※残念ながら上湯温泉大衆浴場は閉鎖されました。
あけましておめでとうございます。本年も何卒宜しくお願い申しあげます。
正月の2日・3日といえば箱根駅伝。関東地方の大学によるローカル大会にもかかわらず、なぜか全国的に盛り上がってしまうお正月の風物詩となっておりますが、そんな小生意気なことを言いつつも、神奈川県民である私は今日、沿道のどこかで小旗を振りながら、ランナーに声援を送って興奮しているはずです。この駅伝の折り返し地点である箱根は関東屈指の温泉地でありますから、お正月は箱根の温泉からスタートさせていただきます。
往路5区の本格的な山登りが始まるのは、箱根湯本駅前の商店街を抜けて函嶺洞門を通過し、左右両側に旅館建築が迫ってくる塔ノ沢の温泉街あたりですが、この温泉街を抜けて国道1号が箱根の深い森へ入ってゆこうかとする頃、ランナーの左手に見えてくるのが、塔ノ沢温泉唯一の公衆浴場「上湯温泉大衆浴場」です。私がこちらを利用するのはおそらく5度目なのですが、どういう訳か今まで拙ブログに掲載していなかったので、今回満を持して取り上げさせていただきます。久しぶりに再訪したところ、湯銭が600円に値上がりしていました。公衆浴場で600円はちょっと高い気がしますが、後述するように厳しい経営状態にあるんだそうですから、むしろこの浴場を維持する募金の気持ちで支払わせていただきました。
とってもレトロな雰囲気の湯屋。入って左手にある番台には、今時珍しいピンクの電話が置かれていました。番台前にある階段を上がった2階には休憩室があるようです。
玄関の真正面に男女両浴室の入口があり、そのままでは戸を開けた際に中が丸見えになってしまうため、入り口には目隠しのカーテンが掛けられています。また両入口の間にはロッカーが用意されていますので、旅行者でも安心して利用できますね。
脱衣室も昔ながらの共同浴場らしい渋い風情。右側に棚がくくりつけられ、洗面台や扇風機なども設置されています。
色褪せた水色の塗装が庶民的で且つ哀愁を漂わせる浴室。室内の左右幅いっぱいに浴槽が据えられ、手前側の左右両サイドに洗い場が配置されています。全体的に小ぢんまりしており、実用的な造りなのですが、天井と側壁が接するコーナー部分が緩やかなRを描いており、昭和のさりげない洒落っ気を感じさせます。
浴室の左右に分かれた洗い場。右側は昔ながらのお湯と水の蛇口のセットが2組並んでいる一方、左側はシャワー付き混合水栓が2基取り付けられていますから、ほとんどの利用客は便利な左側の洗い場を使うでしょう。
シャワー右手の窓外から細い配管が伸びており、そこからぬるいお湯が滴り落ち、直下の桶に溜められていたのですが、このお湯って一体何なのかな?
浴槽はおおよそ2.5m×1mで4~5人サイズの四角形。槽内は水色のタイル張りで、右側は浅くなっています。湯船には温度計がくくりつけられており、目盛りは42℃を指していました。源泉温度は40℃を切っているため、ボイラーで加温した上で供給されており、館内表示によれば夏は40℃、冬は42℃と、季節によって温度設定を変えているんだそうです。
お湯は槽内の投入口から供給されており、加温の具合が丁度良かったので、一切手を加えずそのまま快適に湯浴みすることができました。時と場合によっては熱かったりするのでしょうから、その場合には備え付けのかき混ぜ棒で撹拌したり、水道の蛇口を開けて加水すれば良いかと思います。
こちらで使われている源泉は湯本第50号泉で、同じ塔ノ沢の老舗旅館である「環翠楼」にも同じ源泉が引かれているんだとか。名旅館と同じお湯に入れるんですから、何とも嬉しいじゃありませんか。湯使いは加温した上での放流式。お湯の見た目は無色透明ですが、湯中をよく見ると白やベージュの微細な浮遊物がちらほら見受けられました。湯面から弱い石膏臭が放たれて室内にふんわりと漂っている他、微かなミシン油臭、そして僅かな石膏味が感じられます。一見すると何の変哲も無く、個性に乏しいお湯に思えるのですが、桶でお湯を汲んで掛け湯してみると、柔らかな感触とツルツルスベスベ浴感が肌を伝うので、その瞬間このお湯が只者では無い性質を有していることに気付かされます。そして、湯船に浸かってみますと、それらの感触に加えて弱いトロミと硫酸塩泉のような引っかかりが得られ、意外にも複雑な浴感が混在していることがわかります。全体としては滑らかさが勝っており、その上品な浴感はまるで高級な化粧水のようですが、硫酸塩泉的な性格のためか、入浴中も湯上り後も、上から毛布を被せられたような力強い温まりがあり、私が今回訪れたのは肌寒い季節だったにもかかわらず、汗がいつまで経っても引きませんでした。見かけによらずパワフルなお湯なんですね。
(チラシの画像はクリックで拡大)
この公衆浴場は、国道1号沿いという極めて目立つ立地にありながら、利用者減少や後継者問題によって存亡の瀬戸際に立たされているんだとか。ただでさえ利用者が減っているのに、湯船のお湯をボイラーで沸かしているため、費用がかさんでしまい、それゆえ料金も値上げされてしまったのでしょうね。館内には口コミで浴場の存在を広めて欲しいとの張り紙があり、番台などには宣伝のためのチラシも用意されていましたので、当記事でもスキャンして紹介させていただきます。赤字にあえぐ地方の鉄道では「乗って残そうローカル線」という掛け声が見られますが、これと同じロジックで「入って残そう温泉銭湯」という働きかけなんですね。たしかに箱根のみならず全国的に温泉浴場は減少しており、一度クローズしてしまったら再興は非常に難しいので、こちらの浴場には今後も是非頑張って営業を続けていただきたいものです。
湯本第50号泉
単純温泉 39.6℃ pH9.0 成分総計278mg/kg
Na+:63.2mg, Ca++:6.60mg,
OH-:0.170mg, Cl-:49.7mg, SO4--:28.7mg, HCO3-:50.5mg, CO3--:3.84mg,
H2SiO3:57.3mg,
(昭和62年11月25日)
加温あり
箱根登山鉄道・塔ノ沢駅より徒歩8分(約600m)、もしくは小田原駅や箱根湯本駅から箱根登山バスもしくは伊豆箱根バスで「上塔ノ沢」バス停下車すぐ
神奈川県足柄下郡箱根町塔ノ沢112 地図
0460-85-7683
平日10:00~21:00、土曜9:00~21:00、日曜9:00~20:30、金曜定休
600円
私の好み:★★+0.5
あけましておめでとうございます。本年も何卒宜しくお願い申しあげます。
正月の2日・3日といえば箱根駅伝。関東地方の大学によるローカル大会にもかかわらず、なぜか全国的に盛り上がってしまうお正月の風物詩となっておりますが、そんな小生意気なことを言いつつも、神奈川県民である私は今日、沿道のどこかで小旗を振りながら、ランナーに声援を送って興奮しているはずです。この駅伝の折り返し地点である箱根は関東屈指の温泉地でありますから、お正月は箱根の温泉からスタートさせていただきます。
往路5区の本格的な山登りが始まるのは、箱根湯本駅前の商店街を抜けて函嶺洞門を通過し、左右両側に旅館建築が迫ってくる塔ノ沢の温泉街あたりですが、この温泉街を抜けて国道1号が箱根の深い森へ入ってゆこうかとする頃、ランナーの左手に見えてくるのが、塔ノ沢温泉唯一の公衆浴場「上湯温泉大衆浴場」です。私がこちらを利用するのはおそらく5度目なのですが、どういう訳か今まで拙ブログに掲載していなかったので、今回満を持して取り上げさせていただきます。久しぶりに再訪したところ、湯銭が600円に値上がりしていました。公衆浴場で600円はちょっと高い気がしますが、後述するように厳しい経営状態にあるんだそうですから、むしろこの浴場を維持する募金の気持ちで支払わせていただきました。
とってもレトロな雰囲気の湯屋。入って左手にある番台には、今時珍しいピンクの電話が置かれていました。番台前にある階段を上がった2階には休憩室があるようです。
玄関の真正面に男女両浴室の入口があり、そのままでは戸を開けた際に中が丸見えになってしまうため、入り口には目隠しのカーテンが掛けられています。また両入口の間にはロッカーが用意されていますので、旅行者でも安心して利用できますね。
脱衣室も昔ながらの共同浴場らしい渋い風情。右側に棚がくくりつけられ、洗面台や扇風機なども設置されています。
色褪せた水色の塗装が庶民的で且つ哀愁を漂わせる浴室。室内の左右幅いっぱいに浴槽が据えられ、手前側の左右両サイドに洗い場が配置されています。全体的に小ぢんまりしており、実用的な造りなのですが、天井と側壁が接するコーナー部分が緩やかなRを描いており、昭和のさりげない洒落っ気を感じさせます。
浴室の左右に分かれた洗い場。右側は昔ながらのお湯と水の蛇口のセットが2組並んでいる一方、左側はシャワー付き混合水栓が2基取り付けられていますから、ほとんどの利用客は便利な左側の洗い場を使うでしょう。
シャワー右手の窓外から細い配管が伸びており、そこからぬるいお湯が滴り落ち、直下の桶に溜められていたのですが、このお湯って一体何なのかな?
浴槽はおおよそ2.5m×1mで4~5人サイズの四角形。槽内は水色のタイル張りで、右側は浅くなっています。湯船には温度計がくくりつけられており、目盛りは42℃を指していました。源泉温度は40℃を切っているため、ボイラーで加温した上で供給されており、館内表示によれば夏は40℃、冬は42℃と、季節によって温度設定を変えているんだそうです。
お湯は槽内の投入口から供給されており、加温の具合が丁度良かったので、一切手を加えずそのまま快適に湯浴みすることができました。時と場合によっては熱かったりするのでしょうから、その場合には備え付けのかき混ぜ棒で撹拌したり、水道の蛇口を開けて加水すれば良いかと思います。
こちらで使われている源泉は湯本第50号泉で、同じ塔ノ沢の老舗旅館である「環翠楼」にも同じ源泉が引かれているんだとか。名旅館と同じお湯に入れるんですから、何とも嬉しいじゃありませんか。湯使いは加温した上での放流式。お湯の見た目は無色透明ですが、湯中をよく見ると白やベージュの微細な浮遊物がちらほら見受けられました。湯面から弱い石膏臭が放たれて室内にふんわりと漂っている他、微かなミシン油臭、そして僅かな石膏味が感じられます。一見すると何の変哲も無く、個性に乏しいお湯に思えるのですが、桶でお湯を汲んで掛け湯してみると、柔らかな感触とツルツルスベスベ浴感が肌を伝うので、その瞬間このお湯が只者では無い性質を有していることに気付かされます。そして、湯船に浸かってみますと、それらの感触に加えて弱いトロミと硫酸塩泉のような引っかかりが得られ、意外にも複雑な浴感が混在していることがわかります。全体としては滑らかさが勝っており、その上品な浴感はまるで高級な化粧水のようですが、硫酸塩泉的な性格のためか、入浴中も湯上り後も、上から毛布を被せられたような力強い温まりがあり、私が今回訪れたのは肌寒い季節だったにもかかわらず、汗がいつまで経っても引きませんでした。見かけによらずパワフルなお湯なんですね。
(チラシの画像はクリックで拡大)
この公衆浴場は、国道1号沿いという極めて目立つ立地にありながら、利用者減少や後継者問題によって存亡の瀬戸際に立たされているんだとか。ただでさえ利用者が減っているのに、湯船のお湯をボイラーで沸かしているため、費用がかさんでしまい、それゆえ料金も値上げされてしまったのでしょうね。館内には口コミで浴場の存在を広めて欲しいとの張り紙があり、番台などには宣伝のためのチラシも用意されていましたので、当記事でもスキャンして紹介させていただきます。赤字にあえぐ地方の鉄道では「乗って残そうローカル線」という掛け声が見られますが、これと同じロジックで「入って残そう温泉銭湯」という働きかけなんですね。たしかに箱根のみならず全国的に温泉浴場は減少しており、一度クローズしてしまったら再興は非常に難しいので、こちらの浴場には今後も是非頑張って営業を続けていただきたいものです。
湯本第50号泉
単純温泉 39.6℃ pH9.0 成分総計278mg/kg
Na+:63.2mg, Ca++:6.60mg,
OH-:0.170mg, Cl-:49.7mg, SO4--:28.7mg, HCO3-:50.5mg, CO3--:3.84mg,
H2SiO3:57.3mg,
(昭和62年11月25日)
加温あり
箱根登山鉄道・塔ノ沢駅より徒歩8分(約600m)、もしくは小田原駅や箱根湯本駅から箱根登山バスもしくは伊豆箱根バスで「上塔ノ沢」バス停下車すぐ
神奈川県足柄下郡箱根町塔ノ沢112 地図
0460-85-7683
平日10:00~21:00、土曜9:00~21:00、日曜9:00~20:30、金曜定休
600円
私の好み:★★+0.5