伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

インターネット公売のすべて

2006-11-24 21:56:16 | 実用書・ビジネス書
 元東京都主税局職員・現ヤフー官公庁担当の著者が、税金滞納者から差し押さえた物のインターネットでの公売を推進した経緯を紹介し、積極的展開を薦める本です。
 税金(社会保険料も)というのは法律上最強の債権者で、滞納者に対しては裁判も裁判所の決定もなく、役所の一存で自宅や職場などに踏み込んで財産の差押えができます。
 著者はその権限をどんどん行使することを推進し、ヤフーと提携してインターネット公売をすることで税収の確保をすることを推進してきたのだそうです。そのいきさつの話は、まあおもしろいと言えばおもしろいですし、税金を滞納するのが悪い、滞納者を放置するのはまじめな納税者に申し訳ないという著者の言い分は、もちろん正論です。
 しかし、権力を持つ者が正義を振りかざしてやりたい放題に権力を行使する姿は、私にはとても共感できません。滞納者が協力しないからといって金庫を電気ドリルで破壊した(結局何も入っていなかった)話(52頁)や、差押え禁止財産以外は何でも持ってくる姿勢が重要だ(61頁)とか、差押え終了後は相手から何を言われても振り向かずに「何か言いたいことがあれば、明日、役所に来てください」と言って帰る(67頁)とか、ここまで言う?って思いますが。
 それにインターネット公売にしたって、役所は宝石とか本物かどうかは保証しません。参加者は役所が出品するってことで信頼していると思うんですけど。そのことはもちろん参加前に文書を読んで「同意します」のボタンを押してから参加するわけですが、そういう文書ってまじめに読む人、一体何人いますかねえ。それから、著者自身が言うように「せり売り方式ですと、落札額は必ずと言っていいほど市場価格より高くなります。・・・特に終了間際になると、値段がぐんぐん上がっていくため、自分でも気がつかないうちに熱くなります。」(78頁)というのに、それで落札してやっぱりやめた人から著者は厳しく公売保証金を没収しています(36頁)。もちろん、手続上それは適法なのですが、熱くなって冷静な判断ができずにしたことだと判断していることを、行政がそれを利用して稼いで、冷静になってやっぱりやめたというのを全く認めないというのは、行政のやり方として、私はかなり疑問に思います。


掘博晴 ぎょうせい 2006年9月25日発行
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古代エジプト 文明社会の形成

2006-11-24 21:51:05 | 人文・社会科学系
 エジプトの先史時代から古王国前半までの歴史を解説した学術書。
 必ず古代史から入って現代史に入れずに終わる日本の学校の世界史の実情を反映して、私は古代史が比較的好きです。古代エジプトも興味を持っています。それでも、こういう地道な学術書を通し読みするのはけっこうきつい。
 対象が古王国から新王国までの王朝よりも、その前に比重があって、ナカダ文化とか知らなかった時代と遺跡が語られているのは、勉強にはなりましたけど、やっぱり興味を持ち続けるのは厳しい。それよりももっと後の時代の記述で、「ファラオの墓」(竹宮恵子の漫画)のスネフェルって実在の(それも第4王朝のかなり有力な)王だったんだ、とかいうミーハーな発見に喜んでしまうのは不謹慎でしょうか。それとか古代エジプトの象形文字というか絵で、人物は髪の生え際(額)から足元までを18分割したグリッドを元に決まったプロポーション(地面から腰までが9、地面から脇の下まで14.5、地面から首まで16とか)で描かれていた(263頁、273頁)なんてことも興味深かったんですけど。
 古代エジプトの集落は日乾し煉瓦と植物で作られ(雨も降らないし地震もないからそれで十分)ナイル川の定期的な増水にあわせて集落自体移動するし集落跡はナイル川の増水で洗われてしまうため、集落の遺跡はほとんど発見されないそうです。その結果、ピラミッドなどの王や高官の墓の絵やレリーフ、副葬品などを手がかりにせざるを得ず、王権や王家の神話、王家や高官の生活が中心となります。古代エジプトの生活様式の考察もされていますが、庶民がそういう生活をしていたかは疑問ですね。
 著者は、エジプト文明はエジプトの人々の独自の発展と自主的な受容の結果で、西アジアからの文化の移植や伝播ではないとの立場のようですが、終章で論じられているように、エジプト文明への西アジア(メソポタミア文明)の影響については、議論があり決着を見ないようです。うーん、奥が深いけど、やっぱり素人にはわかりづらい。


高宮いづみ 京都大学学術出版会 2006年6月15日発行
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