バイク便ライダーとしての稼働経験を元に若者が「やりたい仕事」に不安定雇用で従事したときにワーカホリックとなって企業に使い捨てられていく様子を論じた本。
歩合制のバイク便ライダーは請負契約の形をとることで売上がなければ収入もゼロの最低賃金法以下で使われ、事故にあっても労災ではないとして自己負担が強いられるという厳しい条件で働かされています(24頁)。
「13歳のハローワーク」などで巷に氾濫している「やりたいことを仕事に」ということでバイク好きがバイク便ライダーになったときには、仕事によってその趣味の内容が更新されて労働者の純然たる趣味の領域がなくなり、趣味でありかつ仕事であるバイク便の業務に没頭しワーカホリックになっていく(72~75頁、86~87頁)ということが著者の主張の根幹となる指摘です。
そして最初時間給で入ってきたバイク便ライダーが歩合制を選択してワーカホリックになっていく原因は、配車係が元歩合給ライダーであること(力量を見切られて時間給では割が合わないように仕事を入れられる)、ユニフォーム(趣味のバイク乗りにはださく、バイクのパワーではなくすり抜け等での速さを誇りにするバイク便ライダーのプライドを支える)、時給から歩合給に転換できるが逆はできない一方通行のシステム(事故や病気で働けなくなったライダーは歩合給では食えないので辞めるほかなく結果として歩合でバリバリ働けるライダーしかいないので、時給で入った者には歩合給ライダーが格好良く見える)の3点にあると著者は論じています。著者は、会社は悪意でそうしているのではなく、誰が悪いのではない、職場のトリックだとしています(123~128頁)が、経営者側がそうしたことを全く意図していないというのは、私にはかなり疑問に思えます。
バイク便ライダーの場合、交通事故のリスクや、排ガスによる呼吸器系の病気のリスクが大きくなりますが、著者も言うように「やりたいことを仕事に」した非正規雇用の若者が、雇用条件の不安定さへの不安と「やりがい」からワーカホリックになり健康を害していく危険は他の職種でも同じです。
著者の指摘する「『13歳のハローワーク』に代表されるような無責任な自己実現を促す職業教育」(131頁)だけでなく、昨今の「規制緩和」の号令下に財界の言うままに労働条件の切り下げや非正規雇用の拡大を容易にし企業にやりたい放題にさせてきた政治の問題の解決こそが重要だと、私は思いますが。
自分の経験部分というか社会学者としてのフィールドワーク部分を「体験型アトラクション」なんて書くセンスは読んでいて気恥ずかしいし、「処方箋」部分はあまりに貧弱ですが、本体部分はものすごく読みやすいし、問題提起としてかなりいい線行っていると思います。
阿部真大 集英社新書 2006年10月22日発行
歩合制のバイク便ライダーは請負契約の形をとることで売上がなければ収入もゼロの最低賃金法以下で使われ、事故にあっても労災ではないとして自己負担が強いられるという厳しい条件で働かされています(24頁)。
「13歳のハローワーク」などで巷に氾濫している「やりたいことを仕事に」ということでバイク好きがバイク便ライダーになったときには、仕事によってその趣味の内容が更新されて労働者の純然たる趣味の領域がなくなり、趣味でありかつ仕事であるバイク便の業務に没頭しワーカホリックになっていく(72~75頁、86~87頁)ということが著者の主張の根幹となる指摘です。
そして最初時間給で入ってきたバイク便ライダーが歩合制を選択してワーカホリックになっていく原因は、配車係が元歩合給ライダーであること(力量を見切られて時間給では割が合わないように仕事を入れられる)、ユニフォーム(趣味のバイク乗りにはださく、バイクのパワーではなくすり抜け等での速さを誇りにするバイク便ライダーのプライドを支える)、時給から歩合給に転換できるが逆はできない一方通行のシステム(事故や病気で働けなくなったライダーは歩合給では食えないので辞めるほかなく結果として歩合でバリバリ働けるライダーしかいないので、時給で入った者には歩合給ライダーが格好良く見える)の3点にあると著者は論じています。著者は、会社は悪意でそうしているのではなく、誰が悪いのではない、職場のトリックだとしています(123~128頁)が、経営者側がそうしたことを全く意図していないというのは、私にはかなり疑問に思えます。
バイク便ライダーの場合、交通事故のリスクや、排ガスによる呼吸器系の病気のリスクが大きくなりますが、著者も言うように「やりたいことを仕事に」した非正規雇用の若者が、雇用条件の不安定さへの不安と「やりがい」からワーカホリックになり健康を害していく危険は他の職種でも同じです。
著者の指摘する「『13歳のハローワーク』に代表されるような無責任な自己実現を促す職業教育」(131頁)だけでなく、昨今の「規制緩和」の号令下に財界の言うままに労働条件の切り下げや非正規雇用の拡大を容易にし企業にやりたい放題にさせてきた政治の問題の解決こそが重要だと、私は思いますが。
自分の経験部分というか社会学者としてのフィールドワーク部分を「体験型アトラクション」なんて書くセンスは読んでいて気恥ずかしいし、「処方箋」部分はあまりに貧弱ですが、本体部分はものすごく読みやすいし、問題提起としてかなりいい線行っていると思います。
阿部真大 集英社新書 2006年10月22日発行