温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

上山温泉 ふぢ金旅館

2014年12月24日 | 山形県

前回記事では上山温泉・湯町地区の「ホテル山内」を取り上げましたが、今回は節操もなくそのお隣の「ふぢ金旅館」へとお邪魔し、日帰り入浴させていただきました。民家と見紛いそうな、渋く控え目な佇まいですが、玄関庇のむくり屋根が只者ではないことを訴えています。



玄関に入ってインターホンで呼び出しますと、奥の方から股引姿のお爺さんが現れて対応してくださいました。正面の壁には「謹告 湯銭四百円也」の張り紙。余計なセリフはいらない。ただ漢字8文字だけで十分に伝わります。これぞ日本の潔さ。



館内には大小の浴室が1つずつ。後述するように今回は大きな浴室を利用させていただいたので、玄関の近くにある小さな浴室は見学のみにとどめました。古いタイル張りの浴室内には、1~2人サイズの角の丸い浴槽がひとつあるだけで、至って質素ですが、出窓には桶がきちんと積まれ、その並びの花瓶には造花のバラが飾られています。清掃が行き届いており、窓から差し込む陽により、室内は淡い光で照らされ、湯船のお湯がキラキラと輝いていました。伝統的な日本絵画は余白にこそ美があると言われていますが、まさにその「余白の美」を体現しているかのようなこのお風呂。なんて品が良いのでしょう。



こちらのお宿はお湯ももちろん良いのですが、上層階への階段が実に印象的。廊下から階段へ接続する空間は緩やかな曲線を描いています。当時の左官屋さんの職人技が光っていますね。そして、階段の途中に設けられた明かり採りの丸窓には、竹細工が施されています。


 
今回お爺さんに案内されたのは大浴場「つるはぎ(鶴脛)の湯」。引き戸のガラスへ直に欠かれている手書きの字が良い味を出していますね。


 
板の間の脱衣室は、見るからに年季の入っており、歩く度に床が撓んでキシキシ音が響くのですが、でもただ古いだけではなく、小窓の枠上には飾られた造花や、洗面台に施された、和風な東屋が建つ青松の海岸を描いた小さなタイル絵など、昭和の日本の美意識が随所に見受けられ、床の軋みですら深い味わいに感じられます。

壁に掛かる木板には「鶴脛温泉之湯来記」と題する文章が墨痕鮮やかに記されています。鶴脛温泉とは湯町地区のお湯の別称であり、早い話が上山温泉の由緒書きです。曰く、1458年(長禄2年)のこと、肥前から来た月秀という僧侶が、脛を沼に浸して傷を癒やし飛び立つ鶴の姿を目にし、その沼からお湯を引いて湯治場を作ったのが上山温泉のはじまりとのこと。鶴脛温泉という別称は、その経緯に由来しているんですね。
この古い説明ボードで面白いのは、由来につづく湯使いに関する説明です。この文章が書かれたのは、建物同様に相当以前のことと思われるのですが、その当時からここのお風呂は放流式であることを訴えているのです。該当部分を抜粋しますと「近年各地に温泉と称するワカシ湯浄化環流のバス等流行していますが此所の天然温泉は全く神の恵みによつて湧出した真の温泉です」とのこと。現在の温泉業界で掛け流し云々がうるさくなったのはここ十数年の話ですが、実際にはそれ以前から、温泉の真偽は業界にとっての大きな関心事だったんですね。


 
こちらの浴室は、さきほどチラッと見させていただいた小浴室よりはるかに大きく、旅館という名前に相応しい規模です。どうせ入るのでしたら、こっちの方がノビノビできますね。古い造りの室内は、モルタルの上にタイルが貼られており、床や浴槽はタイル貼り。余計な設備は無く、室内にはお湯が湯船へ落ちる音が響くばかりで、他の音は一切聞こえません。
なお洗い場には単水栓のシャワーが1つと水道蛇口が2つあるのみですから、掛け湯する場合は湯船から直接汲んじゃった方が良さそうです。



浴槽は目測で3.5m×3.0m、槽内に貼られた水色のタイルは、湯面がさざなみ立つと、窓から降り注ぐ外光を受けて虹色にキラキラ輝き、青白い光を反射しています。また緩やかなRを描く御影石の縁は、温泉成分の付着でうっすらと白く染まっています。


 
 
浴槽の隅には石造りの湯口跡があるのですが、現在では使われておらず、その右脇まで引かれた塩ビのパイプより、直に触れないほど熱いお湯がトポトポ注がれています。この湯口跡のまわりには、まるで雪をかぶったかのように、硫酸塩の真っ白な析出がコンモリ付着しています。なおお湯の配管は途中で分岐していますので、バルブを開けば洗い場でもアツアツの温泉が汲めます。

無色澄明で、甘塩味に弱い石膏味と芒硝味が感じられ、ふんわり芒硝臭と石膏臭が香ります。加水加温循環消毒が一切ない完全掛け流しで、非加水のためにちょっと熱めの湯加減であり、湯船に入りしなは脛にピリッとした刺激が走りますが、徐々に体を熱さに慣らしてゆけば非加水でも入れ、鮮度感も良いため、慣れればむしろその熱さが気持ちよく感じるほどです。湯中ではスルスルスベスベの中に硫酸塩らしいキシキシが拮抗して肌に伝わってきました。

古風で渋い佇まいながら、昔ながらの美意識が守られている素敵なお宿。且つシンプルながらも品の良いお風呂で、シャキッと冴える良いお湯と出会うことができました。


上山地区1号源泉・上山地区2号源泉・上山地区3号源泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 64.3℃ pH7.9 蒸発残留物2598mg/kg 溶存物質2529mg/kg
Na+:523.1mg, Ca++:329.1mg,
Cl-:809.8mg, Br-:2.2mg, SO4--:755.1mg,
H2SiO3:58.9mg,
(平成22年3月19日)
加水加温循環消毒なし

JR奥羽本線(山形新幹線)・かみのやま温泉駅より徒歩15分(1.2km)
山形県上山市湯町4-1  地図
023-672-0102

日帰り入浴時間10:00~20:00
400円
石鹸・シャンプーあり、ロッカーやドライヤーは見当たらず

私の好み:★★★
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上山温泉 ホテル山内

2014年12月23日 | 山形県

上山温泉の湯町地区では、鶴の休石や足湯を中心にして、狭い範囲に中小規模の温泉旅館が肩を寄せ合ように営業していますが、今回はその中の1軒である「ホテル山内」にて日帰り入浴してまいりました。昭和後期の匂いが残るALC造と思しきこのお宿は、名前こそホテルですが、どちらかといえば民宿に近い中小規模の旅館です。近隣の同規模旅館は木造の和風建築ですから、現代的な造りであることを活かし、敢えてホテルと名乗って差別化を図っているのかもしれませんね(あくまで私の邪推ですけど)。


 
玄関にさげられた歓迎札の左隅に「外来入浴500円」と書かれているのを確認した上、フロントで声を掛けて入浴をお願いしますと、宿の方は「500円ですが宜しいですか」と聊か不安げな面持ちで念を押してきました。同じ町内の湯町共同浴場でしたら150円で入浴できますから、350円の価格差を配慮してくださっているのか、はたまた日帰り入浴客の存在自体が稀有なのか。鈍感な私にお宿の方の気持ちを推し量ることはできなかったのですが、私としては何ら問題ありませんので「はい、よろしくお願いします」と答えたところ、ようやく表情を和らげてお風呂へと案内してくださいました。


 
浴室はロビーの奥、フロント前にあり、男女別の内湯が一室ずつです。脱衣室はシンプルながら、ウッディな内装からはぬくもりが伝わってきます。お宿の方は、脱衣室にあるタオルを使っても構わないと仰って下さいましたので、遠慮無く一枚使わせていただきました。


 
芒硝臭と石膏臭が混ざりながらふんわりに香る浴室は、壁はレンガ色で、床はワインレッドと、暖色系のタイルでまとめられています。洗い場にはカランが3基並んでおり、うちシャワー付きは2基。シャンプー類も備え付けられています。この日の清掃が済んでからの湯浴み客がまだいなかったのか、訪問時は腰掛けや桶がきちんと整頓されていました。



暖色系の浴室の中で、スカイブルーの浴槽はとても目に鮮やかであり、お湯の透明度を際立たせていました。容量としては4~5人サイズ。縁からはお湯が静々とオーバーフローしています。もちろん湯使いは放流式です。湯面は室内の光を青白く反射し、槽内の黒い目地は湯面が揺れる度に虹色の輝きを放っていました。後述するように、湯口まわりは真っ白な析出がコンモリ付着しているのですが、浴槽は付着する隙が無いほど、丁寧かつこまめに清掃されているのでしょう、黒い縁がうっすら白く覆われている程度で、これといったこびりつきは見られず、隅々まで綺麗に保たれています。


 
こちらのお風呂のシンボルである石膏の裸婦像。その足元からは直に触れないほど熱いお湯が浴槽へ落とされていました。その周りには真っ白な析出がビッシリこびりついており、温泉が創り出す造形美を目にした私は、思わずニンマリしてしまいました。ニンマリ…。誤解なきよう、ここで断言します。私は決して裸婦像の硬直した乳首を見て興奮したわけではない。心が吸い込まれそうなほど清らかに白い硫酸塩の析出にしか興味が無かったと!

そんなくだらないことはともかく、お湯は無色澄明で、芒硝味と石膏味の他、甘塩味が感じられます。事前に仕入れた情報によれば、こちらのお湯は加水されているとのことでしたが、実際には上述のように触れないほどの熱さがあり、その代わりお湯の投入量が絞り気味でしたので、私の訪問時は加水せずに(されていたとしてもごく少量)、投入量で湯加減を調整していたものと思われます。この加減が実に絶妙でして、湯船は42~3℃というとても入りやすく気持ち良い湯加減がキープされていました。湯船に浸かると、ツルスベとキシキシがせめぎあいながらも、トロミが仲介して程良く角が取れてまろやかになり、却って軽やかさすら覚えるほど、お湯が優しくマイルドに肌に乗ってきました。投入量こそ絞り気味ですが、タイミングが良かったのか鮮度感が素晴らしく、絶妙な湯加減の影響もあり、一度入ると出られなくなる、後を引く心地よい浴感が楽しめました。
シンプルなお風呂であるがゆえに、上山温泉のお湯の良さが引き立っている、クオリティの高いお風呂でした。


上山地区1号源泉・上山地区2号源泉・上山地区3号源泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 64.3℃ pH7.9 蒸発残留物2598mg/kg 溶存物質2529mg/kg
Na+:523.1mg, Ca++:329.1mg,
Cl-:809.8mg, Br-:2.2mg, SO4--:755.1mg,
H2SiO3:58.9mg,
(平成22年3月19日)

上山地区3号源泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 66.8℃ pH7.8 502L/min(掘削動力揚湯) 溶存物質2600mg/kg 成分総計2615mg/kg
Na+:523.3(57.78mg), Ca++:323.4mg(40.97mval%),
Cl-:822.9mg(56.89mval%), Br-:2.3mg, I-:0.2mg, SO4--:815.5mg(41.62mval%),
H2SiO3:61.0mg,
(平成21年10月17日)

JR奥羽本線(山形新幹線)・かみのやま温泉駅より徒歩15分(1.2km)
山形県上山市湯町4-10  地図
023-672-0111

日帰り入浴10:00~16:00
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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蔵王温泉 堀久旅館

2014年12月22日 | 山形県
 
前回にひき続いて蔵王温泉で「湯めぐりこけし」を手にしながら、お宿のお風呂を巡ってまいります。今度は下湯共同浴場のすぐ裏手にある「堀久旅館」へおじゃましました。こちらは蛇荒川折口源泉という一風変わった名前の源泉を引いています。玄関にて入浴をお願いしますと、快く対応してくださいました。



玄関を上がって左手へ進み、暖簾を潜った突き当たりが浴室です。お風呂は男女別の内湯が一室ずつ。



浴室は小さな川に面していますが、周囲には他のお宿や民家などが密集していますから、窓には曇りガラスが嵌めこまれています。それでも窓の天地寸法が大きく確保されているためか、私が訪れた日中でしたら、照明を点けなくとも入浴に十分な明るさが保たれていました。


 
洗い場んはシャワー付きのカランがL字型に配置されています。黒く硫化した水栓は、イオウの温泉である証。お宿の方にとってはメンテナンスに頭を悩ませるところでしょうけど、私のような温泉好きにとっては名誉の負傷に思えてしまいます。(ホント、私のような客って無責任ですね…)



なおシャワーのお湯は真湯ですが、その熱源には温泉を利用しているとのこと。お湯のストックの関係上、出しっぱなしはダメ。



外側からちょこんと突き出て、湯船に浸かるお客さんとは反対の方へ、そっぽを向いている塩ビの湯口。その姿勢は奥ゆかしいと言うべきか、恥ずかしがり屋なのか、はたまた壁の向こう側にある女湯にしか関心が無いのか…。そんな口の向きに呼応しているのか、お湯の投入量も控えめです。源泉温度が熱いので、加水しないで湯温調整するよう、絞っているのでしょう。



台形をちょっと潰したような形状をしている総木造の浴槽は、おおよそ6~7人は入れそうな容量があり、槽内の木材は使い込まれて良い味を醸し出しています。私の訪問時は、しばらく先客がいなかったのか、お湯が透明で澄み切っており、底に純白の湯の華が大量に沈殿しているのが見て取れました。さてこの状態から私が湯船に入りますと…


 
お湯が撹拌されて、このように濃淡のグラデーションを描きながら…



最終的には透明度がほとんど無くなるほど、エメラルドグリーンを帯びた乳白色に強く濁りました。
明礬臭が漂うお湯からは収斂酸味と塩味が感じられます。前回取り上げた「堺屋旅館」のお湯では柑橘系のフルーティーな酸味が口の中に広がったのですが、こちらのお湯は塩味が効いているためか、梅干しのような味わいであり、そうでありながら、総じて他源泉より幾分角が取れてマイルドであるように思われました。入浴中は強い酸性のお湯らしいヌルヌルを伴うツルスベ浴感が肌をなめらかにしてくれますが、湯上がりにはややベタつきも残ります。ちょっと熱めの湯加減でしたが、加水無しでも問題なくスムーズに入ることができ、お湯の鮮度の良さも相俟って、とても気持ち良い湯浴みが楽しめました。


蛇荒川折口源泉
酸性・含硫黄-硫酸塩・塩化物温泉 56.6℃ pH1.76 自然湧出 溶存物質2079mg/kg 成分総計2555mg/kg
H+:17.5mg(54.11mval%), Na+:42.2mg, Mg++:59.0mg(15.12mval%), Ca++:53.4mg, Al+++:42.9mg(14.87mval%), Fe++:6.5mg,
F-:8.7mg, Cl-:241.7mg(22.66mval%), HSO4-:497.4mg(17.01mval%), SO4--:849.8mg(58.77mval%),
H2SiO3:219.5mg, H2SO4:21.8mg, CO2:464.9mg, H2S:10.6mg,

山形駅より山交バスの蔵王温泉行で終点(蔵王温泉バスターミナル)下車、徒歩3分(250m)
山形県山形市蔵王温泉29  地図
023-694-9226
ホームページ

日帰り入浴受付時間不明
300円
湯めぐりこけし利用可能
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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蔵王温泉 堺屋旅館

2014年12月21日 | 山形県
前回取り上げたリニューアル後の川原湯共同浴場の素晴らしいお湯で気分が高揚した私は、その気勢のまま「湯めぐりこけし」を入手して、蔵王のお宿のお風呂を巡ることにしました。といっても何だかんだで蔵王へは幾度も足を運んでおり、入湯済のお宿も多いので、今回は未だ訪れたことのないお宿を優先して訪うことにしました。まず向かったのは「堺屋旅館」です。
こちらのお宿は、温泉ファンの間では旧館の「源泉風呂」が評判でしたが、2012年に発生した漏電火災により旧館が焼失してしまい、現在では火の手を免れた鉄筋コンクリ造の新館のみで営業を続けています。蔵王温泉ではその2年前(2010年)にも「かわらや旅館」が烏有に帰しており(その後見事に復活)、もっと遡れば1983年の蔵王観光ホテル火災では近隣の旅館が類焼した他、一酸化炭素中毒による犠牲者も出ています。蔵王の温泉街は古い木造建築が密集していますし、硫黄で建材が腐食しやすいため、漏電等も発生しやすいのでしょうね。2014年秋の報道では蔵王山の火山活動が話題になっていますが、私個人としては火災対策も是非万全を期していただきたいと願っています。


 
蔵王体育館の斜め前にある玄関からお邪魔して、湯めぐりこけしを提示しながら入浴をお願いしますと、女将さんが丁寧に対応してくださいました。


 
ロビー前の階段を下りて浴室へ。火災後の営業再開に際しては、館内改修が行われたらしく、廊下は古い構造と新しい内装材が混在していました。



脱衣室も非常に綺麗で、隅々まで実によく清掃が行き届いており、気持ちよく使うことができました。なお洗面台は3台並んでおり、籠は24個用意されています。また扇風機も設置されていますから、湯上がりのクールダウン対策も問題ありません。


 
脱衣室から浴室へ入った瞬間、タマゴ臭が混じった明礬臭がプンと鼻孔を突いてきました。浴槽側の大きな窓から採光がたっぷり得られる浴室は、内湯にありがちな閉塞感を払拭するに十分な明るさが満ちています。なお窓は曇りガラスであるため、景色は期待できません。浴室内もきっちり手入れされており、訪問時には腰掛けや桶が各カランの前できちんとセッティングされていました。


 
出入口を挟んで二手に分かれた洗い場には、計7基のシャワー付きカランが設置されており、シャンプー類も備え付られています。カランのお湯は真湯です(もしカランに源泉なんて使ったら、水栓がすぐに壊れちゃいますし、石鹸やシャンプーだって全然泡立ちません)。



浴槽は縦長のL字型で、奥行き(長辺)は約6m、奥側の幅は約5m、手前側の幅は約2m弱といったところ。少なくとも15人以上は余裕で同時入浴できそうな容量があります。槽内はタイル張りですが、縁には木が用いられ、湯船に張られた白濁のお湯とともに、温泉らしい風情を醸し出していました。そしてその縁からお湯がしっかり溢れ出ていました。


 
岩の上っ面を円形にグリグリと刳り抜いたような形状の湯口は、イオウによって黄色く染まっており、お湯の吐出口まわりには湯の華が溜まっていました。湯船では外光の影響か、明るいグレーに濁っており、底がわずかに見える程度の濁り方を呈しています。

湯口のお湯を口に含んでみますと、蔵王らしい収斂酸味が感じられるのですが、あくまでこの時の私個人の感覚として、蔵王の他源泉よりフルーティであり、まるで柑橘類の果汁のような味わいが強いように思われました。とはいえ強い酸性であることには変わりなく、フルーティっぽさで私を油断させたお湯は即座にアグレッシブさを発揮し、テイスティングした口の中はアルミホイールを齧った時のような不快感が走りました。その一方、酸性泉らしいニュルスベ浴感が実に気持ちよく、また加水の有無は不明ですが湯船では41~2℃という実に入りやすい湯加減となっていましたので、その心地良さのため、私は入浴中についつい微睡んでしまいました。
強さと優しさを兼ね備えている、武士道精神のようなお湯と、私のような日帰り入浴にも丁寧に接客してくださる女将さんに、自然と心がほだされる、素敵なお宿でした。


堺屋1号・2号・3号源泉
酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉 49.8℃ pH1.7 溶存物質3116mg/kg 成分総計3587mg/kg
H+:20.1mg(42.81mval%), Na+:47.8mg(4.47mval%), Mg++:59.7mg(10.54mval%), Ca++:91.2mg(9.77mval%), Al+++:123.7mg(29.52mavl%), Fe++:14.4mg,
F-:15.7mg, Cl-:354.7mg(21.58mval%), HSO4-:838.1mg(19.10mval%), SO4--:1247mg(57.47mval%),
H2SiO3:223.1mg, H2SO4:42.2mg, CO2:460.3mg, H2S:10.8mg,

山形駅より山交バスの蔵王温泉行で終点(蔵王温泉バスターミナル)下車、徒歩4~5分(400m)
山形県山形市蔵王温泉上の台64  地図
023-694-9322
ホームページ

日帰り入浴時間不明
湯めぐりこけし利用可能
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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蔵王温泉 川原湯共同浴場 2014年9月

2014年12月20日 | 山形県
 
私が温泉巡りを趣味にするきっかけとなった浴場のひとつである、蔵王温泉の川原湯共同浴場。
まだタイル張りのお風呂しか知らなかったかつての私は、浴槽の底がスノコ状になっていて、その直下から温泉が湧出しているという状況に驚き、温泉地の共同浴場ってこんなにスゴイものなのかと興奮したものです。あれから幾年が経ったことでしょう、その間にも川原湯には何度か通い、共同浴場ならではの素朴な風情と、足元湧出ならではのお湯の素晴らしさに、その都度酔いしれてきました。

その川原湯共同浴場は、温泉ファンの方でしたらみなさんご存知の通り、ちょうど2年前の2012年11月に全面改築されましたが、なぜかその後は蔵王に赴く機会が無く、先日(と言っても3ヶ月も前ですが)になってようやくその機会を得ることができたので、ネット上では更新後の姿を目にしているものの、実際にはどのように変貌したのか、自分の五感で確かめることにしました。

てっきり拙ブログでは複数回登場しているかとおもいきや、今回の記事を書き綴るに当たって過去の記事を調べたところ、なんと迂闊にも未掲載であることが判明。以前の記事を引っ張り出して、新旧の比較をすることができないので、ここでは2009年3月に私が撮った画像を載せて、比較することにします。
まず外観ですが、旧浴場はハの字の屋根を戴いていたのに対し、新浴場は正面側の屋根が一直線になっており、男女別の入口を守る破風の形状にかつての面影を残しています。左側が男湯で右側が女湯である点は従前通り。



蔵王の他の共同浴場と同様に更新後も無人であり、男女両浴室の入口の間に括りつけられた料金入れにセルフで湯銭を納めます。


 
リニューアル後の湯屋は、奥の方へ向かって屋根が放物線状の曲線を描いており、こうした構造を採用することによって、屋根の雪をできるだけ入口側へ落ちないようにしているのでしょう。なお屋根の雪がストンと落ちる湯屋裏手は、以前同様に余り湯の湯溜まりとなっていますから、これなら雪が勝手に融けてくれますね。実に合理的です。


  
従前同様に総木造の湯屋に入ると、リニューアル後の脱衣室も、木板で荷棚の枠を作っただけの至ってシンプルな造りであり、昔ながらの質素な佇まいにホッとしました。一見すると棚の数が少ないように思えるのですが、そもそも浴場のキャパは小さくて利用できる入浴者数は限られていますし、棚のひとつひとつは大きく確保されていますから、寧ろこのくらいで丁度良いんですね。
以前と変わったところといえば、上画像の押しボタンが新設されたこと。この浴場は夜10時で電子錠によって自動的に施錠され、その30分後には消灯されてしまうのですが、もし施錠後も館内にお客さんが残っていた場合は、消灯までの30分間にこのボタンを押せば、ドアが解錠されて退館できるわけです。なお夜10半の消灯と同時に電子錠の電源も落ちちゃうそうですよ。閉館時間間際の利用では、閉じ込められないように注意しないといけませんね。


 
リニューアル後の浴室も従前の浴場のスタイルを踏襲したオール木造となっており、まだ建てられて2年しか経っていませんから、白木の美しさがしっかり映えていました。新旧両浴室を比較しますと、窓の配置など細かな部分で差異が見受けられますが、ひと目でわかる変更点としては、女湯と仕切り壁が挙げられるでしょう。以前は曇りガラス(というか白いアクリル板)が嵌められていましたが、現在はそのような小細工は廃され、他の部分と同様の板壁に統一されています。



浴室と脱衣室との仕切りには、ガラス窓の天地寸法がしっかり確保された引き戸が採用されています。以前も透視性の良い引き戸で両室が仕切られていたように記憶しているのですが、当然ながら更新後は引き戸の滑りが改善されました。脱衣室にはロッカーが無いのですが、この引き戸の透視性によって、防犯効果が期待できそうです。


 
床そばの低い側壁には、細長いルーバーが設けられています。もちろんこれは硫化水素中毒を防ぐための通風口(換気口)ですね。床にはもう一箇所、外気が入るこんでくる明るい穴があるのですが、これはお湯を湯屋外の湯溜まりへ捨てる排水口であり、後述する浴槽から溢れ出たお湯は、床の一部を白く染めた後、その穴から惜しげも無く流下していました。


 
川原湯の象徴であるスノコ状の浴槽は、新しい浴場でもキッチリと残してくれていました。これが無くちゃ川原湯じゃありませんよね。一応2009年3月時点のリニューアル前の画像も一緒に並べておきますが、以前の画像ではお湯が白濁しており、槽内の様子がわからなくてゴメンナサイ。
浴槽の大きさはおおよそ4人サイズ。川原湯のお湯はコンディションによって透明だったり強く白濁したりと、猫の目のようにその姿を変貌させるのですが、先日訪問時にはスノコの下まではっきりと目視できるほどの透明度があり、底には大量の湯の華が沈殿していました。


 
上述のように女湯との仕切り塀は単なる板塀になってしまいましたが、槽内では以前と同様に格子で区切られており、こちら側から向こうの様子が見て取れます。これまでの本文中では、浴槽の造りに関して、底面の様子から「スノコ状」と述べてまいりましたが、実際にはお湯が自然湧出する池のような場所の上に格子でできた浴槽を載せているような感じなので、スノコというより格子風呂と称した方が相応しいかもしれません。

いかにも蔵王のお湯らしく、明礬臭と硫化水素臭が漂うお湯を口にすると、強い酸味によってたちまち口腔が収斂します。温度調整のために塩ビ管から常時加水されているものの、湯加減は若干熱い44℃ほど。その熱さとお湯の力強さのために長湯はできず、短時間で湯船に出たり入ったりを繰り返しました。この時は混雑していなかったためか、鮮度感も素晴らしく、まだ新しさの残る白木の格子風呂で、パワフル且つ濃厚な川原湯のお湯を味わうことができました。やっぱり川原湯は最高ですね。


川原湯共同浴場源泉
酸性・含鉄・硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉(硫化水素型) 48.1℃ pH1.45 蒸発残留物3720mg/kg 
H+:36.1mg, Na+:75.6mg, Mg++:77.6mg, Ca++:114.4mg, Al+++:298.4mg, Fe++:89.5mg,
F-:23.9mg, Cl-:783.3mg, Br-:4.1mg, I-:0.5mg, HSO4-:2661mg, SO4--:1975mg,
H2SiO3:146.7mg, CO2:387.0mg, H2S:18.4mg,
加水あり(源泉温度が高いため)
(昭和63年10月21日)

山形駅より山交バスの蔵王温泉行で終点(蔵王温泉バスターミナル)下車、徒歩4~5分(約350m)
山形県山形市蔵王温泉43-3  地図

6:00~22:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (6)
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