売店が設けられていました。そこから先の廊下には独居房あるいは病院を思わせる個室が両側に並んでおり、老舗らしい優雅な風格が感じられる旅館部と同じ施設であるとは思えないほどの高低差がそこには存在していました。両者の間には料金に大幅な差があることは知っていましたが、まさか施設自体もこんな天と地の違いがあるとは…。「高低差ありすぎて耳キーンなるわ」。


 
こちらは湯治部の玄関。いかにも自炊宿らしい風情ですね。玄関の壁には縦書きの温泉分析表が掲示されていました。


 
館内の案内表示に従って更に奥へ。浴場入口から中に入ると、そこは湯治部の宿泊客の共用流しとなっており、更に男女の浴室へ分かれていました。



まるで共同浴場のような、棚しか無い脱衣室。鮮やかな水色のペンキが眩しいです。



室内に貼ってあるスリッパに関する案内には思わず苦笑してしまいました。というのも、客の利用形態によってスリッパに厳然とした格付けがあり、その客がどんなスリッパを履いているかで、上客か否かが一目瞭然なのであります。この時私が履いていたスリッパはヒエラルキーの最上位にあたる旅館部の青スリッパだったので、普段肩身を狭くして世渡りをしている鬱憤を晴らすべく、ここぞとばかりに肩で風を切りながら廊下を泰然と歩いたのでした(おぉ、醜い…)。


 
全面タイル貼りで公衆浴場然とした浴室内。極めて実用本位です。「白糸の湯」や「桂の湯」と同様に川に面したロケーションなのですが、窓を開けたら蜘蛛の巣が張られており、川の展望という面でも格差があるみたいです。なお洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基設置されています。


 
お風呂は旅館部と月とすっぽんほどの差がありますが、湯口から注がれるお湯は実力伯仲、なかなか素晴らしいクオリティでして、投入量もオーバーフロー量も多くて立派です。無色澄明で僅かな硫化水素的な知覚と弱い芒硝感が得られ、湯船に身を沈めると、お湯がやさしく全身を包んでくれる非常に上品な浴感でした。私の個人的な感想として、お湯の質感はこの河鹿の湯(下の湯)が一番気に入りました。



・白猿の湯
白猿の湯+桂の湯+下の湯(混合)
単純温泉 40.9℃ pH8.0 溶存物質0.3868g/kg 成分総計0.3881g/kg
Na+:103.3mg(93.34mval%),
Cl-:30.8mg(18.24mval%), SO4-:113.4mg(49.48mval%), HCO3-:79.1mg(27.25mval%),
H2SiO3:45.2mg,
浴槽温度を適温にするため源泉「白猿の湯」に源泉「桂の湯」と源泉「下の湯」を加えています。
(季節・天候・時間によっても多少異なりますが、源泉「桂の湯」を30~40%程度および源泉「下の湯」を20~30%程度加えています

・桂の湯
桂の湯+下の湯(混合)
単純温泉 41.7℃ pH8.0 溶存物質0.3938g/kg 成分総計0.3952g/kg
Na+:104.8mg(93.44mval%),
Cl-:30.7mg(17.42mval%), SO4-:110.3mg(47.13mval%), HCO3-:85.4mg(28.69mval%),
H2SiO3:45.6mg,
浴槽温度を適温にするため源泉「桂の湯」に源泉「下の湯」を加えています。
(季節・天候・時間によっても多少異なりますが、源泉「下の湯」を20~30%程度加えています)

・河鹿の湯
下の湯
単純温泉 47.1℃ pH8.1 溶存物質0.3953g/kg 成分総計0.3965g/kg
Na+:105.5mg(93.29mval%),
Cl-:30.0mg(17.31mval%), SO4-:110.3mg(46.84mval%), HCO3-:91.4mg(30.55mval%),
H2SiO3:42.8mg,
(成分に影響を与える項目、該当事項無し)


岩手県花巻市鉛字中平75-1
0198-25-2311
ホームページ

日帰り入浴時間7:00~21:00(浴室により清掃時間が異なるので、委細は公式サイトで要確認)
700円
貴重品ロッカーは白糸の湯・銀の湯・桂の湯にあり
シャンプー類やドライヤーは白猿の湯以外に備付あり

私の好み:★★★
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鉛温泉 藤三旅館 その1

2012年06月29日 | 岩手県
 
温泉が好きな方でしたらお馴染みの有名旅館、鉛温泉「藤三旅館」で一泊してきました。こちらの旅館は本格的な旅館サービスが受けられる旅館部と、とてもリーズナブルな湯治部(旧自炊部)の二部に分かれており、爪の先で火を灯すわびしい生活を送っている私にとって、旅館部のお値段は清水の舞台までは高くないにせよ、渋谷警察前の歩道橋の上から新橋駅行の都バスに飛び乗るぐらいのちょっとした勇気が必要なのですが(自分でも意味のわからない喩えになってしまいました、ゴメンナサイ)、公式サイトを調べたところ、普段なら1.5~1.7万円はする旅館部木造本館2or3階のお部屋を、ほぼ半額の1泊2食付8,500円で宿泊できるプランを見つけたので、こんな好機は滅多にないと即時に予約し、三陸方面へ所用があった2012年5月某日、わざわざ三陸から花巻まで岩手県を横断して、この宿でお世話になったのでした。

以前は立ち寄り入浴で名物「白猿の湯」を利用したことがあるのですが、今回は宿泊して利用できるお風呂をすべて巡ってみました。既に多くの温泉ファンをはじめ、数々の文豪によっても表現されてきたこの温泉を、私如きがあれこれ申し上げるのはおこがましいので、蛇足な文章とならないよう、簡潔にまとめてゆく所存です。でも内容が膨らみそうなので、その1(今回)とその2(次回)の2回に分けて投稿します。


●館内やお部屋の様子、そしてお食事

ロビーや階段に敷かれている紅色の絨毯が、老舗旅館らしい重みのあるラグジュアリ感を醸し出しています。宿帳へ記入している間に、男性スタッフが荷物を部屋へと運んでくれました。



玄関近くにあるお座敷には、木を刳りぬいてつくった火鉢が真ん中に置かれていました。


 
階段や廊下も赤い絨毯が敷かれています。女中さんがお部屋まで案内してくれますが、赤絨毯の上を歩いていると、それだけで気分が高揚しますね。



今回案内されたのお部屋は3階の川に面した7畳の和室です。本館の館内は改修を重ねているようで、外観のような渋く重みのある感じではなく、いかにも和風旅館らしい綺麗で快適なお部屋でした。


 
テレビ・冷蔵庫・金庫・ポットなど基本的な備品類は一式揃っています。


 
窓の外のには豊沢川が流れ、ちょっと遠くに目を遣ると白い滝が落ちているのも見えます。


 
お食事は部屋出しです。
夕食は・・・お茶を食べて育った豚のしゃぶしゃぶ・刺身・鰆の照り焼き・ごま豆腐・こごみといちじくの和え物・温泉卵を添えたサーモンのマリネ(バジルソース掛け)などなど、これでもかというほど豪華絢爛で、何を口にしても頬が落ちっ放し。8500円なのにこんなにいただいちゃって良いのかしらと申し訳なくなっちゃうほどの品数とボリュームでした。



こちらは朝食。ベーコンエッグ(ベーコンが厚切りで好食感)・ポテトサラダとハムの他、焼き魚・切り干し大根・昆布の煮しめなど、和洋折衷な献立となっており、ワンパターンになりがちな旅館の朝食とは似て非なる個性的な美味しい食事をいただけました。

さて、腹が満たされたら、次はお風呂だ! 
お風呂の数が多いので、当ブログでは上述のように2回に分けて取り上げます。本館1階帳場から左右に廊下が伸びており、右の方へ向かうと、この旅館の名物である「白猿の湯」や露天風呂「桂の湯」、そして湯治部の「河鹿の湯」が、左へ向かうと「白糸の湯」と「銀の湯」にそれぞれ行き着きますが、今回は左の廊下を進んで「白糸の湯」と「銀の湯」に入ってみましょう。「白猿の湯」、「桂の湯」、「河鹿の湯」は次回(その2)で。


●白糸の湯
 
帳場から左手に伸びる廊下を進んだ突き当たりが「白糸の湯」と「銀の湯」の入口です。いずれも一室ずつで男女別にはなっていないため、時間帯による男女入れ替え制が採られており、「白糸の湯」は15:00~翌朝6:00が男性専用時間、朝6:00~15:00が女性専用時間です。



夕食直後に利用したためか、他の利用客はおらず、ひたすら独占することができました。老舗旅館の矜持が伝わってくる、綺麗で整然とした脱衣所は、床が畳敷きなので足元がとっても快適です。また広々としているため、ストレスを感じることなく着替えることができました。
脱衣所内には一通りのアメニティ類が揃っていますが、T字カミソリやシャワーキャップは用意されていませんので、これらが必要な場合は帳場に申し出れば無料でいただけるそうです(ただし旅館部宿泊客のみ)。


 
浴室にはまるでプールのような大きな浴槽が据えられています。川に面して横長な造りになっており、大きな窓を開ければ半露天になるような構造となっていますが、この日は虫の侵入を防止するためか、窓は閉め切られていました。
洗い場にはシャワー付き混合水栓が4基設置されており、1ブースずつにセパレートされているため、隣で他のお客さんが豪快にシャンプーしていたとしても気にならずに利用できるかと思います。なお水栓から出てくるお湯は源泉らしく、お湯からは微かにタマゴ的な味と匂い感じられました。


 
浴槽の隅にある湯口から注ぎ込まれるお湯はややぬるめなのですが、この湯口以外にも浴槽内部側面から熱めのお湯が投入されており、これによって広い浴槽の湯加減が全体的に均一になるよう図られていました。またこのような複数の湯口から注がれるお湯の総量はかなり多いのか、浴槽縁からふんだんにオーバーフローしていました。そのお湯は「桂の湯」源泉を単独使用したもので、無色透明でほぼ無味無臭、肌がスベスベするスッキリとした優しい浴感です。



窓を開けてみると、豊沢川の対岸には、浴場名の由来となっていると思しき白糸を垂らしたような一条の滝が落ちていました。



●銀(しろがね)の湯
 
翌朝二つの浴場の入口へ行ってみると、きちんと男女の暖簾が入れ替わっていました。暖簾に従い、今度は「銀の湯」へ入ってみましょう。お隣の「白糸の湯」と異なり、こちらは貸切利用もできるお風呂として設計されているためか、この旅館のお風呂の中では最も小さな造りとなっており、脱衣室もご覧のように民宿の浴室みたいなこじんまりとした感じですが、貴重品用ロッカーやアメニティ類が揃った洗面台、バリアフリーなトイレなど、諸々の設備が充実していました。


 
浴室もかわいらしく、方形の浴槽は3~4人サイズ。湯口は「白糸の湯」の湯口と同じ形状をしており、湯船のお湯の鮮度を維持するに十分な量のお湯が投入され、縁から洗い場へ向かってしっかりオーバーフローしています。また、洗い場にはシャワー付き混合栓が2基設けられています。


 
このお風呂で使われている源泉は「白糸の湯」と同じく「桂の湯」源泉を単独使用。お湯のフィーリングも「白糸の湯」と大差ないようでした。窓の外のすぐ傍では豊沢川の流れが迫っています。


・白糸の湯および銀の湯
桂の湯
アルカリ性単純温泉 59.1℃ pH8.5 溶存物質0.6223g/kg 成分総計0.6227g/kg
Na+:173.8mg(91.41mval%),
Cl-:56.4mg(20.08mval%), SO4-:215.0mg(56.56mval%), HCO3-:80.1mg(16.54mval%),
H2SiO3:61.5mg,
(成分に影響を与える項目、該当事項無し)


次回(その2)へつづく…
コメント (4)
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