伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

女のからだ フェミニズム以後

2014-05-07 00:44:39 | 人文・社会科学系
 中絶の権利・自由/産む・産まないの自己決定権のために闘い、女のからだについての認識・知識を広め深める運動を続けてきたアメリカと日本のフェミニズムの運動の経過を紹介し、近年の体外受精・代理出産などの生殖技術とフェミニズムの関係を論じる本。
 アメリカでは女性の自由が早期に確立されたような印象がもたれがちですが、大学(カレッジ)の学生の女子の割合は1920年には男子学生の47%だったものが1958年には35%に減少したことが紹介され(20~21ページ)、衝撃を受けました。1973年のロウ対ウェイド事件最高裁判決で中絶の権利が認められるまでの中絶を巡る運動の厳しい状況やその後も執拗に続く保守層による反撃・中絶実施クリニックへの焼き討ちなどの様子は、よく語られていますが、中絶非合法時代の1960年代にシカゴで匿名の女性たちが中絶希望者に寄り添いからだについての知識を普及・共有しながら、公然の秘密状態で中絶を実施してきた「ジェーン」の運動の紹介(55~64ページ)にはいろいろと考えさせられました。他の点では法を守る「普通の」女だったジェーンたちが中絶を必要とする目の前の女たちを助けるためには法を破ること、さらには医師だけの特権とされていた技術を自分のものとし、行使することをためらわなかった(64ページ)という記述には、少し胸が熱くなります。法とは何か、どのような場合にどのように法と闘うべきかは、いつも難しい問題ではありますが。
 中絶が禁止され、その自由化が獲得目標であり自由化後も保守派の反撃と闘い続けなければならないアメリカのフェミニズムに対し、「優生保護法」により戦後すぐに中絶が事実上自由化されており中絶問題の議論や保守派からの規制強化の動きが障害者の選別排除と絡められてきたが故に障害者団体から障害者選別排除を許してよいのかという問題を突きつけられてきた日本のフェミニズムの問題意識の違いと、その歴史的経過と問題意識が現在の生殖技術に対する評価・対応に影響しているという指摘には、なるほどと思うところもあります。私には、代理出産など、どう言い繕っても貧しい女たちに体を売らせ搾取するビジネスだと思えるのですけど。


荻野美穂 岩波新書 2014年3月20日発行
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