『ル・ガルー2』読了しました。
この前作の『ル・ガルー』を読んだのはかなり昔です。
新聞に広告も載らず、店頭で見かけたので買ってみました。
人気作家の最新作の割には売り出しにあまりお金をかけて
いない感じです。
といっても、私自身前作の記憶もたいしてなく、あまり
いい印象もない感じでした。
ただ、丁度本に飢えていた時期で本屋に寄ったので、ついでに
買ったというのが真相です。
しかし、この本は私とって大きな収穫です。
それを説明するには、まず先日みたNHKの旅の力という
テレビ番組の話をしなくてはなりません。
要潤という俳優だかタレントがレポーターで旅で出会った
人々と暮らしをレポートするというドキュメントものです。
この番組の印象は、レポーターが今も原始さながらの生活を
するブッシュマンと一緒に狩りを体験するというナミビアの
話なのですが、その要潤が端正な顔立ちとは裏腹にそのブッシュマン
の文化とか生活を完全に見下して、いやなものを見ているという感じが
表情に出ていて大変後味の悪いものしか残しませんでした。
そして、この本を読んだときにすべての謎が解けるように
要潤が見下していた彼らの生活にすべてがあることが理解
されました。
ナミビアのブッシュマンは自分の正確な年齢も知りません。
そもそも暦とか明日狩りで獲物が取れなかったらどうしようとか
いつがお祭りでそのお供えに何かを用意しなくてはならないとか
そういった予定というものがないのです。
そういう生活の根本には何も触れず、原始生活を今後も続けたいと
いう彼らの伝統を守る精神を紹介したという内容にとどまって
いますが、これは実に重要なことを我々に教えていることを
その時には気が付きませんでした。
ただ、現代的生活から飛行機でやってきてひと時を一緒に
過ごして彼らの生活の素晴らしさを体験したにもかかわらず、
現代文明に生きるイケメンの俳優とその表情が原始生活の
彼らのスタイルに文明的優越感を持つことを印象付けただけ
というのは番組の意図として成功しているのかどうかより
差別意識に嫌悪感だけは強く持ちました。
ところがその差別意識が何に去来したのか。果たして、
文明に差があるのかとか諸々の謎がこの本の言葉で氷解した
のでした。
それは明日を持たないものに過去もないという言葉です。
この京極という作家は、いつも古い過去に題材を求め戦前の
昭和や大正の時代の古い探偵小説を得意として京極堂シリーズ
を展開しています。
この本は、描いているのは未来で活躍するのは少女たちと
いう劇画スタイルの未来小説の形をとっているものの中身は
京極堂シリーズのような旧日本軍が毒ガスを開発していたと
いうようなネタから発展しているのです。
探偵役には退職した刑事と装いは新ノヴェルといいつつ実は
昭和スタイルの話をSF調にやってみたということで彼の本来の
ファンも楽しめるものになっています。
私は、そういう本来のこの小説の持つ魅力以上にこの時を扱う
抜群なセンスに教化され、新たな文明考察をするに至ったのです。
この本に言う明日を持たず過去も持たないとは正にブッシュマン
の生活であり、それが現実に成り立つということです。
ご存知のように人類の進化で現在のホモサピエンスの起源が
アフリカにあり、アフリカのホモサピエンスが世界に拡散した
という歴史はNHKの他の番組でも取り上げられています。
アフリカを旅立った祖先は農業を覚え、暦を必要とし、絵で記録
することも開発し、文字や数字も作り出します。
そして、物々交換から貨幣という将来にわたって交換を担保する
時間を超越しようとする努力もします。
それらの結果世界中に拡散した人類はさらにその数を増やして
繁栄を築いたわけですが、明日の心配もいらない彼らより何を
多く知っているというのでしょう。
彼らの生活が真実であり、神さえ持たず、の長さえいない
彼らの平和な生活に何のケチをつける権利があるのかということ
です。
アマゾンの奥地にいる同じように原始の生活をする部族もいますが、
彼らともブッシュマンは決定的な差があるのです。
それは明日を心配することがないということです。
それを続けて何万年も同じようにサバンナで狩猟生活だけで
暮らせるのです。
年金も生活保護も神も持たず、信仰も祈りもないのです。
明日の心配をした人はその昔、アフリカを旅立ちより獲物が
とれる地を探したのでしょう。
それは増え続ける自分たちの仲間を食わせるための決断かも
しれません。
それとも冒険心か知恵という少し変化した意識を持った新種
の行動か、とにかく楽園を出たものが神を創造し、同じ種で
争い拡散を続け今に至るのです。
その結果、科学の進歩やらあらゆる学問を発明し宇宙の成り立ち
やらエネルギーやらあらゆるものを考え発見してきたとしても、
実際には何も解決もしてないし、争いや貧困を抱えつつ拡散を
続けているのです。
それは始めた以上続けないといけないものであり、今更明日を
無視することも原始生活に戻ることもできないのです。
そしてまた文明など何の意味があるのかと解ってしまっても
それでどうにかできないということが解っただけで要潤の
態度に腹が立つだけです。