今回からは熊本県八代市の日奈久温泉を巡ってまいります。まずはお湯の良さに定評のある「武士屋旅館」を訪い、日帰り入浴してまいりました。場所は公衆浴場「西湯」の右斜め前です。ALC造の地味な外観は、旅館というより湯治宿のような佇まいです。
南北に長い建物の南端に玄関や帳場があり、館内を南北に貫く廊下を進んだ突き当たりの北端に浴室がありました。突き当たりの左側が女湯で右側が男湯です。脱衣室はとても狭く、2人同時に利用するのが精一杯です。
一部がゆがんでうまく開閉できないアルミのドアを押して浴室へ。扉の浴室側はドアノブが外れていたのですが、その代わり、ノブが抜けた後の穴に紐が括り付けられていました。古いお風呂に慣れていない方ですと不安を抱いてしまいそうなほど鄙びた風情のお風呂であり、室内には3~4人サイズでタイル貼りの浴槽が据え付けられているばかりです。洗い場には硫化して黒く変色した水道の蛇口がひとつあるだけで、シャワーはおろか、お湯の出るカランもありません。
羊だか牛だかよくわかりませんが、どうやら偶蹄類らしい動物の頭から熱いお湯がドバドバ吐出されていました。でもお湯全量を浴槽へ注いでしまうと湯船が熱くなりすぎてしまうため、湯口の下に樋が括り付けられ、吐出されるお湯の半分近くを槽外へ捨てていました。もったいない気もしますが、熱くては湯船に入れませんから、こればかりは致し方ありません。下手に加水して薄めちゃうよりは余程良いです。このお風呂では完全放流式の湯使いとなっており、湯船を満たしたお湯は縁の切り欠けより排出されていました。
小さな角をクルリとカールさせた偶蹄類の頭は、温泉成分の付着によって真っ白く覆われていました。日奈久温泉の多くの宿や入浴施設では、組合が管理している混合泉を引いているのですが、日奈久温泉旅館組合の公式サイトによれば、こちらのお宿では自家源泉を使っているとのこと。吐出温度は45~6℃で、そのお湯は無色透明ですが、しっかりとしたタマゴ臭が漂っており、口に含んでテイスティングしてみますと、甘塩味の他にほろ苦みを伴うタマゴ味(茹ですぎたゆで卵の卵黄味)が感じられました。お湯には硫化水素かチオ硫酸イオンが含まれているものと思われます。この硫黄の影響なのか、お湯を捨てる樋の内側は薄っすらと黄色く染まっていました。一方で、浴槽内は全体的に赤茶けているように見えました。
投入量が減らされているおかげで、湯船では入浴可能な43℃に調整されていました。湯中では特に湯の花などの浮遊物は見られず、また湯船に浸かっても気泡の付着などはありませんでしたが、ちょっと熱めの湯加減ながらも、ツルツルスベスベの滑らかな浴感が大変気持ち良く、自家源泉且つ完全掛け流しならではのフレッシュさも相まって、いつまでも浸かっていたくなる良泉でした。また、湯上がりのお肌はツヤツヤし、温まりも大変良く、いつまでもホコホコが続きました。硫黄が強く主張しているこちらのお湯は、無色透明無味無臭のお湯が多い日奈久温泉においては、貴重な存在かもしれません。
武士は食わねど高楊枝なんていう言葉もありますが、武士屋旅館のお湯は、渋くて鄙びた佇まいに目をつぶっても構わないほど気位を高く持てる、通好みの良いお湯でした。
温泉分析表見当たらず
肥薩オレンジ鉄道・日奈久温泉駅より徒歩12分(約1.0km)
熊本県八代市日奈久上西町360 地図
0965-38-0207
日奈久温泉旅館組合の紹介ページ
日帰り入浴時間不明
300円
ボディーソープあり、他備品類なし
私の好み:★★+0.5