温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

指宿温泉 殿様湯

2012年06月06日 | 鹿児島県

前回取り上げた「河原(こらん)湯」から近い場所にある「殿様湯」へお風呂をハシゴしました。川沿いの道に看板が立っているので、「河原湯」に比べてはるかにわかりやすく、すぐに見つけることができました。破風に埋め込まれている島津の家紋が殿様湯という威風堂々たる名前に箔をつけていますが、建物自体はごく普通の共同浴場に過ぎず、庶民風漂う雰囲気は殿様というより足軽に近いかもしれません。



湯屋の隣には浴場を管理なさっている方の民家が並んでおり、こちらに番台があるので、その番台で料金を支払います。


 
浴場入口の脇には以前の市長が揮毫した殿様湯の碑が鎮座しており、その上には島津の歴代藩主の名前が列挙されたプレートが掲示されていました。市井の公衆浴場なのに市が立てた史跡の碑が存在することは、この浴場が尋常ならざる風格を有している証なのでしょうが、庶民的な建物とは不釣り合いな殿様アピールには不自然なお仕着せ感すら覚えてしまい、この殿様湯をいかに理解したらよいものか、頭の中が少々混乱してしまいました。



入口手前には飲泉所があり、その奥には小さな休憩小屋が建てられています。飲泉所の湯口に転用されている石樋は藩政時代に引湯管として使われていた実物なんだとか。昔日の面影を追体験したく、瞑目しながらその石樋を何度も何度もさすって想像に更けてしまいました。


 
湯屋の内部も至って普通の、昭和後期に建てられたと思しき公衆浴場そのもので、殿様ではなく下級武士のような雰囲気です。浴室の中心には縦長の浴槽がひとつ据えられ、洗い場にはお湯と水道の蛇口のセットが4組取り付けられています(訪問時はお湯の出があまりよろしくありませんでした)。また浴室内部は金気を含む温泉成分の影響により、床を中心として全体的に赤く染まっています。
ごくごく一般的なこの浴室の中で特筆すべきは浴槽の源泉溜りでしょう。この施設を取り上げているガイドブックにも必ず写されていますが、浴槽へお湯を落とす細長い楕円形の源泉溜りの側面には○十の家紋が打ちつけられており、島津家の威光を浴室中に放っていました。なおこの家紋も浴槽廻りと同様に温泉成分が付着して赤く染まっており、更には細かな石灰析出もみられました。

源泉はこの島津家紋の直下から浴槽へ注がれており、源泉溜りにおけるお湯は湯面に薄い脂膜が張られている透明でありながら、浴槽へ落ちると薄い黄色や赤みを帯びた白系の貝汁濁りとなり、口にしてみるとしょっぱさと金気味・出汁味・石灰味が感じられ、湯面へ鼻を近づけると金気臭や弱い石灰臭が嗅ぎ取れました。手で掬うとトロトロしており、肌をさするとギシギシとした浴感が得られます。加水加温循環消毒は一切ない完全掛け流し。



かなり火照るお湯であるためか、床にはトドになる際の枕にするための20cm長さの角材が置かれていました。こうした角材は指宿の公衆浴場ではほぼ標準装備となっているようで、他の浴場でも見られます。


 
浴場の裏手にはかつて島津の歴代藩主が使っていたらしい殿様湯の遺跡が残されていました。残っているのは結構なんですが、雨ざらしなんですね。


 
説明プレートによると・・・
天保2(1831)年に島津の藩主代々の別館となる温泉行館がここに建てられた。浴場は石だたみで作られており、お湯は湯源より4つの湯つぼを次々にまわり、適温になるように工夫されていた。現在敷石などは昔のまま保存されており、当時張られていた浴室のタイルは殿様湯の風格をしのまばせる。腰元衆の浴室の裏には「足軽以下、是より内に入る可からず」と美しい字で彫刻した注意書きが今も残っている。
とのこと。いま自分で文字に起こした際に気付いたのですが、「足軽以下・・・」の注意書きなんてあったんですね。迂闊にも気づきませんでした。



遺跡の説明プレートの後背に源泉ポンプを発見。

名前に反してごく普通の公衆浴場なので、こちらに入ったところで殿様気分になれるわけではありませんが、お湯の質はホンモノですし、かつての武家の入浴文化が偲ばれる温泉行館遺跡は一見の価値があったので、観光地の一つとして立ち寄る価値は十分にありました。


二月田8号
ナトリウム-塩化物温泉 56.3℃ pH6.4 溶存物質5467mg/kg 成分総計5502mg/kg
Na+:1446mg(74.29mval%), Ca++:282.4mg(16.61mval%),  
Cl-:2870mg(91.89mval%),
H2SiO3:241.5mg,

JR指宿枕崎線・二月田駅より徒歩7~8分(約600m)
鹿児島県指宿市西方1408-27  地図
0993-22-2827

7:00~21:00 第2・4金曜定休
270円
備品類なし

私の好み:★★
コメント
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