伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

搾取される若者たち バイク便ライダーは見た!

2006-11-26 17:39:02 | ノンフィクション
 バイク便ライダーとしての稼働経験を元に若者が「やりたい仕事」に不安定雇用で従事したときにワーカホリックとなって企業に使い捨てられていく様子を論じた本。
 歩合制のバイク便ライダーは請負契約の形をとることで売上がなければ収入もゼロの最低賃金法以下で使われ、事故にあっても労災ではないとして自己負担が強いられるという厳しい条件で働かされています(24頁)。
 「13歳のハローワーク」などで巷に氾濫している「やりたいことを仕事に」ということでバイク好きがバイク便ライダーになったときには、仕事によってその趣味の内容が更新されて労働者の純然たる趣味の領域がなくなり、趣味でありかつ仕事であるバイク便の業務に没頭しワーカホリックになっていく(72~75頁、86~87頁)ということが著者の主張の根幹となる指摘です。

 そして最初時間給で入ってきたバイク便ライダーが歩合制を選択してワーカホリックになっていく原因は、配車係が元歩合給ライダーであること(力量を見切られて時間給では割が合わないように仕事を入れられる)、ユニフォーム(趣味のバイク乗りにはださく、バイクのパワーではなくすり抜け等での速さを誇りにするバイク便ライダーのプライドを支える)、時給から歩合給に転換できるが逆はできない一方通行のシステム(事故や病気で働けなくなったライダーは歩合給では食えないので辞めるほかなく結果として歩合でバリバリ働けるライダーしかいないので、時給で入った者には歩合給ライダーが格好良く見える)の3点にあると著者は論じています。著者は、会社は悪意でそうしているのではなく、誰が悪いのではない、職場のトリックだとしています(123~128頁)が、経営者側がそうしたことを全く意図していないというのは、私にはかなり疑問に思えます。

 バイク便ライダーの場合、交通事故のリスクや、排ガスによる呼吸器系の病気のリスクが大きくなりますが、著者も言うように「やりたいことを仕事に」した非正規雇用の若者が、雇用条件の不安定さへの不安と「やりがい」からワーカホリックになり健康を害していく危険は他の職種でも同じです。
 著者の指摘する「『13歳のハローワーク』に代表されるような無責任な自己実現を促す職業教育」(131頁)だけでなく、昨今の「規制緩和」の号令下に財界の言うままに労働条件の切り下げや非正規雇用の拡大を容易にし企業にやりたい放題にさせてきた政治の問題の解決こそが重要だと、私は思いますが。

 自分の経験部分というか社会学者としてのフィールドワーク部分を「体験型アトラクション」なんて書くセンスは読んでいて気恥ずかしいし、「処方箋」部分はあまりに貧弱ですが、本体部分はものすごく読みやすいし、問題提起としてかなりいい線行っていると思います。


阿部真大 集英社新書 2006年10月22日発行
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統計数字を疑う なぜ実感とズレるのか?

2006-11-26 17:34:28 | 人文・社会科学系
 各種の統計について、元にするデータの性質や算出方法によって様々なバイアスがあり、必ずしも実態を反映していないことを紹介する本。
 警察庁発表の交通事故死亡者の激減は24時間以内の死亡者だけを対象にしているため救急医療の進歩によって見かけ上減っている(4~6頁)、平均初婚年齢には結婚しない人が入っていないから実感より若くなる(47~48頁)、合計特殊出生率はその年の各年齢の女性の出産数だけで算出するので晩婚化が進んでいる時期には実態より低くなる(49~53頁)、「割れ窓理論」によるニューヨークの犯罪発生率の減少は実際には軽犯罪取締よりも景気の回復による部分が大きいのではないか(59~64頁)、消費者物価指数には上方へのバイアスがあり景気回復の判断に使うのには慎重であるべき(172頁~)などが論じられています。
 シンクタンクが発表する各種の「経済効果」の計算手法とその限界というかいい加減さ・無意味さや、各国が算出している経常収支がすべての国の経常収支を足すと大幅な赤字になるという不思議(理論的にはゼロにならなければならない。企業の海外収入の一部が申告されていないためではないか:166頁)、中国やインド、ロシアなどのGDPの精度への疑問など、経済問題を議論するときに当然の前提としている各種の数字がけっこう危ういものだという指摘は目からウロコでした。


門倉貴史 光文社新書 2006年10月20日発行
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現場で使える統計学

2006-11-26 17:30:55 | 実用書・ビジネス書
 営業や企画の仕事で統計学を使うための統計学の解説書。
 前半は平均や標準偏差などだけで、比較的簡単なものの組み合わせでもけっこう使えるということを論じています。後半では、少ないデータで仮説を立てて検証する際のやり方を論じ、統計学で文系の人間にはいやになる「仮説検定」を使う前にグラフの組み合わせ等を勧めた上で、仮説検定の説明もしています。
 仮説検定で出てくる「有意確率」って、問題にしている仮説の原因の変化が結果の変化と関係がない確率(因果関係があるという判断が間違いである確率)のことなんですね。つまり「これが原因だ」という仮説を立てた場合、有意確率が小さければ仮説が正しいと考えた方がいい。有意確率が大きければ仮説は間違いでそれは原因でないと考えた方がいい。言葉のニュアンスと逆ですよね、これ。

 統計学は使わなくてすむのなら使わない方がよいと「はじめに」で書いているように、仕事に使うという観点からは、統計はデータの要約だから必ず情報が捨てられるが捨てられる情報にこそビジネスヒントがあることが多い(18頁)とか、データは多ければいいとは限らず135名のデータなら要約前に元データを検討できその検討の上でのグラフと信頼できるが135万人のデータでは元データを見る気もしなくていきなり要約したものかも知れないからビジネスの現場では135名の結果の方がいいこともある(149~150頁)とか、統計の落とし穴の指摘もなされています。
 万能のように扱われがちの仮説検定(カイ二乗検定等)も、例えば有意確率がほぼゼロとなった仮説(結果の原因はこれと判断できた仮説)を原因と結果を逆にして検討すれば同じ結果となり、仮説検定自体では因果関係を確定できない(163~164頁)とか、仮説の前提部分(何が指標として重要か、何を判定基準とするか等)を崩されたら論証が崩壊する(171~172頁)など、統計学を用いた論証の限界(相手方の論証への反論方法)も紹介されていて、勉強になりました。


豊田裕貴 阪急コミュニケーションズ 2006年10月7日発行
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