正確な(精度の高い)時計が求められていました。
古代より、人々の活動には時刻を知ることや時間を計る(計測する)ことが必要であった。紀元前には、
すでに日時計が発明されていて、その後 各方面での研究や開発が進み、水時計、砂時計などが考案されて
きています。
15世紀頃から始まった大航海時代には、自船の位置を把握するため、精密な緯度や経度の測定法が
求められていましたが、緯度は天体の位置測定で容易に求められるようですが、正確な経度は測定困難
でした。 精度の高い振り子時計でも、海上では波の揺れの影響で機能しなかったのです。
1759年に、イギリス人 ハリソンにより、船上でも正確に時間を計測できる「クロノメーター」
(ゼンマイ式時計)が開発され、当時大英帝国は世界を主導する立場にありました。 グリニッジ平均時
(GMT)を見ても、時計による覇権の典型とみなせるのです。
時刻、時間は 人間の活動における基準の一つでもあり、人と人との活動やコミュニケーション(約束)に
おいて共通な基準を与えるものです。 卑近なところで、会合開始、終了時刻、列車の時刻表、時報、金融、
商取引などなどです。 そして、人々の活動が世界を舞台とする時代には、世界で共通の時刻の設定が
必要であり、また、計測における時間も、より正確性が求められてくるでしょう。
1960年代には、世界時(UT)が定められるようになり、時代の進展とともに、その制度の要求に応じ、
UT0~3と発展し、ついに1972年には「協定世界時」(UTC)が制定されることになるのです。
これらの時計の基になる1秒は 地球の自転を基に定義されてきているのですが、地球の自転は不安定で
ある上、潮汐摩擦の影響でだんだん遅くなっていることが判明しているのです。
一方、1950年代から開発が進められてきた、原子時計は 1967年の国際度量衡総会で、セシウム原子の
放射周期を基にした1秒が定義されたのです。 これは、10桁の精度を持つと言われますが、82年には
さらに18桁の精度の原子時計が開発されたとあります。
我々の良く知る、水晶振動子を用いた市販の「クオーツ」電子時計は、80年代から出現するのですが、
この精度は5桁程度ですから、上で述べた原子時計による電波を受信して自動修正する「電波時計」として
普及しているのです。 日常不要とも思える、原子時計の高い精度を追及して、一体何の役に立つのか?
などの疑問もあったかもしれませんが、これが大きな役に立つのですね。
アメリカ国防高等研究計画(DARPA)は、1978年原子時計搭載のGPS(全地球測位システム)を成功させ
ていますが、83年にはこれを開放して、今日のGPSカーナビやスマホなどの位置測定に役立っているのですね。
時計の精度を高める・・というのは、このような想像もつかないところに役立っているのです。
GPSは、ご存知のように、打ち上げられたGPS衛星のうち複数個の衛星を使った電波の受信時間差から
割り出して位置測定を行うシステムであり、この精度は時計の精度に依存するのですね。
スマホなどの応用例は、地図情報と連動した位置情報表示で、登山、フィールド、船舶、ゲームなど
多方面に広がっています。カーナビの利便性はよく知られているところですね。
この、時計の精度向上は、現在も世界で開発研究が進められていて、1989年には、「単一イオン時計」
(単一イオンの光遷移を観測)を実験的に完成させており、セシウム原子時計の10桁精度に比べ、
光震動を用いるとさらに精度は4~5桁向上することが出来たのです。 さらに、測定時に混入する
「量子ゆらぎ」の影響を軽減するために多数回の測定を行った平均を取ることによって、18桁の精度を
保ったのでした。 つまり、10日間を費やして、100万回測定を繰り返して得た結果なのだそうです。
ならば、「もし一度に100万個の原子を観測することが出来れば、たった1回、1秒の計測で18桁の振動数を
読み取ることができるだろう」との思いを込めて発明したのが「光格子時計」なのです。 しかも、
これは日本で発明されているのです。
香取秀俊氏(東京大学大学院教授・理化学研主任研究員 1964年生)は、2001年に提唱し、03年実験を
経て、05年に開発成功しています。2010年に発表した「光格子時計」は、原子を光の定在波に閉じ込めて
100万個の原子の同時観測を実現したのでした。そして、昨年、2015年香取氏らは、ストロンチウム光格子
時計2台を比較することにより18桁の精度を確認したと発表しました。 同年9月に行われた世界度量衡
委員会に於いて、世界7グループの測定結果の加重平均から16桁の1秒の定義が勧告されたのです。
香取氏が研究をする理研(埼玉県和光市、標高35.6m)で作った時計と、15km離れた東大(東京・本郷、
標高20.5m)で作った光格子時計と振り子の振動数を比べると、東大の振り子がわずかにゆっくり
振動する
のがわかり、『これは、重力が強い程 時間がゆっくり進む、アインシュタインの一般相対論的時間遅れ
からである。』と述べられ、『重力が強くなった分だけゆっくり進む時間を表示する。相対論的な
“時空”の歪が日常のスケールに顔をのぞかせ、時間を共有するための道具だった時計は、重力で歪んだ
時空間を探るツールに変貌する。』と述べられています。
「柔らかい時計」サルバドール・ダリ
( naverまとめダリ画像より)
これほど時計の精度を高めていったいどうする?かは、 かって、原子時計が発明されて、精度が高め
られてそれが、GPSなどへの発展を見るのと同じように、今後、さらに、GPS制度を阻む厚い大気擾乱の
影響を除外した超高精度な位置決定も可能となるだろうし、自動運転にも役立つだろう。
また、光格子時計がkm間隔のグリッド状に光ファイバーで繋がれば、地殻や地下水の変動、マグマだまりの
移動などが実時間で把握することもできるだろう・・と近い将来の夢を描かれています。 そして、
『20年後の社会インフラとして、まずIoC(Internet of Clock)が生まれているのではないか?
GMTで9時間も遅れを取った日本がGPSに代わる次世代相対論的時間インフラのテストベッドとして世界に
貢献するチャンスではないか。』と強い意気込みさえ見せられています。