他人の記事の受け売りが続きますが、先のH社OBの彼から配信されてきた、「情報工場から」の記事で興味がある内容ですので
ここにご紹介させていただきました。
チリといえば、2010年8月5日、コピアポ鉱山落盤事故が発生し、事故発生当時坑内で作業していた33名の労働者は、
17日後に生存が確認され、10月13日に全員の救出が行なわれたことで、私たちにも身近な存在になりました。
人口は、1750万人で、人口ピラミッドも高年齢層が先鋭になっているまだまだ若い国であるといえるでしょう。
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The Economist 2012/10-13 & 19号 p76-78
チリコンバレーの魅力
(The lure of Chilecon Valley)
【要旨】アメリカではビザを取得できないという理由で優秀な起業家が追い出されているが、チリは彼らを迎え入れている。
チリ政府はStart-Up Chileというプログラムを開始し、有望な駆け出し企業に資金とビザを与えており、
2010年以来、37ヵ国から 500の企業、 900人の起業家が参加している。外国人起業家を招き、地元の新興企業に刺激を与える
という目的は、チリ人にたくさんのインスピレーションを与え成果を生んでいるようだ。
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彼らはひとりずつステージに進んで、自分のアイデアを聴衆に向かって発表した。
大家が所有する土地からさらに収益を得られるようにするソフトを開発する企業の代表、シェフを探している人と
自分のスキルを売り込みたい料理人をマッチングするオンラインサービスの共同創設者、企業が携帯電話やタブレット型
コンピュータ経由で労働者に短いトレーニングビデオを送信するアプリを開発するクリエーター。その他の新興企業も
聴衆の中の起業家やベンチャーキャピタリストから熱烈な拍手を獲得した。
Silicon Valleyに拠点を置いているのならば非常に身近な話だ。 しかし、これはイノベーションよりも銅鉱山や
安いワインで知られるチリで開催されたものだ。
多くの国がSilicon Valleyの自国版を作ろうとしたが、ほぼすべて失敗している。
しかしチリの試みは、本家Silicon Valleyの弱点、つまりアメリカのひどい移民制度を利用している点が非常に興味深い。
自由市場の国が起業家を捨てた時、チリは彼らを歓迎している。
“Start-Up Chile”は、チリの実業家で政府の臨時職員だった Nicolas Shea氏の発案によるもので、
有望な駆け出し企業を選択しその創設者に40,000ドル相当の資金と1年間のビザを与え、チリに迎えて彼らのアイデアを実現させるものだ。
2010年以来、37ヵ国から 500の企業、 900人の起業家が参加した。Start-Up Chileは、チリ人にも利潤を落としている。
Shea氏はハイテクベンチャーの源泉であるStanford大学で学んでいた時の経験にひらめきを得た。「ビザを取得できないという理由で優秀な人がアメリカを追い出されているのを見て、
彼らをチリに連れてきてはどうだろうと思った」と彼は語る。
ブラジル、メキシコなどと同様、チリは南米大陸における起業のハブとしての地位を確立したいと考えている。
地元の新興企業をバックアップするための政府資金によるシード・キャピタル・プログラムを立ち上げ、迅速に新会社を設立できるようにした。
Start-Up Chileによってチリに来る外国人起業家も増加しており、チリ政府は彼らが地元の新興企業の刺激となることを願っている。
このプログラムは外国人から圧倒的な支持を得ている。彼らは資金がなくてもチリの納税者のペソで、ビジネスを構築することができるのだ。
Start-Up Chileは 4,000万ドルをかけて、来年末までに 1,000社の駆け出し企業をバックアップすることを目指している。
すでに、オンラインでクルーズを予約するサービスCruiseWiseなど、いくつかの成功事例が生まれている。
しかし成功はチリ政府によって設定された2つの尺度で判断されるべきである。1つ目は、起業のハブとして、
海外でチリの存在感を増すことができたかどうか、
2つ目はチリ人に対し、ビジネスを開始するためのインスピレーションを与えたかどうか、ということである。
1つ目の尺度で判断すればプログラムは間違いなく成功している。現在のエグゼクティブ・ディレクターHoracio Melo氏と
彼の同僚は世界中を駆け巡り、起業家に「チリコンバレー」に来ることを奨励しているため、起業の拠
点としての
チリという認識は必然的に広まってきた。最近の助成金の募集では約60ヵ国から応募があった。
チリの実験はこのような取組みに対する他の国での関心を刺激している。例えばブラジルは、外国の人材を誘致するため、
同様のプログラムを今年後半に開始する予定だ。Shea氏のアイデアにゴーサインを出した前経済大臣のJuan Andres Fontaine氏は、
「Start-Up Chileの広報部は私達が想定していたよりもはるかに成功している」と述べている。
このプログラムによるチリの起業家への影響を測ることは難しいが、プラスの効果はあったように見える。
外国人は受け取る資金と引き換えに、地元の起業家をコーチングしたり、イベントで話したりすることでノウハウを共有することが
期待されている。2010年から2012年9月の間で、Start-Up Chileの参加者は約 380の会合を開催し、 1,000人以上がワークショップや会議に参加した。
現在の経済大臣 Pablo Longueira氏は、過去数年で政府が運営する他のシード・キャピタル・ファンドに応募する
チリの企業数が大幅に増加したことや、起業に関することを学生に教える大学数の増加など、Start-Up Chileが大きな変化を
もたらすのに寄与したと思っている。新聞でも、起業家や彼らの仕事に、以前よりも多くのスペースが割かれるようになった。
Start-Up Chileが地元に投資を始めてから、革新的なアイデアをビジネス化しようとするたくさんの企業にインスピレーションを与えてきた。
最新の募集では約40%がチリの企業からの応募であった。Start-Up Chileによって支えられてきたチリ人は、
外国の同僚と付き合うことで恩恵を受けていると言う。販売員がより多くの情報をすぐに利用できるようにすることで、
小売業者の収益を引き上げるソフトの開発を行うチリの新興企業、 Motion Displays代表の Nicolas Martelanz氏は、
「弊社の Web開発のすべては一人のブラジル人がプログラムを組んでいる」と言う。他のチリ人達もStart-Up Chileには感謝している。
しかしながら、すべてのものがチリの価値観に合うわけではない。地元の起業家も、Start-Upを利用した後もチリに留まる
ことを考える外国人も、厳しい課題に直面する。資金面やアドバイスで駆け出しの企業を支援する民間
の
ベンチャーキャピタリストが不足している。チリの大学が起業家を輩出するスピードは、アメリカの大学よりもかなり遅い。
野心的な多くの起業家は、いつかチリコンバレーを卒業しSilicon Valleyへ行くことを目指している。
活気のある起業文化の創造に対する、もう一つの障壁はチリの厳しい破産制度である。
それは起業に失敗した後の再スタートを困難にしている。また、チリ経済は少数の巨大なビジネス帝国と
非常に保守的な官僚によって支配されている。皮肉なことに、これはStart-Up Chileの父であるShea氏が、最近立ち上げた
インターネット上の小口融資事業の脅威ともなっている。
物事が良い方向に変わる兆候もある。例えば、破産制度を劇的に改善する法案が立法手続中だ。 Longueira氏はこの法案が年末までに通過すると楽観視している。しかし、大規模な国内市場を誇り、より発展した
ベンチャーキャピタルを持つブラジルと競うことは、チリにはまだ難しいだろう。
ブラジルは、チリよりも官僚主義かもしれないが、その経済はもっと起業家寄りで10倍の大きさがある。
Start-Up Chileやその他の起業家を支援する取り組みを監督する政府機関、 CORFOの代表 Hernan Cheyre氏は、
大きさからしてブラジルは必然的に南米大陸の中国として見られるだろうが、チリは外国の人材を歓迎し、安定的で
よく整備されたビジネス環境をアジア全域に提供することによって栄えてきたシンガポールのようになることができると主張している。
シンガポールは長い実績を持っているが、Start-Up Chileはまだ2年目だ。さらに、Start-Up Chileと協調してきた
中道右派の現政権は来年の選挙で政権交代となる可能性がある。新しい政府がStart-Up Chileを終了させる可能性もある。
しかし、あるチリのベンチャーキャピタル企業の関係者は、「どちらの党が勝ってもStart-Up Chileが存続することを希望する」という。
また「チリ人はStanfordや他の主要大学の優秀な卒業生にどんなことができるのかを見てきた。だから自分達にもできる」
と言っている。Start-Up Chileが、野心的に考えるよう地元の人々を刺激したのなら、その成果は決して小さくないだろう。
コメント: 各国でベンチャーの必要性が認識され、育成の施策やファンドが展開されているが、その支援者や投資家
「自身」が真の起業家マインドを持っている事が成功のカギであろう。日本でもグロービスの堀義人氏や、
昨今ベンチャー支援で注目されているサムライインキュベートの榊原健太郎氏などの一層の活躍に期待したい。
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音楽は、アンデスから~ (チリかペルー?)