前回記事で触れた芦北町のコミュ二ティーバス「ふれあいツクールバス」に乗って「吉尾温泉」バス停で下車した際、停留所の目の前に立っていた「高野屋旅館」が気になったので、公衆浴場から上がった後にこちらにも立ち寄ってみることにしました。吉尾川が大きくカーブする内側に位置しており、付近には他に商売を営んでいるような建物は無いため、まるで一軒宿のような佇まいです。道路から目にした時には館内が薄暗く、営業しているか不安でしたが、ピロティ式の駐車場に車が停まっていましたので、ダメ元で玄関を訪い声をかけたところ、「ぬるいかもしれませんが」と前置きした上で入浴を受け入れてくださいました。
道路を挟んだ川岸に建てられているこのコンクリの構造物は、高野屋旅館のお風呂に引かれているお湯の源泉です。ということは、前回記事の公衆浴場とはおそらく別源泉のお湯なのでしょう。
玄関から左に折れて廊下を進んだ突き当たりが浴室です。洗濯機や生活雑貨などが雑然と置かれた脱衣室は、辺鄙な田舎の民宿のような生活感が強く漂っているのですが、この脱衣室から覗く浴室はとても明るく、湯船のお湯が陽光をキラキラと反射していました。
浴室内に洗濯機が置かれている点も、旅館というより民宿みたいでアットホーム。湯船の残り湯で洗濯するのでしょうね。室内の水道蛇口は硫化して黒く変色していましたが、ということは、洗濯機の部品も硫化で故障したりしないのかな?
2方向に窓がある浴室は、日中の採光が抜群です。浴室の窓から外を眺めると、すぐ目の前には吉尾川の清流が横切っており、山の緑も美しく、2つの窓の間を風が吹き抜けて実に爽快です。窓を全開にすることにより、まるで露天風呂のような開放感を味わえました。
タイル貼りの浴槽は、外側は白で槽内はスカイブルー。やけに武骨なステンレス製の手すりが取り付けられていますが、浴槽の大きさはせいぜい2~3人が精一杯。このコンパクトな浴槽に、湯口のホースから大量の温泉が注がれていました。ホースの口は湯面下に潜っていましたが、そのホースを上に持ち上げて撮影したのが右(下)画像です。結構な湯量でしょ。
湯船の温度は38℃という長湯仕様であり、不感温度帯に近いため、時間を忘れて長時間湯浴みしていても、体への負担が軽くて済みます。またじっくり浸かっていますと、全身に大小の気泡がビッシリと付着し、アワアワ湯が好きな私としては入浴中に興奮が止まりませんでした。
湯船へ大量に注がれるお湯は、常時縁の上から床へ溢れ出ているのですが、私が湯船に入ると、まるで大洪水が起きたかのようにザバーッという音を轟かせながら豪快に溢れ、床の排水口では大きな渦が発生していました。
湯口のホースを外してみますと、タマゴ臭ははっきりと香ってきました。この状態で吐出温度を測ってみますと、40℃ちょうど。まさに夏向きの爽快なお湯です。見た目は無色透明でクリアに透き通っており、湯の花などの浮遊物は一切見られません。湯口に置かれたコップで飲泉してみますと、ほろ苦味を伴うタマゴ味が感じられ、上述のように明瞭なタマゴ臭が鼻へと抜けていきました。分析書の計測値によればpH8.3ですから、あとちょっとのところでアルカリ性泉を名乗れない状態なのですが、そんな泉質名の区分なんでどうでも良いと思われるほど、はっきりとしたアルカリ性泉的ツルツルスベスベが得られ、柔らかでなめらかなフィーリングが心地よく、それでいて上述のようにぬるいお湯ですから、長い時間にわたって湯浴みし続けていられます。寧ろいつまでも湯浴みしていたくなるほど気持ち良く、後を引いて湯船から出ることができませんでした。
加温なしのお湯ですから冬はちょっとツラいかもしれませんが、夏にはとっても気持ち良く、湯上がりも極めて爽快。しかも長湯することによって、ぬるいながらも体の芯までしっかり温まります。浴槽の容量に対してお湯の投入量が多いので、お湯のフレッシュ感も抜群です。この吉尾温泉をはじめとして、熊本県芦北地方には湯浦温泉や湯の鶴温泉など、ぬるめ・タマゴ感・ツルスベという私が大好きな要素を兼ね備えた温泉が点在しているので、また機会を見つけてこのエリアを再訪してみたいと思います。
往きはコミュ二ティーバスでやってきましたが、帰路は吉尾駅から肥薩線の普通列車に乗車します。吉尾温泉から駅まで歩いて約15分とのこと。本当は長時間湯浴みしていたかったのですが、そろそろ列車の発車時刻も近づいてきましたので、後ろ髪を引かれる思いでこちらのお宿を出て、川沿いの道を歩いてゆくと・・・
川が左へ急カーブして流れが淀んでいる淵に、肥薩線の赤いガーダー橋が架かっていました。この橋の下に芦北町「ふれあいツクールバス」の「和田口」バス停があり、肥薩線吉尾駅との乗り換えポイントでもあります。吉尾川はこの鉄橋をくぐった先で球磨川に合流します。
「和田口」のバス停から土手沿いの路地に入り、遮断機の無い第4種踏切を渡って吉尾駅のホームへ。この駅は無人であり、単線の線路にホームが一本あるだけの、極めて簡素な構造です。
ホームから球磨川を臨むと、吉尾温泉を案内する看板が立てられていました。でもこの看板に気づく乗客は果たしてどれほどいるのかな。肥薩線は球磨川の川岸をへばりつくように走っており、谷いっぱいに球磨川が漫然と流れていました。
時刻表通りにやってきた八代行の普通列車はキハ40の単行(1両)。しかも車内には片手で足りる程の客しか乗っていません。これじゃ本数も少ないはずだわ。でも沿線風景はとても風光明媚。美しい景色をのんびり眺められる列車の旅もなかなか良いものですね。
単純温泉 41.7℃ pH8.3 140L/min 溶存物質402mg/kg 成分総計403mg/kg
Na+:91.7mg,
Cl-:10.5mg, HCO3-:227.1mg, CO3--:6.0mg,
H2SiO3:50.5mg, H2S:0.8mg,
(平成21年10月1日)
加水加温循環消毒なし
肥薩線・吉尾駅より徒歩15分、もしくは芦北町「ふれあいツクールバス」大岩・白石線の「吉尾温泉」バス停下車
熊本県葦北郡芦北町大字吉尾18
0966-83-0108
日帰り入浴時間不明
300円
石鹸やボディーソープあり。他備品は見当たらず。
私の好み:★★★