温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

塩原・福渡温泉 不動の湯・岩の湯

2012年06月12日 | 栃木県
恋愛、就職(転職)活動の面接、商談などなど、人と人が直接対峙する場面において、その人物に対する評価は第一印象が大きく左右するものです。でも何度か会っているうちに、話に耳を傾けているうちに、プレゼンを何度も受けているうちに、相手に対する評価が逆転することってありませんか。シチュエーションが変わると、180度見方が変わることってありませんか。全くタイプじゃなかった鬱陶しい異性が、ある日突然いままでの先入観を覆すような態度を見せたとしたら、急に相手の一挙手一投足が気になったりしませんか。
温泉だって然りでして、1回入湯しただけであーだこーだと偉そうに評価する拙ブログのような輩は愚の骨頂、一か所の温泉を何度も何度も訪れ、初回入湯時には気付かなかった姿を知ってこそ、ようやくそのお湯に対して評価が下せる資格を有するのであります。

余計な前置きを述べてしまいましたが、私はいままで塩原温泉郷・福渡温泉の有名な露天風呂である「不動の湯」と「岩の湯」がどうしても好きになれませんでした。関東にお住まいで温泉好きを標榜する方でしたらどなたでも知っているこの両露天風呂。勤め人という境遇ゆえ週末に訪れることが多いのですが、いつ行っても混雑している上に、マナーが悪い客の傍若無人な態度がしばしば目についたり、ゴミが散らかっていたり、無人の混浴露天風呂という環境ゆえに出歯亀みたいな怪しい輩が鼻息を荒立てながら不穏な空気を放っていたりと、行く度にとてもお湯を楽しめるような状況ではなかったからです。しかしながら、枯葉舞う数か月前の冬の某日、その固定概念はあっさりと覆されたのでありました。



たまたま平日に休みが取れたので塩原の温泉でも巡ってみようかと、東北道・西那須野塩原ICを下りて国道400号を走っていたら、両露天風呂の最寄りとなる地区の路肩には駐車車両が一台もないのです。いつもだったら必ず路駐の車が1台以上はとまっているのに。これって、もしかしたら・・・



淡い期待を抱きながら箒川の川べりを歩きます。



期待通り、対岸の「岩の湯」には誰もいない模様。


 
いつも混んでいる露天風呂を今日は独占することができるかもしれない! ほくそ笑みを浮かべながら吊り橋を渡り、とりあえず「岩の湯」をパスして先へ。



●不動の湯
 
トレイルのどん詰まりにある「不動の湯」。上述の理由によりこのお風呂を敬遠しておりましたので、ここへ足を踏み入れるのはかなり久しぶりです。円筒形の料金入れへ200円を投入。



山の木々に囲まれ、脇を沢が流れる、とても野趣あふれるロケーション。いままでは「暗くてジメジメして足元もドロドロ」というマイナスイメージしか抱いていなかったのですが、初めて目にする誰もいない静かな「不動の湯」と接したおかげで、こんな素敵な露天風呂だっただなんて初めて気付いたのでした。


 
木の樋を模したコンクリの筧から滝のように源泉が落とされる様は圧巻。湯船へ大量投入されたお湯は、これまた木の樋を模したコンクリの排水路から渓谷の沢へと捨てられています。そのお湯は弱い貝汁濁りを帯び、湯中では橙色の湯の華が沢山舞っており、浴槽内はカニクリームソースのような白っぽい橙色に染まっています。弱塩味・出汁味・石膏味・金気味が複雑に混じりあい、炭酸のような味も仄かに感じられ、石膏臭と金気臭がやさしく香ってきます。トロトロとしたお湯からはキシキシとした浴感が肌に伝わり、絶妙な加水のおかげで丁度良い湯加減が保たれていました。ロケーションも良ければお湯も最高じゃありませんか。


 
そばには足湯も。福渡町内会の方々が手作りで設置したんだそうですね。



●岩の湯

「岩の湯」へ戻ってみると、まだ誰も来ていないみたいなので、せっかくだからハシゴしちゃうことに。


 
箒川の渓流の真横に設けられた露天風呂。ここでも円筒形の料金入れに200円を納めます。一応簡単な脱衣用の仕切りと棚が設けられていますが、雨風が吹きっ晒しであるためそんなに綺麗なものではありません。



岩の湯弁天。水が湧くところに弁天様は欠かせません。



源泉の標石。



「岩の湯」には湯船が2つあり、こちらは手前側の湯船。2~3人サイズの四角形でやや深く、岩肌の影響で槽内が黒く見えます。


源泉は足元から湧出しており、底から常にプクプクと泡が上がっていました。湯加減はややぬるめ、塩味や石膏味とともに出汁の味と匂いが強く感じられ、更には微かにタマゴ的な硫黄的知覚も帯びており、何かを焦がしたような香ばしい匂いもはっきりと漂っています。浴槽の大きさに対して湧出量が少ないためか、若干お湯が淀んでいるように感じられます。また底には大量の落ち葉が溜まっていましたが、これは時節柄仕方のないことです。



こちらは奥の湯船。源泉は岩肌の上から落とされています。緑色掛かった黄土色に強く濁って底は目視できません。岩を穿ってつくられたと思しき湯船は位置によって深さが異なり、最も深いところではお臍くらいまでありました。



岩肌から落とされる源泉のほか、奥の湯船の底からもプクプク湧出しています。薄い塩味+薄い出汁味+石膏味+金気味、石膏臭+金気臭、といった感じの知覚を有し、見た目といい味や匂いと言い、手前側の湯船とは明らかに異なる質感のお湯でした。


温泉の良し悪しを判断する「気持ち良い」というファクターは極めて主観的であり感情的ですから、お湯の本質的な問題よりもそれを取り巻く環境やコンディションで、温泉に対する評価は如何様にも転がってしまうわけであり、今回は改めてそのことを思い知らされました。
この両露天風呂は、混んでなければ、いや、一部の悪質なマナーの利用者さえいなければ、本当に素晴らしい野趣あふれる温泉なんですね。ここはオフシーズンの平日に利用するのが吉のようです。


不動の湯:ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉
岩の湯:ナトリウム・カルシウム-塩化物泉

那須塩原駅もしくは西那須野駅からJRバスの塩原温泉行で「福渡温泉」バス停下車、徒歩5~10分
栃木県那須塩原市塩原福渡温泉  地図(不動の湯)、地図(岩の湯)
0287-32-4000(塩原温泉観光協会)

両露天風呂とも6:30~21:00
200円(「不動の湯」の足湯は無料)
備品類なし

私の好み:★★
コメント (9)
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