日奈久温泉に数軒ある公衆浴場の中でも、昔ながらの佇まいが人気を呼んでいる「松の湯」でひとっ風呂浴びてまいりました。
壁に貼り付けられている説明によれば、この建物は明治時代に警察署として利用され、昭和7年に共同浴場として創業されたんだとか。どのような経緯でそんな摩訶不思議な転身を遂げたのか疑問を抱きながら、番台で湯銭を支払って館内へと入りました。番台の右側には休憩スペースが設けられており、そこに腰掛けてジュースを飲んでいる湯上がりのおじさんの姿が、ほのぼのとした風景画になっていました。
公衆浴場でありながら家族湯も併設されている点がいかにも九州らしいところです。誰にも邪魔されない家族湯を使っても良かったのですが、今回は昔ながらの風情が味わえる大浴場を利用しました。鴨居の上にはサイン色紙がズラリと並んでいます。フォトジェニックな温泉銭湯ですから、地元テレビ局や九州ローカルの番組で頻繁に取り上げられるのでしょうね。
大浴場は脱衣室と浴室が一体となった古典的な共同浴場のスタイルです。板の間の脱衣室は広々としていて、古いながらも綺麗に維持されており、浴室までよく見渡たせとても開放的です。
私の経験則から申し上げますと、ステップを下って浴室へ向かう温泉浴場は、えてして良泉である場合が多いので、こうした造りのお風呂を目にしますと、否が応にもお湯に期待してしまいます。上述の説明によれば、湧出する源泉位置に合わせるため、このように低い位置に浴槽を設けたんだとか。現在は組合管理の混合泉を引いていますが、かつては当地でお湯が自噴していたのでしょう。
なお右(下)画像は、浴室から脱衣室を眺めた様子です。脱衣ゾーンに対して、湯船のある入浴ゾーンがちょっと低くなっていることがおわかりいただけるかと思います。
タイル張りの入浴ゾーンには、豆タイルで縁取られた浴槽が据えられており、洗い場として右側に幾らかのスペースが確保されているものの、シャワーなどのカラン類はほとんど無く、水道の蛇口がちょこっとあるだけです。私の訪問時には誰もおらず、お湯が湯船に注がれる音だけが響いており、その音は脱衣室をスルーして表の方まで届いていました。
木造の建物ですから壁や天井は羽目板張り。古い建物ですがこまめにメンテナンスされているらしく、幾度も塗り重ねられてきたペンキの厚さが、修繕の履歴を物語っているようでした。このお風呂で特徴的なものの一つが天井の湯気抜き。鍛冶屋さんが使うようなふいごのような形状をしており、これによって湯気の抜けを良くしているんだそうです。
縁の紺色と槽内の水色というコントラストがお湯の清らかさを際立たせている浴槽。中央部で2つに仕切られており、湯口がある奥の方は2~3人サイズで43℃くらいのちょっぴり熱い湯加減であるのに対し、手前側の槽は奥の槽から流れ込むお湯を受けているため1℃ほど低い42℃前後という、どなたでも入りやすい温度になっており、3~4人は同時に入れそうな大きさを有しています。そしてこの手前側の槽の切り掛けからお湯がオーバーフローしていました。純然たる掛け流しの湯使いです。
湯船へトポトポと注ぎながら室内全体へ音を響かせているこの湯口は、全体的に白く染まっていました。長年使い込まれた形跡なのでしょう。現在この浴場で引いているお湯は組合の共同源泉(混合泉)であり、無色透明でほとんど無味無臭ですが、ほんの僅かに塩味があったように感じられました。サラサラ系のあっさりしたお湯で、くせが無くて柔らかく、体への当たりも実にマイルド。万人受けする飽きの来ないお湯です。
昔の入浴客に想いを馳せながら掛け流しの湯に浸かると、感慨もひとしお。古い建物でありながら、きちんとメンテナンスを行うことによって昔日の面影を今に残しているその努力には頭が下がります。澄んだ綺麗なお湯を味わいながら歴史を追体験させてくれる、とても素敵な浴場でした。
日奈久温泉旅館協同組合混合泉
単純温泉 43.9℃ pH8.03 溶存物質909.2mg/kg 成分総計913.6mg/kg
Na+:270.6mg(91.10mval%), Ca++:17.7mg(6.89mval%),
Cl-:328.4mg(71.45mval%), HCO3-:213.8mg(27.01mval%),
H2SiO3:58.0mg,
(平成10年6月9日)
熊本県八代市日奈久中西町380-1
0965-38-0573
ホームページ
8:30~20:30 第2・4火曜定休
200円
ドライヤー(有料10円)・ロッカーあり
私の好み:★★★