蓼科浪漫倶楽部

八ヶ岳の麓に広がる蓼科高原に、熱き思いあふれる浪漫知素人たちが集い、畑を耕し、自然と遊び、人生を謳歌する物語です。

舟を編む  (bon)

2016-02-27 | 日々雑感、散策、旅行

 4年前の本屋大賞第1位受賞のベストセラーで、翌13年に映画化されていますから、大方の方々は、既に
ご存知のことと思いますが、先の東期会新年会の時に、Sさんから手渡された文庫本です。

「船を編む」(三浦しをん、2015.3.20初版、光文社文庫)は、新しい辞書『大渡海』を編纂する、
15年に亘る歳月をかけた“ことば”との戦いにおける苦労話と、辞書編集部の主人公始め部内社員や関連する
人々のユニークな個性の絡み合い、が織りなす特殊な世界も、自らも経験したビジネス とくに重要な
大プロジェクトを前にして一喜一憂したそれぞれの場面が再現されているようにも感じたりして、大変面白く
一気に読んでしまいました。

        文庫本「舟を編む」
          (光文社HPより)
 

 辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいく」 という意味でこの書名が付いている
といっています。  そして、完成した辞書は『大渡海』という名がつけられています。
何万語という見出し語をどのように選定するか、またそれぞれの語の意味をどのように説明するかなどから
始まって、それ(辞書)を必要とする人、利用する人のそれぞれの立場をどのように設定するか・・など、
これまで、そのようなことは考えてもみなかったことなので、大変新鮮な感じであるとともに、なるほど
そう言うものなのだと気づかされたのでした。

 たとえば、文中に出て来る中から、【西行】という見出し語の原稿として、「平安末・鎌倉初期の歌人、僧。
法名は円位、俗名は佐藤義清」は、 何だかぶっきらぼうな感じがするし、あまりグッとこない。
「北面の武士として鳥羽上皇に仕えるも。23歳で出家。以降、諸国を旅し、自然と心情を詠んで独自の歌風を
築いた。『新古今和歌集』には94首と最多歌数を採録。歌集に『山家集』など。河内の弘川寺で没。」
ここまであればいうことなし。 しかし、【西行】には、人名の他の意味があるという。「不死身」
「遍歴する人、流れ者」などの意味があるとの理由などの説明が記されている。 
また、【愛】という項目について、話題にするところがあります。語釈に①かけがえのないものとして、
対象を大切にいつくしむ気持ち。「愛妻、愛人、愛猫」と説明している辞書があるが、これには問題がある・・
といっているのです。愛妻と愛人を併記しているのと、かけがえのないもの という点が矛盾している。
つまり愛妻と愛人のどちらが大切かとか、猫と同列にしている。 また、もし、ここに「異性を慕う気持ち」
などとあったら、これも「異性」だけではないから むしろ辞書としては問題である。 
そんな風なことも論じられていて面白い。

            大渡海
             (ネット画像から)

 

 辞書を完成させるには、これらの見出し語の選定、意味・内容記述、編集、校正などの流れの他に、
用紙開発、抄紙機の調整、印刷、製本、デザインなどなど一連の仕事がうまく調和しながら進められなくては
ならない。非常に広い範囲の、また深い技術的要素も関連していることが理解できます。もちろん、目的とする
辞書の大きさ、ページ数、価格など全体企画があることは言うまでもありません。

 「大渡海」専用の薄い、軽い、裏写りのない“究極”の用紙開発が述べられていて、これらの要素の他に
“ぬめり感”が大事だと言っている。ページをめくる時、指に吸い付くようで、しかも1ページずつしか
めくれない、そんな感じが必要だと。  以前、私が製紙工場を見学させてもらった時、一連の工程の最後に、
広い部屋に積まれた“用紙”を1枚ずつ人手で検査しているところがあり、質問したことがありました。
“なぜ、こんな風に1枚ずつ検査しているのですか?” “用紙は、辞書などに使われる紙で、例えば
小さなゴミが付いていたりすれば、もし「大」という文字の右上にあったり、中央の下にあったりすると、
文字そのものが異なったものになってしまうからです” そんな記憶がまざまざと思い出されたのでした。 

 小説が設定されているロケーションは、辞書ということから、会社は神保町にあり、下宿は春日、そして
結婚した相方 香具矢さんが営む割烹「月の裏」は、なんと神楽坂にあり、製紙会社本社は銀座にある・・など、
馴染の深い場所ばかりで身近に感じられました。 神楽坂・・狭い石畳の路地のどん詰まりに一軒家、
とか毘沙門天の横を通って、などとその辺界隈のイメージですが、先の「神楽坂研究(1)」からみると、
どのあたりの割烹か? あるいは、全くの架空のお店なのか? つまらない興味も出てきたりしました。

 3000ページに及ぶ、『大渡海』の完成祝賀パーティでの関係者の心境、苦労の末の完成の喜びと、その道程が
込み上げる思いは、それぞれ感動するものがありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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