温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

姥子山越旭温泉 旅館山越

2016年01月05日 | 神奈川県
 
箱根の温泉をおおまかに分類しますと、大涌谷や湯の花沢の造成泉を代表とする白濁した酸性の硫黄泉(造成泉)、そこから下がった宮ノ下などで見られる薄い食塩泉、そして標高の低い箱根湯本付近に多い無色透明の温泉(食塩泉や硫酸塩泉的な要素を兼ね備えた単純泉など)に分けられ、もっとザックリ分けちゃいますと、酸味がある白濁湯か、無色透明湯のいずれかに二分されちゃうわけですが、芦ノ湖の東岸にあたる湖尻から姥子にあたる地域だけは、こうした分類とは毛色の違う、重炭酸土類や硫酸塩が多くてほんのり黄色く微濁した温泉が湧出しています。ただ、どちらかといえばこのエリアは観光客が素通りしてしまいがちであり、観光地としての存在感が弱いため、残念ながらその特徴ある泉質は注目されにくく、温泉ファンであっても、そんな泉質のお湯が湧いていることをご存知ない方もいらっしゃることかと思います。意外にも箱根の温泉って奥が深いんですよね。今回はそんな姥子エリアのお湯の特徴をしっかりと味わうべく、県道沿いの「日帰り入浴」の看板に誘われて、「山越旅館」で日帰り入浴を楽しんでまいりました。


 
予約などせず飛び込みで入浴をお願いしたところ、女将さんは「入浴できますけど…」という言葉の後にかなり高い金額を告げ、それでも大丈夫ですかと言わんばかりの表情を浮かべました。普段から安い温泉ばかり入っている私としては、その数字を耳にして一瞬怯んでしまいましたが、一度走り始めた入浴したい願望を止めることはできなかったので、気づけば財布からその金額を取り出し、女将さんに支払っていました。衝動を抑えられない自分の性分には呆れるばかりです。お風呂は内湯と2つの露天風呂があり、どれも貸切で利用するとのこと。女将さんの勧めに従い、今回は露天風呂を利用することにしました。



「うちは全部源泉掛け流し」と誇らしげにお話しされる女将さんの後をついて館内を歩きます。館内の廊下を進んでいった突き当たりに、浴室など水回り関係がまとまって配置されていました。共用洗面台の前の左手が内湯、その奥が露天風呂です。露天風呂には2つあり、階段を上がった2階には展望露天風呂があるんだそうですが、宿泊客がある程度利用しているような日でないと利用できないらしく、この日は出入口に行灯が立てられて行き手が阻まれていましたので、今回はもう一つの露天風呂である1階の方へ案内されました。通常貸切利用は40分に決められているのですが、この日は閑散期だったのか「1時間くらい大丈夫ですよ。ゆっくり入っていってください」と融通を利かせてくれました。


 
脱衣室はまさに貸切風呂のイメージ通りのコンパクトな空間で、少々のカゴと洗面台1台など、必要最低限の備品しかありません。でも清掃は行き届いており綺麗ですから、使い勝手に問題はありません。


 
建物の裏側に位置する露天風呂は、四方を目隠しの塀で囲まれていて、頭上も屋根に覆われており、そうした構造物の隙間から周辺の木立の緑を目にする程度で、正直なところ開放感はあまりなく、いかにも裏庭という感じが強くします。それでも和の趣きを醸し出すため、石灯籠や玉砂利を施して日本庭園風にしており、足元はスノコ状で、上品な誂えとなっていました。
出入口と浴槽の間に挟まれた空間に洗い場が設けられており、シャワー付きカランが2基並んでいました。備え付けの桶や腰掛けも2組用意されていましたので、このお風呂はカップルや夫婦でシッポリ利用することを想定しているのかもしれませんね。そんなことに思い至ったら、ひとりで虚しく湯浴みしている自分がとっても可哀想に思えてきちゃった(涙)。


 
浴槽は1.5m×1mの2~3人サイズで、槽内はタイル張りですが、縁には立派な木材が用いられており、ぬくもりある和の温泉風情が醸し出されています。女将さんが話していたように湯使いは放流式らしく、加水や加温の有無についてはわかりませんが、少なくとも槽内における吸い込みや供給は行われていないようです。浴槽を満たしたお湯は切り欠けから溢れ出ている他、切り欠けの直下にあるオーバーフロー管からも排出されており、湯船に誰も入っていないような状況において、お湯はこのオーバーフロー管メインで排湯されているようです。下手にお湯を縁から上部溢湯させて床をビショビショにさせないようにという配慮なのでしょうか。


 
石積みの湯口から滔々と注がれるお湯からは、樹脂っぽい匂いと石膏を焼いたような香ばしいお焦げ臭が漂ってきます。このお湯を口に含んでみますと、重炭酸土類泉のようなカルシウム感と重曹味を有している他、弱い金気味、そして正苦味泉のようなほろ苦さが感じられました。お湯は薄っすらと翠色を帯びた山吹色の笹濁り。湯中では小さな(稀にちょっと大きな)焦げ茶色の湯の花がチラホラ舞っており、その湯の花を桶で掬い上げてみたのが右(or下)画像です。
湯中ではツルスベ浴感とキシキシ浴感が五分五分で拮抗しており、少々のトロミも有し、ゆっくり浸かっていると肌に染み込んでゆくようなしっとり感が全身を包み込んでくれました。造成泉でも食塩泉でも硫酸塩泉系の単純泉でもないこの手のお湯は、箱根においては実に異色の存在です。


 
浴槽側壁の湯面ライン上には温泉成分がこびりついて庇状の析出が形成されており、また湯口周りに並んでいる岩にも、同じく温泉成分の付着による凸凹がビッシリと付着していました。箱根にもこんな個性的なお湯があるんですね。このお宿で使われている源泉に限らず、湖尻から姥子にかけての一帯で湧出する温泉は、塩化物イオンが少ないかわりに、炭酸水素イオンと硫酸塩イオンが多く、ボーリングの掘削深度が深いわりには湧出温度がそんなに高くないという共通した特徴を有しています。詳しくは箱根温泉旅館ホテル協同組合の公式サイト「箱ぴた」「箱根温泉の泉質分帯」をご覧ください。



私は露天風呂で十分満足したため、内湯は見学のみで済ませました。一室しかないため、出入口には「空いています」の札が提げられており、利用時にはこれを裏返して貸切にするわけですね。


 
内湯の脱衣室は、いかにも温泉旅館らしい広さがあり、エアコンも完備されてるので、四季を通じて快適に利用できることでしょう。



内湯の浴室は大人数で利用しても問題なさそうな広さがあり、落ち着いた明るさに抑えられている室内には、湯気と湯の香が充満していました。


 
洗い場は左右両サイドに分かれており、計4基のシャワー付きカランが取り付けられています。


 
小さな祠のような形をした石造りの湯口は、お湯が滴り落ちる下部でハの字型に析出がコンモリと付着しており、お湯の流路は部分的に赤黒く染まっていました。お湯のフィーリングは露天風呂と同じですが、室内に湯気が籠っている分、お湯から放たれる焦げたような匂い、そして土類泉的な香ばしい匂いがより強く感じられました。


 
タイル張りの浴槽は目測で1.5m×.2.5mの4~5人サイズ。槽内のステップが広くとられているため、肩まで浸かれる深さがある部分は、意外と狭いかもしれません。露天風呂同様に排湯は浴槽縁の切り欠けの他、塩ビのオーバーフロー管からも排出されており、私の訪問時は縁の上から溢れるお湯は無く、それゆえ洗い場の床がオーバーフローでびしょ濡れになるようなことはありませんでした。


 
上述したように2階にある展望露天風呂は、その入口が行燈で塞がれていたため、今回は見学しておりません。でも屋外から見える出っ張ったテラスが、おそらくその展望露天風呂なのでしょう。

箱根では珍しい個性的な泉質であるのみならず、体にしっとりと沁み込んでゆくような浴感が心地よく、それでいて温まりの力強さもあり、優しさと強さを兼ね備えた逞しい紳士のようなお湯に、すっかり感心してしまいました。箱根の湯めぐりもなかなか面白いものです。もっとも、日帰り入浴で1500円という料金をどう捉えるかは人ぞれぞれの価値観によるかと思いますが、40分という時間制限はあるものの(今回は1時間近く入らせてもらいましたが)、貸切の内風呂で1000円でしたら東北や九州でもよくある価格設定ですから、基本的に料金設定が高い箱根という観光地において、旅館の露天を占有できてこの値段でしたら、実は妥当な線なのかもしれませんね。箱根の白濁湯や無色透明湯に飽きた御仁におすすめの一湯でした。


元箱根第19・23・41号混合
カルシウム・マグネシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉 64.4℃ pH6.6 蒸発残留物1.335g/kg 成分総計1.600g/kg
Na+:118mg, Ca++:134mg, Mg++:79.4mg, Fe++:0.88mg,
Cl-:15.5mg, SO4--:469mg, HCO3-:446mg,
H2SiO3:224mg, CO2:94.7mg,

箱根登山バスの桃源台線で終点「桃源台」より徒歩15分、もしくは伊豆箱根バスの湖尻行(小田原発)で終点「湖尻」より徒歩10分
神奈川県足柄下郡箱根町元箱根湖尻160  地図
0460-84-8443

日帰り入浴時間は要確認
1500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント
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