福島原発1号機で水素爆発が起きた翌日に勤務先の労働安全衛生総合研究所に辞表を出して福島入りして放射線測定を続けている著者が見た汚染と住民の対応、行政や「専門家」の対応などをレポートした本。
二本松市を拠点に、「正確なデータを取り、そこから得られた情報をわかりやすく伝えることが私の使命である」(21~22ページ)と放射能汚染地図を作成し続ける著者の立場からなされる、その対極にあるとも言える情報を隠し続けまた歪曲する行政の姿勢への指摘が目を引きます。
2013年6月5日に発表された県民健康管理調査の事故当時18才以下の甲状腺検査結果は17万4376人を検査した結果甲状腺癌が12人、甲状腺癌の疑いが15人とされているが、それは誤りで、大きな結節や嚢胞が発見されたり甲状腺の状態から2次検査が必要とされた人が1140人いるのに2次検査を受けたのはそのうち421人、2次検査の結果が出た人は383人に過ぎず、2次検査の結果が出た人のうち細胞診を受けた人が145人で、その細胞診受診者の中で甲状腺癌が確認されたのが12人、疑いがあると診断されたのが15人、つまり2次検査を受けていない人の方が多い状態だから17万4376人中の甲状腺癌が12人かどうかはまったくわかっていない(2次検査が必要な人が全員2次検査を受ければ甲状腺癌はもっと増えるはず)、それなのにこういう発表をするのはおかしい(40~46ページ)。双葉町のモニタリングポストのデータを見ると、1号機の爆発より前に空間線量率の大きな山が3つ見え、放射能の放出があったが住民にはまったく知らされていなかった(68~71ページ)。2013年7月6日にICRP(国際放射線防護委員会)が開催した飯舘村民との対話集会で代表発言者の飯舘村民のうち一人が不審に思って「参加者の中で本当に飯舘村民の方は何人いらっしゃいますか」と挙手を求めたところ手を挙げたのはわずかに1人でそれも他の村の代表発言者の妻で、関係者以外で聞きつけて参加した村民はゼロだったが、ICRPはホームページ上であたかも村民と十分に対話しさまざまな村民たちが帰還を望んでいるかのような報告を掲載している(142~143ページ)。
放射能への危機感の薄れや疲れが広まり、二本松市では内部被曝が検出された人の割合は2013年4月、5月で増加している。2013年3月までは毎月平均3%だったのに、2013年4月は5.8%、5月は5.5%と急に高くなった。問診に当たっている技師の話ではほとんどが山菜の影響だという(131~133ページ)。チェルノブイリ原発事故による精神的影響を追い続けるウクライナ放射線医学研究センターのコンスタンチン・ロガノフスキー教授(精神神経学)は「福島で起こったことでどのような心理的影響が考えられるかと言いますと、まずはPTSDです。それは特別な形になると思います。今回の原発事故によるものは、ベトナム戦争やイラク戦争など戦争によるものとは大きく違います。戦争の場合、過去の経験に何度も気持ちが戻っていきますけれども、原発事故の場合は、未来に対する不安、子どもたちに障害が起こるのではないかといったことを生涯考えるわけです。この違いが、精神科医あるいは心理学者、カウンセラーが注目しなければならない点です」と述べ、チェルノブイリ原発事故被災者の「フラッシュフォワード」という心理的な現象、強いトラウマ体験によって過去を思い出す「フラッシュバック」ではなく、将来への不安やおそれによるストレス状態が見られるとしている(190~193ページ)。
タイトル通りの「放射能汚染地図」そのものの話は必ずしも多くはありませんが、地域と住民の生活と客観的データにこだわる立場からの指摘に、頷かされるところの多い本です。
木村真三 講談社 2014年2月27日発行
二本松市を拠点に、「正確なデータを取り、そこから得られた情報をわかりやすく伝えることが私の使命である」(21~22ページ)と放射能汚染地図を作成し続ける著者の立場からなされる、その対極にあるとも言える情報を隠し続けまた歪曲する行政の姿勢への指摘が目を引きます。
2013年6月5日に発表された県民健康管理調査の事故当時18才以下の甲状腺検査結果は17万4376人を検査した結果甲状腺癌が12人、甲状腺癌の疑いが15人とされているが、それは誤りで、大きな結節や嚢胞が発見されたり甲状腺の状態から2次検査が必要とされた人が1140人いるのに2次検査を受けたのはそのうち421人、2次検査の結果が出た人は383人に過ぎず、2次検査の結果が出た人のうち細胞診を受けた人が145人で、その細胞診受診者の中で甲状腺癌が確認されたのが12人、疑いがあると診断されたのが15人、つまり2次検査を受けていない人の方が多い状態だから17万4376人中の甲状腺癌が12人かどうかはまったくわかっていない(2次検査が必要な人が全員2次検査を受ければ甲状腺癌はもっと増えるはず)、それなのにこういう発表をするのはおかしい(40~46ページ)。双葉町のモニタリングポストのデータを見ると、1号機の爆発より前に空間線量率の大きな山が3つ見え、放射能の放出があったが住民にはまったく知らされていなかった(68~71ページ)。2013年7月6日にICRP(国際放射線防護委員会)が開催した飯舘村民との対話集会で代表発言者の飯舘村民のうち一人が不審に思って「参加者の中で本当に飯舘村民の方は何人いらっしゃいますか」と挙手を求めたところ手を挙げたのはわずかに1人でそれも他の村の代表発言者の妻で、関係者以外で聞きつけて参加した村民はゼロだったが、ICRPはホームページ上であたかも村民と十分に対話しさまざまな村民たちが帰還を望んでいるかのような報告を掲載している(142~143ページ)。
放射能への危機感の薄れや疲れが広まり、二本松市では内部被曝が検出された人の割合は2013年4月、5月で増加している。2013年3月までは毎月平均3%だったのに、2013年4月は5.8%、5月は5.5%と急に高くなった。問診に当たっている技師の話ではほとんどが山菜の影響だという(131~133ページ)。チェルノブイリ原発事故による精神的影響を追い続けるウクライナ放射線医学研究センターのコンスタンチン・ロガノフスキー教授(精神神経学)は「福島で起こったことでどのような心理的影響が考えられるかと言いますと、まずはPTSDです。それは特別な形になると思います。今回の原発事故によるものは、ベトナム戦争やイラク戦争など戦争によるものとは大きく違います。戦争の場合、過去の経験に何度も気持ちが戻っていきますけれども、原発事故の場合は、未来に対する不安、子どもたちに障害が起こるのではないかといったことを生涯考えるわけです。この違いが、精神科医あるいは心理学者、カウンセラーが注目しなければならない点です」と述べ、チェルノブイリ原発事故被災者の「フラッシュフォワード」という心理的な現象、強いトラウマ体験によって過去を思い出す「フラッシュバック」ではなく、将来への不安やおそれによるストレス状態が見られるとしている(190~193ページ)。
タイトル通りの「放射能汚染地図」そのものの話は必ずしも多くはありませんが、地域と住民の生活と客観的データにこだわる立場からの指摘に、頷かされるところの多い本です。
木村真三 講談社 2014年2月27日発行