温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

仙石原(大涌谷温泉) 仙石原いこいの家

2016年01月06日 | 神奈川県

箱根の仙石原界隈で入れる温泉のほとんどは、大涌谷で人工的に作った蒸気造成泉の引湯なのですが、造成という言葉の響きから受ける印象とは裏腹に、意外にも入り応えのある酸性の濃いお風呂に浸かることができますから、箱根と同じ神奈川県に住む私にとっては、酸性の硫黄泉が恋しくなった時、手軽に入りに行ける実にありがたい存在です。

施設の中では掛け流しを謳うところもたくさんありますが、そもそも温泉使用料が高いためか、どの施設も入浴料金の設定が高く、東北や九州の安くて良質な温泉を知っている身としては、つい敬遠したくなります。そんな中で、箱根町営の公営福祉施設「いこいの家」は、地元の住民のために大涌谷の温泉を引いたお風呂が設けられているのですが、町外の者でも利用可能であり、町営ゆえに周辺施設よりも幾分安い料金設定になっていますので、どんなお風呂なのか行ってみることにしました。場所としては、仙石原文化センターの裏手に広がる公園の中にあり、特に入浴可能であることを示すような看板や幟などは一切ありませんので、あらかじめ存在を知らないとお風呂までたどり着けないでしょう。とっても地味で控えめな建物です。


 
玄関入って左手の受付窓口で係員の方に料金を直接支払います。建物の中央部には大きな窓から箱根の山を望める大広間があり、また奥に休憩室も設けられていて、湯上りにゆっくり体を休めることもできます。この広間を挟んで手前側に女湯、奥側に男湯があり、戸を開けた先につながる脱衣室は、2~3人同時利用したら窮屈さを覚えそうなほどコンパクト。棚も6つしかないので少人数利用を前提にしているお風呂なのでしょう。


 
浴室もかなり小ぢんまりしており、キャパ的には一般的な民宿のお風呂と大差ありませんが、床や浴槽など温泉が触れる箇所にはタイルではなく石材が用いられているため、小さいながらもそこはかとない重厚感と和の温泉風情が醸し出されていました。男湯の場合は右手に浴槽が据えられ、左手に洗い場が配置されています。なお洗い場にはシャワー付きカランが3つ並んでおり、ボディソープの備え付けは無い代わりに石鹸が置かれていました。


 
石造りの湯船は2人サイズというかなり小さなもの。湯口からは酸っぱい匂いを放ちながら熱いお湯が注がれており、私が湯船に入るとお湯が一気に溢れ出して、洗い場はちょっとした洪水状態になってしまいました。館内表示によれば加水加温循環消毒の無い放流式の湯使いとのことですが、大涌谷から供給されてくるお湯の状況に応じて適宜加温などの調整が行なわれているようです(詳しくは後述)。


 
造成泉だからといって侮ってはいけない要素の一つが、しっかりとした濁り湯であるということ。もちろんこのお風呂でもしっかりネズミ色に濁っていました。と言っても満遍なく濁っているわけではなく、すぐ沈殿してしまうようなタイプの湯の花(湯泥)が多いため、はじめのうちの湯船はお湯が上澄んでいましたが、私が湯船に入ることによってお湯が撹拌されると、沈殿が一気に舞い上がって、忽ちライトグレーに強く濁りました。そのビフォーアフターを比較したのが上の2枚の画像。左(上)画像は濁る前で、右(下)画像は濁った後の様子です。この画像じゃちょっとわかりにくいかもしれませんが、現地では明らかにお湯の色合いや濁り方が変化していました。このように沈殿しやすい湯泥のような湯の花は、大涌谷造成泉の特徴のひとつです。


 
沈殿が舞い上がって濁りを濃くしてゆく様は、まるで暑い日に俄に積乱雲が発生してゆく過程を見るかのようです。湯船の中でモワモワっと濁りが拡散してゆく様子を撮ってみました。
湯口のお湯を口に含むと、頬を収斂させるレモン汁のような酸味が感じられ、酸っぱい匂いとともに硫化水素臭(いわゆるイオウ臭と軟式テニスボール的なゴム臭が混在)が嗅ぎとれました。湯中では酸性泉らしい弱いヌメリとともにギシギシとした感触、そして全身にまとわりつくしっとり感が得られます。でも総じて言えば、この日のお湯は、いつもの大涌谷造成泉よりも薄くてマイルドであるような気がしたので、お風呂から上がった後、受付にいたおじさんに話を伺ったところ、この日は朝から供給されるお湯が30℃台だったから、仕方無く真湯を加えて温度を上げたんだよ、と説明してくれました。なるほど、そういうことだったのか…。


 

(上3枚の画像はいずれも2015年6月末に撮影。この画像に写っている道路の通行止は現在解除され、通行可能です
実を申しますと、今回私が訪れたのは、箱根山の火山活動が活発になって噴火警戒レベルが3にあがり、大涌谷からの温泉供給が滞り始めた頃だったのです。火山活動の影響で大涌谷の温泉造成設備(および配管)に何らかの不具合が発生したものの、入山規制がかかっているため温泉供給会社がメンテナンスできず、供給量が激減し、温度も低下してしまったのでした(どうやら、この数日後にはお湯がすっかり止まってしまったみたいです)。湯上がりに公園のベンチに座って休憩していると、神山方向では濃い水蒸気がモクモクと立ち上り、空には火山活動に伴う重低音がドーンと轟き、地鳴りがお尻へ直に響いてきて、実に不気味な体験をしました。桃源台方向から来る車は灰を被っており、路線バスの運転手さんも無線で「これヤバいんじゃないの」と交信しているような状況。普段は観光客で賑わう箱根も、この日ばかりは閑散としており、いままで数え切れないほど箱根へ足を運んでいる私も、あんなに静まり返った箱根は初めての体験でした。

その後、火山活動は徐々に沈静化し、2015年11月には箱根山の噴火警戒レベルが1に下がりましたが、まだ大涌谷からの温泉供給が元に戻っていないため、この記事をアップする本日時点で、残念ながら「仙石原いこいの家」の浴室は利用中止となっています。こちらのお風呂は仙石原で湯めぐりする際の穴場的スポットですから、温泉供給が復旧して再びこのお風呂に入れる日がやってくることを祈っています。


大涌谷温泉 蒸気造成混合泉2号泉(仙石原方面)
酸性-カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 64.1℃ pH2.0 成分総計1.148g/kg
H+:10.1mg, Na+:36.4mg, Mg++:32.9mg, Ca++:91.9mg, Fe++:7.70mg, Al+++;12.4mg,
Cl-:236mg, HSO4-:147mg, SO4--:440mg,
H2SiO3:120mg, H2SO4:3.53mg, H2S:0.38mg,
(平成21年8月14日)
加水・加温・循環・消毒なし

箱根登山バスの桃源台線で「仙石原文化センター前」バス停下車
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原870  地図
0460-84-6230

9:00~19:00 月曜および年末年始定休
町外650円
石鹸・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント (4)
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