伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

恋人たち

2008-07-20 16:13:55 | 小説
 子どもの頃ベランダから飛んで右足が重くなる発作の後遺症を持つイラストレーター瀬川彩夏と15歳年上の広告代理店勤務の大貫さん、自損事故で視力と恋人を失った舞子と同乗していた舞子の恋人の友人恭一の2組のカップルが、彩夏が舞子に絵のモデルを頼んだことから絡んでいく恋人たちの日々を綴った小説。
 2組のカップルの絆は緩やかで(どちらも結婚は予定していない)揺らぐように見えて揺らがない、それぞれの中で絆を確かめ深めていく様子が、1話ごとに彩夏と恭一の視点で語られていきます。
 絵画とグルメっぽい小洒落た優雅な生活に、時折不安を感じつつも今の生活を肯定的にかみしめていく、安心感のあるお話です。長くこんな洒落た関係が続けられるかという疑いと羨望がおおかたの読後感になるでしょうけど。
 作品を通じる感覚が、マチスの絵を題材にしているように、カラフルでぺったりとした色彩で、それが楽しそうに見えます。私はマチスって昔から苦手なんです(はっきり言って巧くない絵は苦手です)が、美術としてでなく生活のシンボルないしアナロジーとしてはいいのかもなんて思ってしまいました。


野中柊 講談社 2008年5月27日発行
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あなたの呼吸が止まるまで

2008-07-20 12:11:01 | 小説
 舞踏家の父親と2人暮らしの小6少女朔ちゃんの父子関係、友だち関係、そして信頼を寄せた大人との関係とその裏切りを描いた青春小説。
 赤字を出しながら舞踏の公演を続ける父とともに母親に見捨てられて大人びた朔ちゃんが、優しいし朔ちゃんを認めてくれるけど舞踏のことになると朔ちゃんのことも忘れてしまう父や周辺の大人たちに寄せる思いと視線が、温かでしかし切ない。そして自分の思ったことをはっきり言い妥協しない同級生鹿山さんとの友情と憧れ、優しいけど事を荒立てたくなくて完璧な嘘をつこうとする田島君との友情、とりわけ孤立しても凜として最後には意地悪な同級生も圧倒していく鹿山さんの存在感と最後まで続く朔ちゃんとの友情が、暖かい。
 朔ちゃんを大人扱いしてくれて、それがうれしくもあり信頼を寄せていた父の友人の男性に裏切られ性的な行為を強要されて傷ついた朔ちゃんを、あからさまなうちひしがれた様子ではなく、精神的に深いダメージを受けてまわりにはどこか変と思われつつも気づかれないという状態で描いているところが作者の問題意識を示していると思います。朔ちゃん、かわいそう(T_T) でも、あからさまに相談することなく、父親との関係や友人との関係に精神的に支えられながら、自分で自分なりにけりを付けていく朔ちゃん。まだこれからの闘いが予想されますが、朔ちゃんの意志とそれを支えてくれる人間関係が、少し明るい展望を見せてくれます。がんばれ朔ちゃんって気持ちで、切ない読後感です。


島本理生 新潮社 2007年8月30日発行
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